私と世界と箱庭と
辛いなら、苦しいなら、心なんて凍らせてしまえばいい。
そう思って、私は自らの意思と共に心を眠らせました。
失われた桜の季節と共に―――…。
お兄様の言った言葉が理解できなかった。
これは試されているのだろうか?
どれほど私の中にお兄様の存在が刻みこまれているかということを…。
それとも戻ったのだろうか。
昔の大好きだった兄様に。
「それは――――」
この箱庭の鍵を開けてくださるということですか?
「・・・主上が是非にと仰られてね」
言葉にならない言葉の意味を感じ取ったのか兄は最初から説明してくれた。
どうやら、闇に響く琴の音の噂がこの国の王の耳にまで届いたようだ。
貴族の姫でありながら宴に参加したことなど数えるほどしかない。
しかもそれは全て両親が健在だったころの話だ。
どうにも気乗りのしない話。
それを分かっていてだろうかお兄様の表情は不機嫌だけど、それほど怖いと思わない。
きっと李玲さんが宥めてくださっているからということもあるのだろうが。
彼は昔から、お兄様と私のことを本当に心配してくれているから。
まるで本当の家族のように・・・・。
「選ぶといいよ。私と、世界を」
じっと綺羅を見つめる灰色の瞳は彼女の出す答えを知っていた。
「私は――――…。」
なんと答えればよかったのだろう。
このままがいいとは思わない。
けれどもう逃げる意志も、進む勇気も、歩むべき未来も全て闇の中に放りだしてしまった。
私は、どうしたいの。
何を願うの。
「母様・・・」
私を庇って死んでいた美しい人。
時々、思う。
私じゃなくて母様が生きていればよかったのに。
私ではなくて、あの強く、美しい人が生きていれば…。
「私は、どうすればいいの?」
助けて、助けて、助けて。
なんどこの暗闇に祈ったか分からない。
けれど、その祈りは誰にも届くことなく闇に呑まれて消える。
「あぁ、煩わしい。
愛していると仰るのならいっそ殺して下さればいいのに」
愛していると、誰の目にも触れさせたくないと仰るのなら、
この狂気の箱庭に閉じ込めると仰るのなら、
ご自分と世界を選ばせると仰るのなら、
いっそ殺して、不変の屍を傍に置けばいい。
もう二度と琴を奏でることはないけれど、
もう二度とその名を紡ぐことはないけれど、
もう二度と、貴方を慕うことはないけれど、
「それでも私は世界とお兄様を選べないでいるの。」
だってどちらも大切で、どちらもどうでもいいもの。




