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旧校舎

 湧哉が教室まで戻ってきた。教室内はがやがやとしていたが湧哉が教室の扉を開けると一瞬、シーンと静まり返った。クラス中の視線が湧哉に集まるが姿を見ると各々の作業に戻っていった。

 自習になったことを伝えるために湧哉は黒板に大きく『自習』と書いた。クラスメイトが見ているかどうかはわからないが。

 湧哉が席に着くとやはり結が声を掛けてきた。

「なんで自習になったの?」

「さあ? なんでだろうな……」

 自習になった訳を問われたが咄嗟に言葉を濁した。

 教頭と話していると本当のことを話してもよかったのだろうが、なぜかそのまま言う気にはならなかった。

「聞いてないわけ? あの奥崎先生が授業に来てないんだよ? 気にならなかったの?」

「だからわからないって」

「ちぇ……」

 何を期待していたのか結はふて腐れると席を立って他の者と話しに行ってしまった。

 話しかけられる相手もいなくなったので昼寝でもしようかと思ったのだが、空いた席に今度は悠が座り込んだ。

「ハタハタ~」

「なんだよ」

「暇なんだけど」

「仮にも授業中だぞ……。予習でもしてろよ」

「別に今しなきゃいけないこともないし。それに、予習しろなんてハタハタには言われたくない」

「……」 

 悠はたいがいのことは何をやらせてもうまいことやってのけてしまう。できないことは運動ぐらいだ。それでも体系にしては動ける方なのだが。成績は学年でトップで、テストではほぼ満点をたたき出す。それでも本人は自分のことを大げさには語らない。うぬぼれてもいなければ謙虚でもない。自分のできることはできる、できないことはできない。それだけだった。

「ハタハタ~暇なんだよー」

「……っ」

 正直なところめんどくさいと思ってしまうのだが追っ払おうにも相手が悪い。悠は何を言っても正論で言い返してくる。何も考えずに口を開けば負けるの自分なのだ。

 湧哉は話題を変えることにした。

「なあ、旧校舎についてなんか知ってることってある?」

「旧校舎?」

 少し気になっていたということあって旧校舎について問うた。しかし、さすがの悠も単なる一生徒だ。湧哉もそれほど期待してはいなかったのだが―

「知ってるよ」

「なに!?」

―なんと知っていた。

「二年前に取り壊されたやつでしょ? 一個上の先輩たちまではそっちに通ってたんだよね。僕たちの代で知ってる人は少ないだろうけど結構いい校舎だったんだよ。古いけど歴史があってさ。個人的なことを言うなら旧校舎の方が好きだったかな。ただ、建ってる場所があんまり良くなかったんだよね。駅からは遠いし周りにはお店もない。グラウンドも少し離れたところにあったしね。いろいろと不便だったみたいだよ」

「なんか詳しいな」

「地元だからね」

「そういやそうだった。それじゃあ立地条件が悪いからこっちの校舎に移転したってことなのか?」

「……まあそんなところかな。でも、校舎の取り壊しにはこの辺に住んでる人も驚いてるみたい。昔あの校舎に通ってた人も多いからさ」

「取り壊しには賛否両論ってことだったんだな」

「うん。僕もあの校舎に通いたかったんだけどね……」

 悠は笑顔でそう言ったがどこか寂しそうだった。

「跡形もなくなっちゃたんじゃ仕方ないけどさ、お前が通いたかったその校舎、俺も見て見たかったな」

「跡形もっていうのはちょっと語弊があるかな。それなりに歴史があるものだったからね。これも知っている人が少ないけど校舎の一部は記念館としてまだ残ってる。そこに写真もあるからどんな校舎だったかは見れるよ」

「まだ残ってる……?」

 湧哉の中で点と点だったものが繋がった。既にないと思っていた旧校舎。だが、それの一部がまだ残っているという。揉め事の種はこれである可能性が高い。

「それってどこにあるんだ?」

「駅と真逆の方向かな。結構距離あるけど歩いて行けなくもないよ。案内しようか?」

 突然の誘い。

 もちろん、言った通り興味はあった。行けば奥崎の目的に繋がる何かがわかるかもしれない。

 だがそれだけではなかった。悠の表情だ。先ほどまでと違い案内を言い出した時の顔は実に嬉しそうだった。悠がそこまで思う旧校舎とはどんなものなのか。それが知りたかったのだ。

「……せっかくだし、行ってみるか」

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