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blue&blue  作者: 美咲
3:恋
34/38

11

走るように足早に家に帰ると私はすぐさま携帯を開いた。


着信なし、メールなし。

それだけ確認すると携帯を放り投げ…ようとして思い直した。


そのまま以前使っていた出会いコミュニティーを開く。

以前感じた後悔以来新しく誰かと出会おうという気持ちは全くなくなり、そのまま疎遠になっていたが、今日はむしゃくしゃして誰でもいいから人間と繋がりたかった。


美波のところへ行こうという気は全く起きなかった。

またあの彼氏が来ているかもしれない。

美波は大切な友人だが、彼氏は私にとって赤の他人だということが先日の一件ではっきりと分かった。

だから顔を合わせることも今は苦痛だ。


そう思い、コミュニティーの書き込みをザッと読んでいく。

今回は出会いが目的ではない。

今現在暇していそうな人を探すのみだ。


私は適当な人に目星をつけ、挨拶程度の短いメッセージをコミュニティーを通じて送ってみる。

直アドレスがバレるわけではないので、すぐに返事が来なけば次へいけばいい。


けれどすぐさま返ってきたメッセージにホッとし、「初めまして~。今何してるの?」という軽いノリに「暇してるよ」とこちらも気楽に返信する。

これで底なし沼のような負の思考に巻き込まれないで済む。


たかがすっぽかしじゃないか。

今夜はこれで寂しさを紛らわして、次にマサルと連絡がとれた時は何事もなかったようにいつも通り接しよう。

マサルから誘いがあって浮かれていたことなんておくびにも出さずに。


そう考えながらコミュニティーの暇人と何でもない世間話をダラダラと続けていく。

芸能人なら誰に似ているかとか、何をしている人なのかとか、お決まりの質問がひと通り終わったところで、私の気持ちも少しずつ落ち着いてきた。

明日も早いからどうやって切り上げようかと悩み始めたところで、相手の暇人が突然「今からチャットエッチしない?」と提案してきた。


文章のやりとりでそういう事をして何が楽しいんだろう。

馬鹿馬鹿しいと思いつつそのままサイトを閉じなかったのは、出会う気もなくこんな時間まで利用させてもらったという罪悪感があったからだ。


「ごめん、そういうのはちょっと」と丁寧に断りのメッセージを送ると、すかさず「じゃあ電話は?俺の番号は○○○…。ワン切りしてくれたらかけ直すよ」というメッセージが届いた。

私は少し悩み、書いてある番号を携帯に入力していく。

いやらしい気分になったわけでは全くないし、テレホンエッチがしたいわけでももちろんない。

ここで断わるために労力を使うより、適当に相手をして適当なところで充電がきれたと言って切ってしまった方が楽だと判断したからだ。

約束通り、すぐさま電話をかけてきた男の声は想像通り軽そうな上にモテなさそうな癖のあるものだった。


「じゃあさっそくだけど、今何着てるの?」


挨拶もせずにいきなり本題に入る率直さに笑いそうになる。

そんなにテレホンエッチがしたいんだろうか。


「今は部屋着。長袖のトレーナーにジャージだよ」


「そしたらトレーナーの中に手を入れて胸を触って」


「うん」


返事をしながら私はそっとテレビをつける。

もちろん胸なんか触る気はない。

もう少ししたら通話を切ろうと思いながらテレビの音量を相手に聞こえないように絞った。


「ゆっくりゆっくり触って」


「うん」


適当な相槌に相手は気付いているのかどうでもいいのか、次々と指示を出してくる。

一方私はちょうどやっていた天気予報を見ながら明日は寒そうだなんてことを考えていた。

大学の廊下は冷えた空気が入り込んでとても寒いのだ。

新しいタイツを近々買いに行かなくては。


「じゃあ・・・。パンツの中に手を入れて」


延々と胸がどうとか言っていた男が場所を変えてきた。

私は少し恥らったような声で「うん」と返事をする。

それだけで相手の男のテンションが上がるのが分かった。


「濡れてる?指一本でそっと撫でて」


天気予報が終わったためチャンネルをザッピングしていると深夜のバラエティーが目にとまる。

以前はもっと早い時間にやっていたようなお色気交じりの番組がこんな深い時間になってしまったのか。

クレーマーやモンスターペアレンツが増えているらしいし、色々意見という名のいちゃもんをつけてくる人もいると聞く。

けれどテレビなんて所詮虚構の世界だ。

どの番組だって誰かの思惑や宣伝が絡まりあい、簡単に言ってしまえば馬鹿みたいなものだけど、見る側だってその馬鹿を承知で見るんだからクレームなんて無意味なのにな、なんて頭の片隅で思う。


「ねえ、気持ちいい?」


携帯の向こうから男の声がする。


そして現実だってこんなに馬鹿みたいだ。

息が荒くなっている男の声に反比例するように心は冷めきっていたが、私は反射的に心にもない返事をしていた。


「うん、気持ちいいよ」


「俺も。俺も気持ちいい」


最高に気持ち悪いセリフが聞こえたところで何だか無性に腹が立ち、私は衝動的に「あ、充電が…」と言いながら通話を断ち切った。


誰かと繋がりたいと自分で望んだ結果がこれだ。

自業自得の結末に、これ以上文句をつけるのはやめようと私は立ち上がる。

気分を変えるためにキッチンでお湯を沸かし、コーヒーを淹れると再びテレビの前へ戻った。

さっきの深夜バラエティーの続きがやたら気になったのだ。


その時テレビの脇に置いてある携帯の、メール受信を知らせるランプがチカチカと点滅しているのが目に入った。

さっきの男にはアドレスは教えていない。

首をかしげながら差出人を見てみると、そこにはマサルの名前がやけにくっきりと私の瞳に飛び込んできた。




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