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百物語。  作者: 日曜
6/9

六話 丁字路

「えー、もう俺の番? やべー、全然話できてねーよ。


 え?


 作り話じゃダメだろって? え、なに? じゃあお前等、今までの話、全部マジ? いやいやいや、絶対ないね。だってそれ、おかしーじゃん。お前等全員、霊能力者かよ? 普通、そんなユーレー話なんてもってねーでしょ? いや、一部幽霊じゃないし、さっきのなんて全然怖くない話だったけどさ……。

 えー、ないない。怖い話とか、全然ないって。俺、霊感ないし。


 あ。


 …………。いや、なんでもねー。え? なにか、思い当たる節あったんだろって? いや、でもこれ、別に幽霊話じゃねーし……。いや、怖い話ではあるんだけどさ……。そうか? なら、聞いたあとで、怪談じゃねーとか文句言うなよ?


 俺が中学時代に使っていた、通学路の話だ。


 そこはよく言う、いわくつきの場所ってやつで、しょっちゅう人身事故が起こる丁字路だったんだ。いや、マジでしょっちゅう起こってて、何度かその道使うなって親とか先生に言われてた。でも、やっぱりその道の方が近いし、生意気な中坊だった俺は、そういう人生経験豊富な先達の言葉を、あまり重く受け止めてなかったんだ。


 そこは、登校時や昼間はそうでもないんだが、下校時は嫌な感じの雰囲気が漂いだす、変な場所だった。夕方って事を差っ引いても、下校時間はかなり薄暗くなるんだよ。そこ以外の場所は、普通の夕暮れって感じなのに、そこだけは一気に夜になったかのように暗くなる。まるで、別の世界に迷い込んだかのような、おどろおどろしい雰囲気の場所だった。

 原因としては、西側が鬱蒼とした林になってて、西日が差し込まない道だったからって今ではわかるんだけどな。ただ、その林もなぁ……。ただ暗いだけならまだいいんだが、乱立する木々の枝の隙間から、赤だの紫だのになりかけた、夕焼け空が覗いているんだ。まるで、無数の目がこっちを見てるみてーな? まぁこれは、俺が感じてただけかもしれねーけど。

 東側は普通の民家がずらっと並んでた。その内二軒の間に私道があって、林側が丁字の一画目の感じの丁字路だった。で、本当に年がら年中人身事故があるから、林側の道には花束だのお菓子だのが供えてあった。……本当、いやぁーな感じの場所なんだよ。いかにも出そうな、薄暗くて、カラスなんかも鳴いてるような。


 雰囲気あるって? そりゃそうだ。だからこそ、この話はこえーんだから。


 で、その日もいつも通り、学校帰りに俺は、その道を歩いてたんだ。

 いつも通り、いやな薄暗い道だ。カラスがカーカー鳴いてたのを、今でも覚えている。薄暗い道を、トコトコと歩いていた俺は、行く先にそれがあるのを見つけた。

 いや、別におかしなものがあったわけじゃない。いつもあったし、なんならその日の朝、そこを通ったときもあった。そんな、いつもそこにあるものが、いつも通りそこにある事に気付いた俺が、そのときはなんだか嫌なものを覚えた。そして、それがあるそっちではなく、反対側の道に移ろうとしたんだ。民家の塀がある方にな。

 したら、急に民家の影から車が飛び出してきて、盛大にクラクション鳴らして、急ブレーキ。運よく、ちょっと尻餅ついただけだったけど、あわや大惨事って状況だ。それ以降、ウチの母ちゃんがそこにお供え物をしなくてよかったのは、完全に運が良かっただけだった。

 車? 俺にたいした怪我がないとわかったからか、それとも単に逃げたのか、すぐに発進して俺の視界から消えてった。俺も、ナンバー覚えるとかできなくて、結局その後そのドライバーがどうなったかは知らない。で、クラクションの音が盛大に鳴り響いたからか、周りの家からもわらわらと人がでてきたんだよ。近所のおばちゃん連中だな。

 まぁ、ホントその道では事故なんてよくある事だったから、通報やら応急処置やらで、手慣れてたんだろうな。おばちゃん連中に『大丈夫、どこか痛くない?』『すぐは痛くなくても、怪我してる事があるから』『轢き逃げなんて許さない!』って親身になって心配してくれた。まぁ、接触そのものはなかったんだけどな。後々警察に聞かれたときも、碌な情報を渡せなかったな。

 んで、一応って事で救急車で運ばれる事になった。まぁ、起こった事件らしい事件は、これで終わりだ。


 え? なにか他にもあんだろって?


