校長の演説
間もなく、壇上に校長が姿を現した。相変わらず実年齢が70歳とは思えない外見だ。
「文化祭の準備で忙しい中、集まってくれてありがとう」
校長の話は俺達へのねぎらいの言葉から始まった。
「これからみんなにある報告をしなければならない。こんな時期に君たちの耳に入れるかどうかは先生の間でも意見が分かれたが、私はすぐにでも伝えるべきだと思った。どうか落ち着いて聞いてほしい」
校長は落ち着けと言ったがそれは逆に生徒たちの興味を誘ったようで、体育館は少しざわめきに包まれた。教員たちが静かにしろと声を上げる。館内が静まると校長は続きを話し始めた。
「この度、我が校の教員の中で罪を犯した者が発覚した」
静まったと思われた体育館は再びざわめきに始めた。先ほどよりも圧倒的に多くの生徒が声は発している。
「な~んか雲行きが怪しくない?」
「罪を犯したってことは逮捕されたってことなのかな?」
「……」
校長の行っていることの意図がわからなかった。推測ではあったが校長は教頭の後ろ盾であったはずだがそうではなかったのだろうか? それとも校長はあっさりと教頭を切り捨てた、ということなんだろうか? 仮にそうだとしても生徒を集めた意図は何か? 事を公にした後、謝罪文でも印刷して生徒に持たせれば済むことだ。今ここで説明してしまっては生徒の口から親へ伝わるはずだ。そうなれば学校側への批判の声が次々とやってくることになるだろう。
今度は教員たちの制止も効果がなく、生徒の声が止むことはなかった。そんな中で校長は更に話を続けた。
「誰がしたかということは今は教えることはできないが、早ければ明日記者会見を行う予定だ。その会見を見てくれればわかるだろう。迷惑をかけた者もいるだろうが―――」
(なん、だよ……)
湧哉は心臓が止まるかと思った。校長はまっすぐ湧哉を見据えていた。言葉を切った一瞬校長の口元が吊り上がる。おそらく気が付いた者はほとんどいないだろう。だが湧哉の目は確かにそれを捉えていた。
「―――その者たちには本当に申し訳なかった! ここで謝罪させてほしい!!」
壇上の校長が頭を下げた。あまりのことに体育館は再び静まり返る。二度目の静寂。これは校長が頭を挙げるまで続いた。
「そして文化祭には影響の出ないようにすることを約束しよう」
臨時集会はそれにて閉会した。
教室に戻る生徒たちの会話からは校長を賛美する声も聞こえてくる。
だが、湧哉には全くそうは思えなかった。何とかして教頭の悪事をあぶり出したが、それさえも校長は自分の糧にしてしまったのだから……。