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blue&blue  作者: 美咲
3:恋
29/38

ほどなくしてマサルは戻ってきた。

美味しいお酒とおつまみに美波と話も弾んでいるところだった。

何だか浮かない顔をしているのが気になる。

けれどマサルはそれを聞かれる隙を与えずに私と美波の会話に加わった。


「寒い?」


上着を着てこなく、腕をさすったところを目敏く見つけられてすぐにマサルは空調を調節しに行く。

その優しさはどこまでが営業用なのだろう。


しばらくすると店内には他のお客さんも帰ってしまい、私達だけがいるという状態になっていた。

それもよくあることなのか、マサルはニコニコしながらマイクを取り出す。


「カラオケも出来るんだよ、ここ。歌う?」


無邪気にマイクを渡されたが突然のことに戸惑っていると、


「私歌いたい!」


と美人店員が名乗り出た。


彼女が選曲したのは秋らしいラブバラードだ。

そして歌い出しを聞いて、あまりの上手さにビックリする。

キレイなだけじゃなくて歌も上手いのか。

歌う姿も様になっていることもあり、私は彼女の歌をフルコーラス聞き入ってしまった。

パチパチと拍手をすると照れ臭そうに「ありがとう」とお辞儀をする。


「茉莉、はいマイク」


マサルにそう言われて反射的にマイクを受け取ったが曲を入れた覚えはない。

困惑しながら前奏を聞くと、少し前に流行った男性デュオのノリのいい曲だ。


「こっちのパート俺ね。お前はそっち」


どうやら一緒に歌えということらしい。


しかし少しだけ悲しくなる。

美人店員に勝てるとは全く思わないが、私は地声も低いから男性アーティストの曲を歌わせられるんだろうか。

せめて歌い慣れた曲ならば、もっとマシな歌声を披露できるのに。


しかし楽しげに歌うマサルにつられて私もその曲を歌い始めた。

その様

子を見て手拍子をしてくれる美波に対して、美人店員は口の端にだけ笑みを浮かべて真顔で見ている。そこそこ盛り上がったカラオケタイムだったが、何故かその時の美人店員の顔が頭から離れなかった。

 



「そろそろ帰らなきゃ」


と美波が時計を見たのは23時半を回った頃だった。

長居する間に美人店員の優美ユウミさんとも打ち解け、勢いでアドレス交換までしてしまったほどだ。

マサルの好意で割引価格で清算してもらい、お礼を言いながら私と美波は立ち上がる。


「俺、送ってくるから店番よろしく」


そう言ってドアに進むマサルに続いて外へ出た。


「私も行く」


不本意だと顔に浮かべた優美さんも上着を羽織ると一緒についてくる。


「誰かいなきゃ困るだろ」


「ジュンちゃんがいるじゃん」


ジュンちゃんと呼ばれた店員が苦笑した。

しかし特に文句を言うこともなく送り出す様子を見て、優美さんのワガママが通ったことが分かった。

その女王様のような態度は見ていて清々しいほどだった。


外はすっかり寒くなっている。

寒い寒いと文句を言う優美さんにマサルは「じゃあ付いてくるなよ」と呆れたようにため息をついた。

それに反撃するように優美さんがマサルに軽くパンチを浴びせる。

マサルも負けじと攻撃をしかけ・・・私の視線に気付いてやめた。


「なに?不戦勝?」


不服そうな優美さんに「はいはい」を適当にあしらい、急に私と美波に話しかけてくる。

そんな二人を見て、私の胸中を暗いものが走った。


もしかしたらこの二人、何かあるのではないだろうか。

だとしたら完敗もいいところだ。

綺麗で可愛らしくて、女の私から見ても惚れてしまいそうな彼女と、特に何も取り柄のないごくごく普通の私。

誰だってどちらか選べと言われたら彼女を選ぶに決まっている。


そう思い当たったところで私は美波と話していたマサルに思わず、


「ここでいいよ。もう道分かるから」


と言ってしまっていた。


「え?駅まで送るよ」


当たり前のように言うマサルに


「お店あるんでしょ?」


と正論をかまし、美波に早く行こうと肩を押す。


「ここなら明るいし大丈夫ですよ」


私の様子に気付いたのか美波がフォローを入れてくれる。

本当は一瞬でも長く傍にいたい。けれど優美さんを見ているとマサルの関係を嫌でもネガティヴに考えてしまう。


マサルはまだ心配そうにしていたが、


「じゃあ戻ろうよ」


と明るい優美さんの声に足を止めた。

今となってはその明るさも勝ち誇ったものが混じっているような気がするのは気のせいだろうか。


「戻った方がいいって。今日はありがとう。また行くね」


けれど私はそう言って手を振り、何かを断ち切るかのように駅へと向かった。


日付が変わる頃の駅は混んでいる。

その人混みを掻き分けるように私と美波はちょうど良くやってきた電車に乗って帰路を急いだ。


酒臭い車内と人の多さに次に口を開いたのは最寄りの駅近くになってからだった。


「こんな時間だけど、ちょっとうちでお茶でも飲んで行かない?」


そう美波に提案すると遅い時間にも関わらず、嫌な顔ひとつせずに美波は頷いた。


「明日の講義は必修じゃないし、何なら休んでもいいよ」


そう冗談めかして笑う美波に私も何とか笑顔を返した。

そして部屋に帰るまでに頭の中を一度クールダウンさせようと深呼吸を繰り返したのだった。




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