22:錆びていた鈴の音Ⅲ
連理の間について、アゼルは大丈夫だと言い張るステラをアンジュに頼んでベッドに入れ込んでもらい、自身も髪を下ろして下の方で結いなおす。一応国王へ話をしに行くために綺麗な身なりをしたのだが、無駄にならなくて良かったと思う。
寝室へ入れば、ステラが不満そうな顔でアゼルを見た。
「そんな顔をしても駄目だ。ふらふらだったじゃないか」
「……も、……つに……ッゲホ」
「ああもう、喋るな。ずっと喋って無かったのにあんな大きな声を出したんだ、体がびっくりしたんだろう」
すっとステラの額に手を伸ばして、触れる。ひやりと冷たいアゼルの体温が心地よく感じて、ああ、自分は火照っているのだと確認した。
喉は依然焼けるように痛いのに、アゼルが側にいるだけで和らぐような気がする。
―――この人ならば、聞いてくれるだろうか。
自分が話さなくなった理由。罪悪感や苦しみや、そういった感情を人に押し付けるのは罪な気がした。けれど、自然に、聞いてほしいと思った。知っていてほしいと。
これを恋と呼ぶのなら、ステラはアゼルに恋をしているのだろう。
これを愛と呼ぶのなら、ステラはアゼルを愛しているのだろう。
偽りの関係なのに、心だけは本物になっていく。戸惑う気持ちは、本当ならば感じてはいけないはずなのに。
「眠いのか?」
ぼんやりと自分を見つめる視線に微笑み返せば、さらりと避けられてしまった。
「なんだ、どうした?―――ああ、いい、聞いた俺が悪かった、何も言うな。喋るな。治ったら、聞いてやるから」
そういえば、今まで自分のことは話していたが、ステラのことはあまり聞いていなかったような気がした。それはたぶん聞かなくていいことだったからで、これからも、聞かない方がいいことのはずだ。けれど、聞きたかった。
アネーシャではなくステラと結婚したのだから、ステラのことが知りたかった。本当ならば思ってはいけないことだが、もう、そんなことは関係ない。
この感情は、きっと愛と呼ぶのだ。
アネーシャなど見つからなければいいと、その時二人は確かに思った。




