10
「分かってるんだよ。お前が本当は俺のことまだ好きなこと」
部屋には私達二人しかいないというのに、雄介は内緒話でもしてるかのように耳元で囁く。
「酔うと電話もかけてくるし、その上指輪も返せなんてさ。そうとしか思えないだろ」
嘲笑するような声のトーンに私も必死で反論する。
「あんたなんかもう好きじゃない」
密着している身体をどかそうと彼の胸を押した。
それが気に食わなかったのか、彼は私をベッドへ力任せに突き飛ばす。
「いた…」
「痛くないだろ」
確かに身体はベッドの上だ。痛くはない。
けれど心がひどく痛む。
この人は私を大切にすると約束してくれた雄介なんだろうか?
キスをされながら疑問が浮かぶ。
荒々しい仕草に彼の苛立ちを感じた気がして私はされるがままだった。
「俺が来るって聞いてどんな気持ちだった?こんな胸が見えそうな服着ちゃって。なに?誘ってるの?」
「違う」
あまりにもな言い草に即答する。
変に気負わずに会うつもりだったから普段着、しかも部屋着のような格好だ。
「望み通りにしてやるよ」
そう言うが早いか雄介は私の服の中に手を入れてきた。
こんなはずじゃなかったのにな、と私はされるがままになりながら諦め半分で天井を見つめる。
この状況でも彼に触れられるのが嬉しいと思ってしまうなんて、私はどこかいかれてるんだろう。
拒めない、けれど拒むべきだと理性が訴えかけてくるが、何故か指先ひとつ動かすことができなかった。
さっきまで涼しかった部屋がやけに暑く感じる。
しかししばらくして雄介がふと手を止めた。
どうしたんだろうとぼんやり目を向ける。
雄介は自分の下着を中途半端におろし、昂ぶったものを私の口元へ押し付けてきた。
「お前にはもう触らない」
「え?」
「やらないよ。言ったろ?俺には大切な人がいるって」
よく意味が分からなくて彼の瞳を見つめ返した。
楽しそうな、けれど悪い表情。
こんな顔は付き合ってる時には見たことがなかった。
ぐいぐいと腰を押し付けられて、反射的に口を開く。
「俺が出したらオシマイね」
そう言って彼は自分が満足するまで私の口を好きに使った。
ムカついて情けなくて目の奥がつんとしてくる。
中途半端に触られて放り出された自分が可哀想な気すらしてきた。
とにかく今の状況が早く終わりますように、そう思いながら私は耐えるしかなかった。
その夜遅く、何かの気配にふと目が覚めた。
目を閉じたまま私は意識だけをそちらに向ける。
結局雄介は宣言通りあの後私の口に出すものを出し、それ以上のことはしてこなかった。
そして当然のようにベッドに転がり、そのまま一緒に眠りについた。
閉じた視界の中でもまだ部屋の中が暗いのが分かる。
その気配の招待が分からないまま、そのままさっきまでいた心地よい眠りの中に身を投じようとした時、頬に温かいものが触れた。
ゆっくりゆっくり私の頬をなぞる指。
その感触が気持ちよくて身を任せる。
さっきまで私に対してひどい扱いをしていたのに思う。
ずるい、と。
せっかく嫌いになれると思ったのに、こんな愛情がこもったようなことをされたら単純な私の心は彼にまた舞い戻ってしまうではないか。
空調だけが静かに鳴る深夜独特の倦怠感の中、私は彼の指先を感じながら抗えない睡魔によって再び眠りについた。
錯覚かもしれないが、隣りにあるぬくもりに幸せすら感じていた。