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あれからどれくらい歩いただろう。
あてもなくグルグルと人通りの多い道を歩き続け喉が渇いて私は足を止めた。
蒸し暑い熱気のせいで喉が渇いたけれど、人々が明るく笑っているカフェなんかには入りたくなかったので、忘れられたように気配を殺して立っているような自販機で缶コーヒーを買って、適当に座り飲み始めた。
ふと時計を見ると針は21時を指している。
早いような遅いような微妙な時間にため息をつき、帰ろうかなとぼんやり考えた。
これ以上ここにいたってどうにもならない、分かっているのになかなか腰が上げられなかった。
「なにやってんの?」
不意に隣から声がして飛び上がりそうなほどビックリした。
いつからいたのだろうか、平凡な顔立ちを服装と髪型でごまかそうとしているような男がこっちを見てニコニコしていた。
「…別に」
そう言ってその場を去ろうとしたが彼が話し続けたため、その機会を逃してしまう。
「俺ひとりで暇してたんだ。君、時間あるならちょっと遊ぼうよ」
「はあ?」
よくあるナンパだ。
こうやって知らない女に声をかけて成功することってあるんだろうか。
そんな事を思いながら断る言葉を探す。
時間は確かにここでコーヒーを飲む程度には持っているが、こんな奴に構ってる時間はない。
「ごめんね、もう帰らなきゃいけないから」
結局上手に断るような台詞が考えつかず、そう言いながら立ち上がった。
そのまま顔を見ることもせずに一歩進んだところで、
「俺さ、彼女にフラれちゃって」
というナンパ男の言葉に思わず足を止めた。
「だから誰でもいいから話してたくて。迷惑だったよね、ごめん」
「私もフラれたんだ。春の話だけどね」
気付けば同じような痛みを持ってる人がいるんだと、同士のような感覚で思わず彼に返事をしていた。
「そいつ今どうしてんの?まだ好きなの?」
「………」
無言になった私を見て察したのかナンパ男が再び私の隣に並んだ。
「失恋した者同士、行こっか」
慣れ慣れしく肩を抱いてくる男に私は慌てて尋ねる。
「行くって?どこに?」
「ホテルに決まってんだろ」
強引に歩かされて私は抵抗したが肩をがっちり捕まれてて外せない。
しばらく足掻いてみたが全くの無駄に終わった。
結局のところ男なんてこんなもんだ。
特に若い奴はそう。
セックスをすることしか考えていない。
相手が誰であろうと、例え知らない女でもこだわりはしない。
それはついこの間まで私を大切に扱ってくれていた雄介だって今では違う女をあっさり好きになるという現実に通じることだと思った。
恋愛にもセックスにも私にもそして全部の人間にも、価値なんてきっとない。
そう悟った瞬間私は抵抗をやめた。
チカチカ光る看板の建物の中に入り、押されるがまま無気力にベッドに横になる。
「いいの?」
自分が連れてきたくせに何の許可を求めているんだろう。
私はおざなりに頷く。
それを合図にしたかのように覆いかぶさってくる男に雄介が重なった。
目を瞑った暗闇の中に浮かぶ雄介の顔に思わず涙がこぼれる。
違う、これは違うと弁解するかのように幻覚の雄介に首を振るがもう遅かった。
愛も情も1ミリもない行為の中、分かったのは私が自分の意志で自分の身体を汚したことだった。
これでもう意外と硬派な雄介から愛される資格は失ったに等しい。
名前も知らない男と恋人の真似事をしながら、私の心は瞬く間に冷え切っていくのを感じた。
「なんで泣いてるの?」
ふと気付くと男が顔を覗きこんでいる。
自分でついてきたくせにと咎めるような目をしていた。
「せっかくなんだから、そういうのなしにしようぜ」
面倒臭そうにナンパ男はそう吐き捨てた。
「あんたは元カノのこととか思い出さないの?」
同じ境遇なんだから少しくらい理解してくれてもいいのに、そう責める気持ちを込めて反論する。
「ああ、あれ?あんなの信じてるの?嘘に決まってんじゃん」
男がニヤニヤしながら言う。
こんな男に言うのもなんだが、裏切られたような気がした。
「…ああ、そうなんだ」
だからそう答えて、私は完全に心を閉ざした。
キリのいいところですぐにここを出よう、そう心に決めながら再び目を瞑る。
まだ涙は止まらなかった。