 なにを見て、道を変えたのかって? そりゃあ、いつもそこにあったお供え物(・・・・)だよ。俺はな、いつもそこにあったお供え物を、その日はなんとなく気味悪がって、反対側の道に移ろうとしただけ。そう、紛う事なきただの事故だ。


 じゃあ、この話のなにが怖いかって? ああ、ちゃんと説明する。なぜなら、救急車に乗って運ばれる途中で俺は、なんであの道で事故がひっきりなしに起こるのか、気付いちまったんだよ。


 西に向いている道は車を運転する側からしたら、西日が差している。無論、直射日光を直接眺めながら運転するわけねーが、正面から夕日が差していた状況から、いきなり林の影に入るわけだ。薄暗い道にも目が慣れてねーし、西日だとなんだかんだで軽く見ちゃうって事はあるんだろうさ。なにより、重く見てサングラスとかしてたら、もっと目も当てらんねーしな。なんだっけ? 逢魔が時っていうんだろ、こういうの? それに、塀側の道は右左折どちらに曲がっても、内輪側だしな。ドライバーからしたらただでさえ見えづらいってのに、よりにもよって道を変えてる最中の歩行者は道路のど真ん中にいる。

 歩行者にとっても、林側にお供え物があるせいで、ついつい塀側の道を使いがちになる。薄暗くて、いかにもな雰囲気の場所に、そんなお供え物なんてあったら、嫌な感じを受けるのも仕方ないだろ? 白線もない狭い私道だから見晴らしも悪いし、塀側は右左折どっちに曲がっても内側だからな。ついつい、反対側の道を使いたくなるのも、無理からぬってやつだ。

 かといって、民家の塀に勝手にお供え物をするわけにもいかない。そこの家の住人も嫌だろうしな。例え、林側ではなく、民家の塀側で人が死んでも、お供え物を供えるのは、林側になるってわけだ。すると、やはり嫌な気分になったやつは、道を変えて塀側に移る。

 で、その道を変えるタイミングがバッチリ合っちまうと、運転者側からは見えないところから、突然歩行者がでてくる事になる。俺だって、もう少し早かったり遅かったりしたら、どうなってたかわかんねー。


 あー……、つまりな?


 その道、お供え物(・・・・)があるせいで(・・・・・・)事故が(・・・)起こりやすく(・・・・・・)なっているんだよ。


 事故が起こりやすいから、お供え物があるんじゃなく、お供え物があるせいで、事故が起こりやすくなっているんだ。だからって、人死にがあったのに、その遺族や友人たちに、『お供え物をしたらそのせいでまた人が死ぬかもしれない』なんて伝えても、角が立つだけの憶測でしかない。証拠はないし、絶対そうなるって事でもない。

 俺だって、普段その道使っていても、たまにしかそのお供え物の事を気にしなかったし、道を変えたのもなんとなくだ。そこに、運悪く車が通ったのだって、たまたまでしかない。だから、そうなる可能性があるってだけで、そうなると決まってるわけじゃねーんだ。ただ、そのごく普通の〝たまたま〟が重なれば、事故にあう可能性が、ぐっと高くなる場所ってだけの話だぞ。

 お供え物をする。

 夕方に車が通る。

 通行人が道を変える。

 そんな条件が揃うだけで、いつかは事故が起こるんだから、そりゃあ事故多発地帯にもなる。十回中九回なにもなくても、一回起これば大事件だ。十年くらいなにもなければ、もうお供え物もなくなって、事故も減ると思うんだけど、事故が起こるからお供え物もなくならないし、お供え物がなくならないから事故だってなくならない。


 だから、もし今でもあそこで人死にが出続けるかぎり、事故は続いているはずだぜ?


 まぁ、そういう構造の道って、別にそこだけじゃねーと思うんだよな。日本全国津々浦々、探せばいくらでも出てくると思う。構造的、心情的な理由で事故が起こりやすい場所ってやつ? 事故が起こりやすいって聞いて、なんかしらの心霊現象と結び付けたがる連中は多いけど、その前に、本当にそれ以外の可能性がないかを考えるのも必要だと思うぜ。幽霊がいるから事故が多いのか、事故が多いから幽霊がいるのか、なんてな?まぁ、いたところで俺に霊感なんてねーんだけど。


 これは幽霊とかお化けとか、神様とかがでてこねー、よくある普通の人間たちが起こした、人為的な怖い話。やっぱり最後は、一番怖いのは人間だって〆たいところだが、どっこいこの話にはまだ続きがある。


 病院に駆け付けた母ちゃんと担任教師が、俺の無事を知って安心したのもつかの間、すぐさま説教タイムに突入。なんで、あんな薄暗くて狭い道を通ったんだと、般若よりもおっかねー顔で説教しつつ、拳骨落とされたんだ……。あれは、本当に怖かった……。幽霊なんざメじゃねーぜ。


 お前等も、人生経験豊富なお歴々の言葉は、ちゃんと聞いとけよ?」

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