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侍女の決意

 足音が近づいてくる。

 姫様の幸福への足音が。

 私の最期への足音が。









 秘密裏に寄こされた晴希からのふみに蛍は眉を下げて小さく笑った。

 その表情はまるで何かを諦めているかのようだった。


「最期の、お仕事ですね。」


 目を閉じて一度大きく深呼吸すると瞼を持ちあげて気合を入れるように頬を叩く。

 乾いた音とともに頬に痛みが走り、蛍はまた凛と背筋を伸ばして綺羅の元に向かった。


「蛍!」


「姫様、お綺麗ですよ。」


 まるで、天より舞い降りた姫君のように美しくなった綺羅に蛍は目を細めて笑った。

 その言葉に綺羅はまたうっすらと頬を染めてはにかむように笑う。

 止まっていた時間が動き出した。

 運命の砂時計の砂がさらさらと滑り落ちる。


「本当?どこか変じゃない??」


「ふふ、あの方のために奏でられるのですね。」


「もう!からかわないで。」


「本当にお綺麗ですよ。ねぇ?春鈴さん。」


「はいっ!とっても素敵です!!」


 キラキラと瞳を輝かせる春鈴に綺羅はまたはにかむように笑った。


 今夜と明日の夜だけ。

 残りの演奏は全て唯一人のために奏でよう。

 そう意識すればするほどに指先が震えて止まらなくなりそうだけれど。

 頭の中が真っ白になってしまいそうだけれど。

 それでもそれさえも心地良いと思ってしまう。

 あぁ、本当にどうしようもないくらいにあの方が好き。大好き。

 だって小さいころからずっとずっと私はあの方の為だけに努力してきたのだもの。



「蛍、この桜の簪、」


「承知いたしておりますよ。姫様のお心のままに。」



 後もう少し、この姫があの人のように強くなった所をもう少しだけ見たら、今度は自分がケジメを付けよう。

 綺羅様と晴希様、どちらも選べなかった自分に。

 忠誠心と慕情の狭間で揺れまどった今日までの日にケジメをつけよう。

 例えそれが私という一人の人間の終わりを告げる結果となったとしても。

 それでも後悔のない選択をしよう。

 大好きだと笑ってくれるこの姫に恥じないように。

 幼くてまだ弱い姫を託してくれた気高く美しいあの人に恥じないように。

 母の代わりに自分を育ててくれた姉に恥じないように。

 大切な人たちに笑われてしまわないように、暗い舞台に幕を引こう。

 光の下に生まれた姫は光の中で輝いているのが一番似合う。

 ならば闇の中で生まれた若君にはせめて最期の救いを。

 自分がそれになれるとは思わないけれど、それでも少しでも、彼にとって自分という存在が大きなものであることを願って。

 今度は私が踏み出そう。


 この2日で目まぐるしく変わった状況に背中を押してもらいながら。



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