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blue&blue  作者: 美咲
2:携帯
18/38

今日は男、マサルのお薦めという焼き鳥屋に入った。

安いチェーン店でも高級でもない店のチョイスに息を吐く。

たまに驚くほど高い店に入る人もいるのだ。

割り勘と言われたらどうしようと思いながら食べるご飯ほど味気ないものはない。

もっとも割り勘を言われることはほとんどと言ってないのだけれど。


適当にオーダーを済ませて私は早速マサルの話に耳を傾ける。

接客業をしているからか、彼の話はところどころにユーモアが散りばめられ終始笑いっぱなしだった。

どうでもいい話であっという間に「そろそろラストオーダーです」とすまなそうな顔をした店員に退席を促される。

混雑していて時間制だったのだろうかと時計を見ると、驚いたことにすでに23時半をさしている。

会計を済ませるマサルを店の外で待ちながら、こうやって人と飲むようになって初めて“まだ帰りたくない”と思っていた。


彼と話しているとどこかホッとするような気持ちになる。

それは大学進学のために上京して初めて感じたものだった。


出会いコミュニティーに限らず今まで会った男たちはどこかに敵だという思いが潜んでいた。

それは雄介との別れだけでなく、様々な過去が関係しているのだろうと思う。

けれどマサルと話していると気心の知れた友人と過ごしているような心地よさがある気がする。


そこまで考えて私は帰ろうと決めた。

もしかしたらこの人の事を好きになるかもしれない。

今すぐではないが近い未来に。

苦しい想いをするのはもう御免だ。


だから店の外に出てきたマサルにお礼を言い、駅へ向かおうとした時、


「もう一軒行かない?」


と言われ悩んだ。


行きたい。

でも行きたくない。


どちらの選択肢も正しい気がするし間違っている気がする。


「明日学校早いの?」


そう言われて首を横に振る。

明日は午後からだし休んでも単位は足りている講義があるだけだ。


「じゃあ行こう。でもこの時間からだとどこかなぁ」


私の葛藤など知る由もない彼は呑気に笑う。

どうしようと迷いながら適当に歩き、断る勇気が出ないうちに彼はさっさと適当なチェーン店に入ってしまった。

自動ドアが後ろで閉まるのを感じながら失敗したと直感的に思ったが、それとは裏腹にまだ彼と居られることが嬉しいと思ってしまっているのも事実だった。


安い店カウンターで飲み放題の安いお酒を並んで飲みながら、今度は打って変わって真面目モードな飲みの席となった。


「彼氏いないの?」


そう言われて素直に頷く。


「恋愛はもういらない」


真っ直ぐそう言い放った私にマサルはにやりと笑ってみせた。


「子供だな」


あっさりとそう言い放たれてムキになる。


「子供じゃないよ。2つしか違わないじゃん」


「そういうのが子供なんだよ。恋愛がいらないなんて言うけど本当の恋愛したことあんの?」


からかわれているようなトーン。

けれど嫌いじゃない口調だ。

キツい物言いの中にちゃんと心があるのが分かるから。


「あるよ。…あると思う」


「ほら。言い切れないならそれは本物じゃないんじゃない?」


確かに大切な人はどこかに行ってしまった。

そんな結末は偽物の恋愛だったのかもしれない。

本物ならきっと別れても良い思い出として残るのだろう。


「じゃあマサルはどうなの?」


「俺?俺はないよ。今は恋愛よりも仕事が大事だからね」


あっけらかんと言うマサル。

その言い方が癪に障る。

素直な故に潔い姿勢は見習いたいところだけれども。


「じゃあどうしてあのコミュニティーに入ってるの?」


苦しい中、私は反撃の一手を繰り出した。

何故か彼を言い負かしたいという欲求がふつふつと沸いてきていた。


「うーん。仕事関係の人以外と飲みたかったんだよ」


「出会い目的のコミュニティーなのに?」


「じゃあ茉莉は出会い目的なの?」


「違う、けど」


駄目だ、口では太刀打ちできそうにない。

悔しくなってお酒を飲み干し、店員におかわりを頼むことでインターバルを入れる。


「大丈夫。茉莉が恋愛したくないのは分かったし、俺には君は子供にしか見えないから、うまいこと利点が一致したよ」


そう言われると有難いが、何だか悔しい。

けれど今度は余裕ぶって私も笑顔を作ってみせる。


「良かった。私もマサルは親戚のお兄ちゃんにしか見えないから」


精一杯大人な返しをしたつもりだったが、マサルは小さく噴出しながら「良かった」と答えた。




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