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blue&blue  作者: 美咲
1:始まり
12/38

12

目が覚めて空腹にお腹を鳴らしながら起き上がった。

冷房を入れているのにセミの大合唱の声に蒸し暑さを感じる。


冷蔵庫に何かあったかなとゴソゴソ漁ってみると、冷凍庫に保管しておいた食パンを見つけた。

マーガリンを塗ってトースターへ放り込み携帯を開く。

そしてさきほど登録したサイトに繋ぎ、マイページを読み込んでみた。


「メッセージ20件…?」


寝ていた時間なんてたかだか1、2時間だ。

しかも今は平日の真昼間。

暇な人もいるもんだと次々と流し読みしながらメッセージを開封していく。


中身はどれもこれも似たような内容だった。

何歳?だとか誰に似てるの?だとか。

こちらの詳しい情報を求めてくるものばかりだった。


20件の中から感じの良い人にだけ返信しようと相手のプロフィールを今度はじっくり読み、出来上がったトーストを齧りながら文面を考える。

実際に会うことを考えて、なるべく自分を下げるような紹介がいい。

見知らぬ人にガッカリされるなんて真っ平だ。

そう思いながら適当な返信をしていく。


ほとんどの相手からすぐに返信があり、しばらくはその対応に集中した。

メッセージのやりとりの最中にも新たな人からのメッセージが届き、誰に何を話したか分からなくなりそうになる。

次から次へと受信箱が埋まる中、段々私は面白くなってきてしまった。


世の中にはこんなに出会いに飢えてる人がいる。

もちろんセフレのような出会い目的の人もいるだろうが、現実世界で満ち足りず寂しい思いをしている人がこんなにも。

世界にはそれこそ掃いて捨てるほど人間がいるのに。


それはとても悲しいことだと思うと同時に、私だけじゃないという安心感を与えてくれた。

だから興味を持った相手には優しく接しようと無駄な気遣いをこめて私はメッセージを送る。


その後も途切れることなくメッセージを受信し送信する作業は続き、気付けば辺りは暗くなってきていた。

そろそろ夕飯を買いに行こうと財布を適当なカバンに突っ込み、ティーシャツにジーパンでノーメイクのまま外へ出た。

むわっとする夏の熱気に途端に汗をかきながら歩いて数分のコンビニへ向かう。

むせ返るような湿気が肌にまとわりついてきたが、普段なら不快でしかないそれも、今の私にはお似合いのような気がして少し笑えた。


とろろ蕎麦とゼリーを買って真っ直ぐ家に帰った後もメッセージへの返信作業は続いた。

途中で嫌になってやり取りをやめてしまった人もいれば、昼間からずっと会話をしている人もいる。

ひとまず何となくどんな感じのものか掴めたので、しばらくは様子を見ながら良さそうな人に会ってみようと思い、出会いコミュニティの投稿を削除した。

これでもう新しい差出人からのメッセージは来ないだろう。


実際に会うことがいいのか悪いのか、私にはもう分からない。

こんな出会いの方法を選ぶ男がいいのか悪いかも分からない。

見知らぬ人にいきなり会う怖さももちろんある。

けれど今の私の状態を思えば失うものなんて何もないのだ。

それに相手には悪いが、もし遠目に見て危なそうな場合は逃げてしまえばいい。

そう思って夜の間も何人かと何かにとり憑かれたかのようにメッセージを続けた。


ふと顔を上げるとしまいそびれたままの思い出の指輪が机の上で存在を主張するように光っているのに気付き、私は一旦携帯を置いた。

大切な大切な思い出と記憶の中の人とこの指輪。

手にとってみると重さを感じないくらい軽い。

まるで私の存在の重さを示しているようだ。


一瞬だけ手のひらで包み込んで目を閉じた後、お気に入りのハンカチを取り出してきて丁寧に包み込んだ。

そしてすべての想いを断ち切るように収納スペースの上の方へしまいこむ。

今は見ても辛いだけだが、きっとまた眺めたくなる日が来ることを祈りつつ、再び携帯を手にした。

こうなったら自分をとことん追い込んでやろう、そしてもし壊れてしまったら、どんな手を使ってもその姿を雄介に見せてやろうと思いながら、いつしかそれが原動力となっていることに私は気付かなかった。




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