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目を覚ますと雄介はもう起きていて、朝いちの講義があるからと素っ気無く帰って行った。
私も大学へ行かなくては。
そう思ってベッドから立ち上がり、ぼんやりとしている頭を叩き起こすためにユニットバスへ向かう。
簡単にシャワーで身体を洗い、鏡を何となく見て気付いた。
鎖骨の下のキスマーク。
しばらくそれを見つめ指でなぞる。
その瞬間、ひと言では言い表せないような感情がぶわっと沸き起こった。
雄介を好きな気持ちと嫌いな気持ち、昨日の出来事、悔しさと幸せな気持ちがごちゃごちゃとミックスされて思わず洗面台を叩いた。
手がひりひりするのも構わずに何度も何度も打ち付ける。
そのまま気が済むまで洗面台に行き所のない気持ちをぶつけた後は、髪もろくに拭かないまま冷蔵庫からお茶を取り出してラッパ飲みをする。
冷えた感触が喉を通り、ほんの少しだけ落ちついた私はテレビをつけ情報番組を見るわけでもなく流し聞いた。
今回のことでひとつだけ分かったことがある。
それは私が大好きだった雄介はもう存在しないということ。
私のトラウマを癒すために大切に大切にしてくれた彼はもういない。
その証拠が昨日の扱いだ。
けれど夜中に私の頬を撫でてくれた優しい指が、あの頃の雄介もまだ僅かに残っていると主張し、その可能性にすがりつきたくなるのも事実だ。
「なんか疲れた」
ぽつりと本音が口からこぼれた。
彼を想うのもあれこれ邪推するのも、それに振り回されるのももう疲れた。
布団が濡れるのも構わずベッドに転がる。
大学へ行く気は限りなくゼロに近い。
どうやっても今から支度して出かける気力は出せそうになかった。
今日の講義の出席日数を冷静に数え、休んでしまおうと再び布団の中へ潜り込む。
何も考えたくない。
一応休むと美波にメールを送り、目を閉じると着信音。
美波からの返信にしては早いなと思いながらメールの受信箱を開く。
そこには『あなたの出会いをサポート!』などというやたらテンションの高い迷惑メールが表示されており、うんざりしながら削除する。
そのまま携帯を枕元へ放り投げようとして、ふと手を止めた。
出会い系なんて誰かが儲けるための悪徳サイトだと思っていたが、本当に出会いがあるのだろうか。
実際に出会い系ではないが、趣味のサイトで知り合って付き合いだした人もいると噂に聞いたことがある。
正直、今は恋愛は無理だけれど、毎日毎日一人で過ごすのは考えられなかった。
毎週のように夜遊びや飲みに付き合ってくれている友達だってそろそろ私の誘いをウザいと思い始めているかもしれない。
そんな興味本位で私は、業界大手と言われているSNSのサイトを開いた。
面倒だと思いながらも登録して、プロフィールを設定する。
簡単な操作しかなかったが使い方がよく分からなくて、自分のページが完成するまでに二時間近くも費やしていた。
ようやく出来上がったプロフィールをチェックして他人から見て自分だと分からないことを確認し、出会いのためのコミュニティーに参加してみた。
少しでも何かが変わりますように。
そう願いながら画面を眺めるうちに眠くなってきた私は睡魔に任せて惰眠を貪るべく目を閉じた。