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blue&blue  作者: 美咲
3:恋
27/38

明けない夜はない、と誰かが言った。

確かに朝、空を見れば太陽は昇り夜は明ける。

けれど辺りが明るくなっても私の心の夜は全くもって明けていなかった。


モヤモヤが残るまま、学校へ行く準備をする。

あまり眠れなかったため身体が怠い。

そして美波に会うのも少し気まずかった。


美波のことは変わらずに好きだ。

けれどどうしてもあの彼氏の「俺には関係ない」という言葉は流す事ができなかった。


ある意味美波の彼氏のいうことは正しい。

なぜなら彼には本当に関係のない話なのだから。


けれど目の前に落ち込んだ人間がいて、関係ないと言い放つのはどうなんだろう。

きっと目の前に病人がいても溺れかけた子供がいても関係ないと突き放すに違いない。

そしてそんな男を好きな美波に対しても、少しだけガッカリしたような気持ちを感じる。

どこに惹かれて付き合っているのだろう。

こんな心情じゃノロケ話も笑って聞ける気がしない。


「行くか」

 

それでも時間は刻々と過ぎていく。

私は腐ったような頭を持ち上げ外へ出た。


外は昨日の雨から一転、見事な秋晴れだった。

空気は冷たいが日差しがそれを和らげてくれて気持ちがいい。

薄く雲がかかった空を見ながら大学へ向かう。

大学へは徒歩で10分ほどだ。

入り組んだ住宅街を抜け、キャンパスが見えてきたところで名前を呼ばれた。


「茉莉、おはよう」


そこには美波が立っていた。

家の方向が同じなのだからこうやって偶然道で会うこともよくある。

けれどどうして今日に限って、まだ心の整理がついていない時にあってしまうのか。


「おはよう」


いつもと同じトーンになるように気をつけながら返事をする。

美波は若干緊張したような面持ちで隣りに並んだ。


「昨日はごめんね」


ポツリと小さな声が聞こえた。

その声がとても弱弱しく聞こえたので思わず私は明るく返した。


「美波が謝ることなんてないよ。私こそ急に上がりこんじゃってごめんね」


「・・・なんかさ、あの後疲れちゃって。彼にも色んなことにも」


いつもシャキッと背筋を伸ばし、笑って前を見ている彼女が珍しい。

その原因を作ってしまったのは、もしかしなくても私なのだろう。

思いがけない姿を見て思ってもいない事を口走っていた。


「好きなんでしょ?気になる部分なんていくらでもあるよ。それはお互い歩み寄らなきゃ仕方ないんじゃない?」


「・・・ありがと。でもなぁ」


美波は一点を見つめて何か考えているようだ。

その姿を見ながら『悩むくらいなら別れちゃえ』というセリフを飲み込んだ。


いくら私が美波の彼氏に不快感を持っているとしても、彼女にとっては大切な『好きな人』だ。

その人が自分と同じように自分に好意を持ってくれるなんて特別なことだと知っているから。


「まだいつかは分からないんだけど、マサルのお店に一緒に行かない?」


だから話題を変えるためにも私は提案を持ちかけた。

美波と一緒に行こうか久しぶりに恭子に会おうか迷っていたが、美波が以前マサルの話をした時に会ってみたいと言っていたのを思い出したのだ。

それに恭子に会ったらマサルとの関係を聞かれるだろう。

そうしたら嘘は吐きたくないので出会いコミュニティーのことから話さなければならない。

それも億劫だし、雄介に伝わってしまう可能性もある。


「え?あの彼?連絡ついたんだ?」


美波の表情が暗いものから驚きに変わったのを見て安心し、私は頷く。


「色々相談に乗ってもらってありがとね。なんかトラブルがあって来れなかったらしいよ」


それについては疑問に思うところもあるが、余分な情報を与えずにシンプルに答えた。


「良かったね!本当に良かった」


自分のことのように喜ぶ美波に私も自然に顔が綻ぶ。

おそらくこういう美波だから彼氏がどんな人であろうと、私は彼女が人間として好きなのだ。


私だったらこんなに素直に人の幸せを喜べる自信がない。

どこかでひねくれてしまったりマイナスに考えてしまって、それが結果として相手に不信感や不安を与えてしまいかねない。


「その人がトラブルだって言ってるんだからそう考えておきなよ。話半分でもいいから」


前向きな美波の言葉に私は「うん」と答える。

そうする事によって、私も美波のように綺麗な心が持てたらいいのになと思いながら。



**********************



昨日はあんなに待っても連絡が来なかったのに、友達を誘ったからお店へ行く日にちを決めたいとメールをしたら、あっさりとマサルから返信が返ってきた。


明日はどう?なんて軽いノリ。

やはりお店の売り上げ不足で営業をしてきているだけなんじゃないだろうか、と私の疑念はフツフツと沸きあがる。


店の場所を聞いて携帯を放り投げ、自分のベッドへばさっと寝転んだ。

昨日のことはまるでなかったみたいな態度が腑に落ちない。

いつまでも引っ張っている私がおかしいのかもしれないが。


カーテン越しにベランダで揺れている昨日の洗濯物を眺めながら、もう考えるのはやめようと思うのに、止まらない私の思考。

特別な女がいるというのは妄想しすぎかもしれないが、すっぽかしはマサルにとって良くある事なのかもしれない。


今までそういった事がなかったのは知り合ったばかりの目新しい女だったからで、これで本当に私もその他大勢と同じ位置に納まったのだろう。

それが寂しくもあり、ここからが勝負だという気にもさせられた。


ヒラヒラと風にたなびく洗濯物。

風の強さと風向きに翻弄されてあっちこっちへ身を翻して踊らされている。

まさに今の私のようだと仲間意識すら感じた。

そして恋愛って面倒だなと心底思った。


片思いは片思いなりに、両思いは両思いなりに嫌なことや問題がたくさん発生するのに、どうして皆恋愛をしたがるのだろう。

昨日の件で気付いたのだが、恋愛感情を捨てる方法は実際のところないのだ。

気持ちがなくなるのを待つか、相手に拒否してもらわないと止まらない。

電車で言えば終点までノンストップだ。


そして性質の悪いことに私の場合は壁に激突しないと止まれない。

けれど好きという気持ちは本人の意志とは関係なく沸き起こってしまう。

一体何の罰なんだろうか。


私は立ち上がりベランダに出て、空中を彷徨っている仲間を労わるようにそっとしまった。




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