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blue&blue  作者: 美咲
3:恋
24/38

秋の夜は長い。

私は久しぶりに一人でのんびりお酒を飲みながら自分の部屋で寛いでいた。


好きだという気持ちを認識してから数回マサルに会った。

うちに来る日もあれば、飲んだ後駅でバイバイと手を振る日もある。

それはマサルの仕事の関係で、私と飲んだ後からモデル業の打ち合わせだったり付き合いの飲み会があるということだった。


どこまで本当かは分からない。

思わせぶりだと責められた女の子に会いに行く可能性もある。

けれど私たちは付き合っている訳ではないので、それについてとやかく言う権利はない。

多少心が揺れようとどうすることもできないのだ。


「好き、かぁ」


私は手の中のコップを眺めて呟く。

あんなに抵抗していたのに、再び好きだという気持ちをもつのは案外悪くなかった。


心の中にお気に入りの花を植えたかのように、時間があれば飽きることなくその感情を私は愛でた。

この花は枯らせないように念入りに虫をとり、水をあげ、大事に大事に咲かせよう。

それこそが自分の使命のように思えた。


けれど間違えてはいけないのは、愛でるだけで止まること。

咲いた花を誰にも見せることなく枯れた時は自分で埋葬すること。

好きだという気持ちは許容することができたが、まだ恋愛に対しては踏み出す勇気が出ない。

今はこの状態を楽しむだけで精一杯だ。


けれど好きだから会いたくなる。

この間会ったのはもう一週間は前だ。

そう思うや否や私は携帯を手に取り、マサルにメールを送る。


『近々空いてる?遊ぼうよ』

 

それだけの簡素なメール。

デコメはおろか、絵文字すら使っていない。

先日テレビでやっていたが、絵文字には深層心理が表れるという。

無意識にでも私がマサルを好きというヒントを出してしまうのが嫌なので、短いメールには絵文字を入れることをやめた。

ちなみに長いメールは滅多に送らないが、その場合はひとつくらいは彩りとして入れるようにしている。


携帯を脇に置き、気にかけつつも少しずつコップの中身を減らしていく。


マサルはおそらく仕事中だろう。

返信は多分明日だ。

そう思いながらお酒のお代わりに冷蔵庫へ向かい、これを飲んだら寝ようとまたちびちびと飲み始める。

もしかしたら休憩中に返信が来るかもしれない、そんな淡い期待がちらりと頭を過ぎる。


マサルと何度か会うようになって分かったが、彼の仕事はとても忙しそうだった。

お店の準備やオーナーへのご機嫌とり。

休みの日はモデルの仕事関連で活動もしている。

そちらの付き合いと称した飲み会も多い。


だからお気楽な学生の私がメールしたところで『忙しい』と一蹴される事もある。

そんな時は少し寂しいけれど、一生懸命に生きているマサルが私は好きなのだ。

だから傷つくことは欠片もなかった。


携帯が短く揺れ、メールを受信したことを知らせる。

差出人はマサルだ。

途端に早くなる心臓を宥めながらメールボックスを開いた。


『明日の夕方なら空いてる。夜から予定あり』


業務的なメールに私はすぐに返信をする。

マサルにメールをする時間があるうちに話を決めたかった。


『じゃあお茶でも飲もう』


狙い通り次の返信はすぐにきた。


『OK。16時に新宿で』

 

時間と場所が決まったところで簡素なメールの応酬は一段落した。


明日会えるんだと私は早くも嬉しくなり、手にしていたお酒を一気飲みする。

早く寝て明日に備えよう。

そういえば16時に待ち合わせだと午後最後の講義は自主休講しなければいけないが、退屈な講義よりマサルの方が大切に決まっている。

必修科目なので代返は無理だが仕方ない。


学生の領分である授業をあっさりと諦め、私は明日着ていく洋服を選ぶことにした。

マサルに会う時はシンプルだけど上質なものを身につけることにしている。

少しでも大人に見せたくて色は黒が多い。


クローゼットと呼ぶには貧相な備え付けの収納を開いてあれこれと鏡の前で服を合わせる。

好きな人に会うために洋服を選ぶのは楽しい。

それを思い出させてくれたのはマサルに出会えたおかげだ。


私はそれから夜遅くまで、思うように服が選べなくて持っているトップスやスカート、パンツを引っ張り出しては放り投げる作業を繰り返していた。





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