立ち向かうための決意
狂っていた時間が少しずつもとに戻る為に動き始めた。
だから、優しい貴女は臆病で弱虫の私の為に動いてくれた。
だったら、私がいつまでも誰かに甘えているわけにはいかない。
そうでしょう?
「綺羅様、」
「取り乱してごめんなさい。もう大丈夫です。」
「どうか、私共の前ではご無理をなさらないでください。」
「・・・では、お願いを聞いてくださいますか?」
蒼い顔のまま紡がれた言葉に翠蘭は静かに頭を垂れた。
そして叶わないと知りながらもこの姫に仕えたいと強く願った。
椅子に腰かけ凛と背筋を伸ばし、すぐれない顔色のままそれでもしっかり顔をあげて前を見据える美しい姫。
そこにはじめて会った時の儚さや弱さ諦観の色は一切ない。
ただ凛とした強さと聡明さだけが輝いて見えた。
翠蘭はたとえそれが王の花守として間違いだとしても、ほんの短い時間で随分と気にいってしまったこの姫の為に姫の望む情報を掻き集める。
今はただ、この強くて脆い姫君の為に動く。
常に姫のかたわらで尽くし続けた小さな灯に敬意を表し、姫がこの宮に滞在する間誠心誠意お仕えすることを改めて誓いながら。
翠蘭の手によって集められた情報に目を通して綺羅は泣きたくなった。
緘口令の布かれた中で集められた情報は決して多くなくて、だけど、それでも十分すぎるほどに綺羅から希望を奪い、冷たい現実を付きつけるものだった。
これは、すべて自分の落ち度だ。
忘れたはずの、心の奥深くに鍵を賭けて沈めたはずの恋心に浮かれて大切なことを忘れてしまっていた。
夢を見る余裕などはじめから有りはしなかったのに。
「姫様…?」
「ごめんなさい、少し、ひとりにしてください。」
「綺羅姫様、」
「大丈夫。だけど、もう、ガマンできそうにないんです。
蛍はずっと私の側にいてくれたから、」
「…心づかいが及ばず申し訳ございません。」
「ご用がおありになればいつでもお声をお掛けください。」
「……ありがとう。」
最後まで自分なんかに気を遣って、大切に扱ってくれた女官たちに綺羅は泣き笑いの笑みでお礼を言った。
心配そうな視線をを無理やり伏せてしずしずと部屋を辞してくれた彼女たちに僅かな罪悪感を胸に綺羅はするりと部屋を抜け出した。
闇に沈んだ綺羅の世界を照らしてくれる小さくとも力強い灯火はもうない。
だけど、光が消えてしまっても綺羅は歩かなければならない。
綺羅が顔をあげて自分で考えて歩いて行く道ならきっと、あの優しい光は空に溶けてしまっても風になって綺羅の背中を押してくれるから。
蛍、ごめんね。大好きよ。だから、見ていてね。
ずっとずっと、逃げてたことにちゃんと向き合うから。
もう目をそらしたりしないから、だから、だから、もう少しだけ待っててね。
私、頑張るから。だから、ちゃんと頑張れたらまた笑ってね。
よく頑張りましたね、って笑って褒めてね。
綺羅は滲む視界を乱暴に拭って足を速めた。




