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百物語。  作者: 日曜
3/9

三話 綾取り

 「これは、家の田舎の話なんだけど。


 何て言うか、もうすんごいド田舎で、ジジババばっかりの場所だったんだ。だからって訳じゃないんだけど、結構迷信深くてね。神事、祭事も結構厳格にやってたの。


 で、ジジババばかりだからか、そのジジババのジジババから聞いたような『おまじない』がたまに流行ったりしてたんだけど、そういう『おまじない』みたいなのの1つに『あや取り様』ってのがあったのよ。


 いわゆる、縁結びの神様に頼る、恋愛成就のおまじないね。ただ、色々と細かいルールがあるの。


 大枠のルールは、『あや取り様』にお願いするときは、赤いあや取りと、失恋話を奉納すること。


 赤以外のあや取りは、絶対に奉納しちゃダメなんだって。それと、失恋話の相手との復縁、みたいな話は無理なの。それとは別の、全く新しい恋のお願いをしないといけないの。




 これがねー、やたらと上手くいったのよ。

 『あや取り様』にお願いにいった女の子は、その大半が想い人と恋人同士になったり、そうじゃなくてもとっても仲良くなったりってね。


 うん、実はこれ流行らせたの、私なんだ。私がお祖母ちゃんから聞いた話を、そのまま皆に伝えたの。


 それからは『あや取り様』ブームよ。

 『あや取り様』が祀られていた神社には、赤いあや取りの山が出来る程だったんだから。




 怖くない?

 まぁまぁ、まだ続きがあんのよ。




 でね、ここでは仮にA子って呼ぶんだけど、ある日そのA子が家を訪ねてきたのよ。

 突然の訪問だったけど、ろくな娯楽もない田舎だったから、放課後に友達の家に行くのは珍しくもなかったし、私も別に気にしなかったんだ。

 A子の家は父子家庭でね、お父さんは車で1時間以上もかかるような離れた町で働いてて、帰りも遅いから家でご飯を食べていくように言ったわ。


 明るい子でね、クラスでは男女問わず人気者だったの。


 2人で遊んで、お喋りして、夕御飯を一緒に食べて、お祖母ちゃんと『あや取り様』の話なんかして、そしてA子は帰って行ったわ。


 次の日、A子のお父さんが亡くなったの。


 急性心不全とかいうのでね。たまたまA子の家にいた、お父さんの会社の偉い人が救急車呼んで、結構大きな騒ぎだったのよ?


 それでね、A子は施設に入るために学校を転校したの。


 それだけよ。

 え?


 『あや取り様』はなんだったのかって?

 うーん………、できればこれ、話したくないんだけど………。


 A子のお父さんが亡くなる前の日に、A子が訪ねてきたって言ったじゃない?

 で、お祖母ちゃんと『あや取り様』の話をしたとも言ったわよね?

 その時お祖母ちゃんが言ってたのよ。


 『あや取り様』は、本当は縁結びの神様じゃないって。『あや取り様』の神社は、それとは逆の縁切りの神社だったんだって。


 簡単な話よ。

 失恋の相手と自分との縁を完全に切れるから、新しい恋愛に前向きになれる。恋人同士になれることもあるでしょうし、仲良くなるのは恋愛の前段階。駄目でも、すぐに疎遠になったりはしないわ。そんなに子供も多くないし、仲間外れにはなりたくないでしょうから。そして、だからこそ前の失恋の後遺症が残っていたんだから。


 もうわかったでしょ?




 A子の家に救急車が来て騒ぎになったって言ったじゃない?あれね、来たの救急車だけじゃなかったの。警察も。


 ジジババばかりの田舎だったから、救急車が来るのはそんなに珍しくなかったしね。


 A子のお父さん、本当は仕事無くしてたらしくてね、家にはまともな家財も無かったらしいよ。私は見てないんだけどね、A子の私物もほとんど無かったし、食べ物もほとんど無かったって。編み物用の毛糸が少し、残っていただけだったんだって。


 会社に通っていないはずのお父さんが連れてきた、『どこか』の会社の偉い人。


 もういいでしょ、これ以上言わなくても。




 次の日、『あや取り様』の神社には、黒いあや取りが奉納されていたわ」





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