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暴かれる

 詩に隠した心。

 それを暴く鋭い視線。

 甘えて全てを委ねてしまいたくなる存在。








 綺羅はコツンと桜の木に額を押し付ける。

 蘇るのは遥かな約束。

 頬を伝う滴に最後だと誓いながら、小さくその名を紡いだ。



「お呼びになりましたか?」


「どう、して、」


乱暴に目元を擦りながら心底驚いた顔をする綺羅に秀夜は微苦笑を零した。


「…お聞きしたいことがありまして。」


「私に、お答えできることでしたら。」


 綺羅はその言葉に目を伏せて秀夜から目を逸らした。

 その仕草に秀夜の不安がわずかに晴れる。

 弛みそうになる口元を意識して引き締め、秀夜は真剣な表情で綺羅を見つめた。


「……その簪を贈った少年を思い出されましたか?」


「、いいえ。以前お話したとおり彼の人との逢瀬は何時も夢幻の中ですわ。」


 一瞬言葉を詰まらせながらも綺羅は切なげに眉を下げて笑って見せた。

 その笑みに自分の勘違いだったのだろうかと秀夜の胸に不安がよぎる。

 けれど今、ここでこのまま引き下がってしまえば自分は本当に彼女を失ってしまうような気がした。


「それは、残念ですね。今宵の演奏はまるでその方に別れを告げるかのようでしたから。」


「…別れを告げるような方はいませんわ。

 それに、宴はまだ明日もありますのに。考え過ぎです。」


 ぎゅっと掌を握りしめて決して視線を合わせようとしない綺羅に秀夜は安心した様に小さく息を吐いた。

 本人は気付いていない嘘を吐く時の癖。

 秀夜はそれを見逃しはしなかったのだ。


「すまない。嘘ばかり吐かせてしまう。お前は昔から隠し事も嘘も苦手なのに。」


 突然、砕けた口調になった秀夜に綺羅は手をわななかせた。

 震える指を口元に持っていき、喉から湧き上がる声を抑えるように口をふさぐ。

 視界が滲んで、何が何だか分からなかった。


「少し、意地が悪かったな。」


 気付くと自分の体はすっぽりと温かい何かに包まれていて、それが彼の腕だと気付いたのはしばらくたってからだった。


「お前から思いだしたと言うまで待っているつもりだったんだが…。

 待てなかった。」


「っ!!どうして、どうして、そんなことを仰るのです!!」


 震える声で最後まで強がる綺羅に秀夜は微苦笑を零した。

 本当に彼女はあの頃と何一つ変わらない。

 真っ直ぐで純粋で、優しくて、綺麗なままだ。


「…お前の重荷は俺が背負ってやる。

 だから、もう二度とあんな顔してあんな曲を弾くな。

 お前が平気だと笑っても俺が苦しくて堪らなくなる。」


「しゅ、や、さま、しゅうやさま、秀夜様ぁ!!」


 縋りつく様に綺羅は秀夜の腕の中で泣いた。

 子供の様に声をあげて泣く綺羅の背を秀夜はずっと優しく撫で続けた。

 それがまた綺羅の涙を誘う。

 綺羅が泣きやんだのは、月が空高く登りきった頃だった。




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