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blue&blue  作者: 美咲
3:恋
33/38

10

それからは私も、そしてマサルも付き合い方が変わった。


以前のように待ち合わせてご飯を食べに行く回数が極端に減った。

たまに待ち合わせをしても必ずと言っていい位すっぽかしをくらう。

その代わり夜中に突然「今から行く」というメールが入って私の部屋へとやってくる事が多くなった。

そのメールも深夜に入るので、もし私が寝ていて返信をしなければ「寝ているようなので帰るよ」という結果になる。


最近ではすっぽかしも慣れたもので、約束の時間に待ち合わせ場所に近い適当なカフェでお茶を飲みながら本を読んで時間を潰し、今日は来ないなと分かると帰宅した。

少し寂しくもあるけれど、マサルはそういう人なんだと思えば何てことなかった。

もちろん多少落ち込みもするけど、この間の夜、マサルの弁明に納得したのだから仕方ない。


それよりも今から行くというメールに気付かず寝ていた時の方が数倍ショックだった。

必ず会える機会をみすみす逃してしまうなんてと枕元に携帯を置いて寝るのだが、眠りが深いのか気付かない事の方が多い。

明け方にメールを受信したことに気付いた瞬間は胸が苦しくなって地べたをのた打ち回りたいくらいだった。


「それでいいの?」


と美波はよく聞いてくる。

おそらく今の私の顔はひどいことになっているのだろう。

けれどその問いに対する答えは決まってこうだ。


「こうしないと後悔する」


だって彼に会いたい。

おそらく今のやり方で彼に会うのが一番会える可能性が高い。


遊ばれてるとか単なる待つだけのセフレだとか、そういうネガティヴなことは珍しく一切頭にはなかった。

ない時間を無理に作ってくれるのが分かるから、そんな考えに翻弄されることなく会える時間を大切にしたかった。


深夜、おそらく仕事帰りか飲み帰りのマサルはいつも優しくて、基本的にはセックスをして寝るだけだけれど、眠りにつくまでの僅かな時間、とりとめもなく喋って笑った。

この時ばかりは睡魔なんてなくなればいいと毎回思う。


そんな生活にも段々慣れ、もうこのままでも十分幸せかもしれないと思い始めた頃、マサルから大学の講義中、つまりは昼間にメールがきたので飛び上がるほど驚いた。


『時間がとれそうだから今夜どこか飲みに行かない?』


マサルからの外で会う提案は久しぶりだ。

いつも私が飲みに誘いキャンセルをくらうというのがここ最近では通常になっていた。

自分から誘ったということは、夜予定が入ることはないのだろう。


『行く。何時にどこ?』


私は机の影に携帯を隠しながら返信を送る。

この講義の先生は私語や携帯の使用にうるさいのだ。


『新宿に18時で』


そう時間の経たないうちに再び携帯がメールを受信し、私は無事に約束が完了したことにホッと息を吐く。

約束の途中でメールが突然返ってこなくなり有耶無耶になることもあるからだ。


「そこ!何をしてる!」


突然先生が大声を出したので驚いて顔を上げる。

学生達が私の方を見ていることに気付き、慌てて先生を見ると真っ直ぐに目が合った。

どうやら携帯を操作していたのがバレたらしい。


「すみませんでした」


条件反射に頭を下げるが先生の怒りは納まらないようで、更にブツブツと文句を言っているのを私は他人事のように見ていた。


「もういい。授業を聞く気がないのなら出て行きなさい」


厳しい言葉に教室がしんと静まり返った。


私は俯き、神妙な顔をしながらノートや教科書をカバンにつめて立ち上がると美波の心配そうな目が視界に入ったので、目だけで大丈夫だと告げる。

そのまますごすごと扉を閉めて廊下に出ると、笑い出しそうになるのを必死で堪えながら足取りも軽く迷わず家へと向かった。


今は14時前。

洋服を決めて準備をしなくては。


軽くシャワーも浴びたい。

メイクも一度落として丁寧にやり直そう。

教室から追い出してくれて先生には本当に感謝したい気分だと思いながら私はジョギングでもしてるかのようなスピードで道路を進んだ。



*********************************



けれども待ち合わせ場所から二時間過ぎてもマサルは現れなかった。

携帯も電源を切っているのか繋がらない。

慣れたはずでも今日はマサルからの誘いということで会えると思い込んでいたせいか、がっかりした時特有の虚脱感も半端なかった。


もう一度だけと電話をかけてみるが聞こえてきたのはすっかりお馴染みの音声案内の声だけ。

私は帰るために鉛のように重い足を無理やり動かして駅のホームへと向かう。


もしかしたらあと1分待てば会えるかもしれない、そんな無意味な悪魔の囁きが聞こえるが、悲しいことにこの展開はすっぽかされる以外に道はないと分かっていた。


改札をくぐりホームへ向かうと、ちょうど電車が発車したところだった。


こんな何気ないことも今の私には鬼のような仕打ちに思えてくる。

電車にも乗せてもらえないような価値のない人間ですみませんね、心の中で毒づいて私は次の電車を待った。


寒いホームの先頭でくすんだ線路を見つめながら、現実もそうだろうかと私は思う。

行ってしまった電車を早々に諦めて次の電車をじっと待てばすべて上手くいくのだろうか。


答えはもちろん出ない。


すぐにやってきた次の電車に詰め込まれながら、私はすぐにそんな事は忘れてイライラと沸き起こるマサルへの怒りと会えなかった脱力感を何とか押さえつけるのに必死だった。



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