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邪なる神々の子たち

富たる男の願い

作者: あきら

 朝、起床。朝日はまだ登っていない。

 就寝用のほとんど下着のような麻の衣を脱ぐ。かわりに着るのは真っ黒な祭服。フードも被って、出来る限り自分の姿を隠す。


 この場所では幾人もが生活している。

 導き手として祭司が何人か。それに付き従う未来の祭司、今の見習いが居る。一番多いのは修道者。ただただ神の教えを受け、それに背かず、正しく生きていく。そして、一時この場所で勤めを果たし、世俗に帰っていくもの。

 我らの神は世俗の欲を否定しない。

 むしろ、どの存在よりも煽っている。

 教えが、欲を抱き、膨らませる事を誘っている。幾人もいる神の中で一番であろう。だから、祭司も見習いも修験者もそれぞれ良くを胸の内に飼っている。


 そしてれは仮初の滞在者にも現れている。短い者でひと祈りの時間、長い者は数年にわたって滞在する。

 またその間、多大な貢物を捧げ続けるのだ。


 なぜか?


 簡単な事だ。

 我らの神は貢いだだけ望みを叶えてくれるからだ。捧げれば叶えられる。なんと魅力的な神なのだろうか。なんと留まることを知らない欲を促すのか。

 ただ、捧げ物の要求量は半端ではない。そして、それ以上に難点なのが、どこまで捧げればよいのか、神は言わない。

 大量に投じても、満たされていないかもしれない。満たしても、もっと少ない量で良かったのかもしれない。

 難儀な神である。


 さて、話を戻そう。

 ここに、毎日のように祈りに来る一人の男がいる。壮年から足を一歩進み、そろそろ老人と言って良い年齢の男だ。毎日欠かさずこの礼拝堂にやって来ては祈りを捧げる。少なくとも私がこの地に来た八年前からは行っている。先達の話ではその倍はゆうに続けていると言う。

 この男、毎日幾ばくかの捧げ物を持ってくる。少額の金。花。きぬ。酒。細やかなものだ。こちらもまた、欠かすことはない。

 神の像の前で手を組み、供物を捧げ、祈る。

 そして、帰っていく。


 彼の望みは美しい妻を貰うことだという。見目形だけでは駄目だ。心は赤子のように穢れない。優しさは母のように。奢らず侮らず、曇りなき眼で人を見。仕事に精を出し。友を多く持ち。何より男を誰よりも深く愛し尽くす。そんな娘。


 彼は富めるものだ。身なりは良く、常に色とりどりの宝石を身に着けている。そこそこの地位についていて、礼拝の際は一等良い席に座る。

 彼には妻が居ない。亡くしたのではない。最初から居ないのだ。

 毎日、あんなにも願いを叶えてくれる神に祈り続けているのに。


 はたして彼の望みが叶わない理由とは何であろうか?

 その理由は何となく思い至るようで、どれも今ひとつ確信が持てない。全てが正解のようで、もしかすると人知の及ばぬ、神なりの理由があるのかもしれない。


 今日も彼は来るであろう。その手に、小さな捧げ物を手にして。中々叶わない願いをしに。真剣に。

 我らは、それを学ぶ良い機会を得たのだ。

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