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blue&blue  作者: 美咲
1:始まり
7/38

ようやく家に帰りついたのはとっくに0時を回ってからだった。

いつもはシャワーで済ませているユニットバスに今日はお湯をはろうと決めていた。


何だか疲れた。

恭子と夕飯を食べたことがやけに昔のことのように感じる。


「恋愛かぁ」


中身も何もないナンパ男だったが、久しぶりに人の温もりに触れてその心地よさを思い出していた。

雄介にも大切な存在ができたことだし、私にも素敵な人がそろそろ現れないだろうか。


「無理だろうな」


お湯の中で指先を見つめながら神妙に呟く。

情けないことに、私は何だかんだ言いながら雄介のことがまだ好きなのだ。

けれど今日ナンパ男とホテルに行ったことで、もう一度付き合いたいという望みは断たれた。

言わなければ誰にも知られないだろうが、自分の中でのけじめはつけたい。

このまま寝て起きて大学へ行って、日常生活をこなしながら時間が経てば、少しずつでも諦めがつくんではないだろうか。

それまでは思い出を大切にして、悔しいけれど友達として彼の幸せを願っているのもいいかもしれない。


「指輪、渡さなければ良かったな」


私と彼の幸せの象徴のような指輪を、あの日投げ返したことが今になって悔やまれた。

私だって大切にされてたんだよという証拠のような気がするのに。


メールしてみようか。


一瞬浮かんだ案に首を横に振る。

今更未練がましいと思われるに違いない。

それに何ヶ月も前のことだ。

処分してしまった可能性も高い。


けれど。

もし今でも雄介が取っておいてくれているとして、今ここで返してもらわなかったとしたら、後から後悔するだろうなと漠然と思った。

やらないで後悔するよりも、やってから後悔する方が何倍もいい。


「よし」


馬鹿な奴だと思われてもいい、メールしてみよう。

衝動のままに私は湯船から立ち上がった。

勢いがつきすぎてお湯が僅かに溢れる。

掃除が面倒だなと思いながらおざなりに身体を拭いてすぐにベッドに転がる携帯を手にした。


女といるかもしれない。

またウザい奴だと思われるかもしれない。

けれどこれで最後だ。

私は震える手で文字を画面に打っていく。


『こんばんは。突然だけど指輪を返してもらいたくてメールしました。ワガママ言ってごめんね。無理ならいいです』


打っては消し、また打っては消して、時間をかけてようやく完成した文面をすぐに送信する。

見直すと躊躇が生まれそうだった。


無事に送信完了の画面を見届けると一気に脱力し、自分がいかに力んでいたのかが分かる。

それに失笑しながらのろのろと部屋着に手を伸ばした。

メールを作るのに夢中になっていて気付かなかったが、冷房をかけた部屋で何も着ていなかったせいで、せっかくお風呂に入ったのに身体が冷えてしまっていた。


もし返信が来なかったとしても、それはそれでショックを受けないようにしよう、と冷静に自分へ言い聞かせる。

もし私が雄介の立場だったら、返信しない確率の方が高い。

勝手なことを言っているのはこちらなのだ。


ひとつ小さくため息をつくと、もう寝ようと洗面所へ行きドライヤーで髪を乾かし始めた。

鏡で見る自分の顔が何だかいつもよりやつれているような気がする。

そういえば雄介と別れてから自分の手入れをきちんとしてなかったことに気がついた。

キレイに見せたい相手がいなかったのも大きいが、そういうことをしようという頭が回らなかった。


明日は特に予定もない。

ゆっくり家で野菜中心のご飯でも食べ、パックとトリートメントもしよう。

そう心に決めてドライヤーを置き、ベッドへ向かった。


と、枕元の携帯がピカピカと光っているのが目に入った。

途端に心臓がドクドクとし始め、慌てながらも画面に浮かぶ新着メールありをクリックする。


『いいよ。明日そっち方面に行く用事があるから、ついでに届けるよ』


息が止まりそうだった。


雄介に会えるんだ。

信じられない気持ちで私も返信を作る。


『ありがとう。夕方以降ならいつでもいいよ。近くなったら連絡して』


嬉しくてたまらないのを悟られないようシンプルな文面を送信した。

もしここで私の想いがバレてしまったらきっと来てくれないだろうから。

そしてそうなったら悔やんでも悔やみきれない。

やり直したいとか、私のことをもう一度好きになってほしいとか、そんな下心は今は忘れて、明日は純粋に楽しく会うことができたらいいなと願わずにはいられなかった。



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