僕の彼女の検索履歴が不穏で不吉でたまらない
僕には彼女がいる。
黒髪がきれいで、頭がよくて優しい子だ。
今日で付き合って3ヶ月目だ。その記念に昼食を食べ終わったら映画に行こうと誘っている。
だが最近ちょっと様子がおかしい。
ひょっとすると浮気だろうか。いやいや僕の泉ちゃんに限ってそんなことはないな。
今もほら。僕の家で昼食を食べているし。仲よしこよしのラブラブだ。
と、信じたい。
「ねえ勇太」
「ん? 何?」
「ラグビー部とアメフト部ってどっちが素敵だと思う?」
ほらまたきたよ。最近ずっとこの調子だ。
僕ラグビーもアメフトもあんまり詳しくないのに。
「ぼ、ぼくはアメフトの方が好きだよ? あの防具みたいなやつかっこいいし?」
「ふーん。あなたはアメフト部派なんだ…………?」
『部』ってなんだよ『部』って。ラグビー部もアメフト部も見た目なんかほとんど変わらないと思うんだけど。スポーツの話じゃないのか。
「突然どうしたの?」
このあいだはプロレスラーか相撲取りかどっちがかっこいいか、という質問だった。
マジで知らない。ホント知らない。
「あ、いや深い意味はないわよ? 気にしないで?」
と優しく微笑みながら否定する泉ちゃん。可憐だ。
なんどもこの笑顔に騙されてきたけど、今日の僕は一味違う。
「最近そういう質問多いけど、なにかあった? もしかして僕じゃ頼りないとか?」
「えっ!? ううん! 違うの! そういうことじゃないの!」
ブンブンと首を振る彼女。
違うと言っているが、本当はどうなんだろう。
もしかするとラグビー部に素敵な男でも見つけたのかもしれない。
「まだ聞きたいことがあるんだ」
「ほんとうに違うのよ? 勇太が頼りないとかじゃなくて……、その……」
「僕のパソコンの検索履歴の事なんだけど…………」
と、僕が言った瞬間彼女の顔から血の気が引いた。
やっぱり嫌な予感がする。
とりあえず部屋の隅に置いてあったノートパソコンを引っ張り出し、起動する。
「じゃあまず、一番目を引くのから言うね」
「待って勇太! 違うの! それは誤解なの!」
まだ何も言ってないのに、いきなり誤解と言い出す彼女。怪しいことこの上ない。
「じゃあ言うよ、 『無機物 エロ画像』」
「違うのーーー!」
「何この検索ワード。ないよ? そんな画像? 『エロ画像』まではわかるよ? でも『無機物』ってなに?」
「えっと……、それは間違えて打っちゃっただけで……、その……」
と、しどろもどろになりつつも答える彼女。
ていうか『エロ画像』を検索しようとしたことは否定しないんだ。
しかしまだ驚きの検索ワードは残っている。
「じゃあこれは何?」
「待って、もうやめて! 私が悪かったから!」
「『一酸化炭素 エロ画像』」
「違うの……、本当に誤解なの……」
「こんな画像ないよ? 一酸化炭素って化学式だよ?」
「…………」
顔を完全に下向けて、黙り込んでしまった。
少し言い過ぎたかもしれない。
「説明してくれるかな?」
しかし、追い打ちをかける。このままモヤモヤしたまま終わるのは避けたい。
「……あたしの事、嫌いにならない?」
少し泣きそうになっている。
「ならないよ」
なるわけないじゃないか。
「…………今日ね。化学の実験で酸化・還元反応っていうのをやったの」
「うん、やったね」
「それでね、先生が、『酸化・還元反応っていうのは一酸化炭素と酸化銅の愛の修羅場なんだぞー』って教えてくれたの」
「うん、酸素を奪い合わせる反応だもんね」
「だから、もしこの原子が人間だったらシチュエーション的に美味しいかなって……」
「うん、そこどう考えてもおかしいよね。なんで擬人化するの? ていうか美味しいって何?」
あれ? 心なしか彼女が元気になってきた気がする。
「酸化銅君と、一酸化炭素君が酸素君を奪い合うの。素敵じゃない?」
「なんで全員『君』なのかな? 全員男だと修羅場は発生しないよ?」
やっぱり、僕の嫌な予感はどんどん現実味を帯びていく。
「最初はふわふわ浮かんでいる酸素君。だけど、ある日突然酸素君の体に熱いものが駆け巡り、銅君と結ばれるの。でもね、そこに現れるのは一酸化炭素君。彼は『真実の愛は俺たちにある!』 とか言って銅君と結ばれた酸素君を」
「うんもういいよ十分わかったから」
終わりが来なさそうだったので途中で話を途中で遮る。
すると泉ちゃんは、はっとしたと思うとみるみる顔が赤くなった。
「違うの……、そういうんじゃないの……」
「うんもう今更過ぎるよねその否定」
うー、とすっかり萎縮してしまう泉ちゃん。
さて、どうしようか?
「じゃあ泉ちゃん、ご飯も食べ終わったし映画に行こうか」
「えっ? 許してくれるの……?」
と、ぱぁっと顔を明るくする彼女。かわいいなあ。
「許すもなにも、別に怒ってないよ?」
「っ~~~!! 勇太大好き!」
ぎゅーっと俺に抱き着いてくる愛しの子。
「僕も、小さくて可愛らしいラグビー部なら大好きだからね!」
「…………え?」
読んでくれて本当にありがとうございました。
何が驚いたって、「無機物 エロ画像」でググると本当にヒットするところです。
誰がこんな日本を作ったんでしょうか。