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その7

「ニルヴ……もう長男とは『お話』は済ませてきた?」

「うん……朝まで眠れなかった。エレインは?」

「……あたしと長男に、言葉は要らなかったよ」

「ニルヴ……あたしの子、とても男らしかったよ」

「そう……うちの子はビビリでね……将来が思いやられるかな」

「『妹達は、ママほど優しくないんだよ!』」

「アハハ、それダレの真似?」

「サリー……息子にそう言ったんだって」


 未知の巨大生物との戦闘、無理のある人口増加政策による長男たちの反乱と、入植以来様々な困難に立ち向かってきたオーストラリア殖民政府。

 思えば長男たちのクーデターは、彼『女』達の地位を、大幅に下落せしめた。


 まず、最初に起きた問題は、『船樽』の処理能力の超過……つまり、旧指導部7人では性処理が追いつかなくなったことだった。

 それに、失脚したとはいえ指導部が性的慰安にまわされたことで、彼『女』達の権威自体に大きく影をさした。

 結果的に、長男たち独特の持って回った小難しい理由が付いて、新生児摘出もしくは腸詰交換時に彼女達もれなく全員の股間に肉色の筒が内臓された。

 その人造膣は高度な除菌成分を持っていて、なおかつ子宮どころか腸詰とすら一切繋がっていない。

 そもそも腸詰は人間の受精卵も着床できるよう処理された子宮を持っているだけで、腸詰の卵巣自体は純粋にエストロゲン生成用の豚のそれだった。

 豚の卵管はそのまま子宮には繋がらず直腸につながり、卵子はそのまま排泄器官に直行する仕組みになっている。


 長男たちの成長に従い、彼『女』達の仕事は兵士からも指揮官からも科学者からも医師からも追いやられ、ただの『女』へと変化していった。

 地球由来の優秀な子を産み育て、あくまでもボランティアとして超巨大化した『船樽』で息子達の性の悩みを受け止める。


 息子達は姉妹が成長するにつれ、姉妹は決して彼等を産み育てた彼『女』たちのようには成長しないということを悟ったのだった。


『あたし達の顔、もともとはメイドロボっていう男性向けセクサロイドの量産パーツの流用なんだよね』

 もともと人間の表情を構成するのは、57本の表情筋。それを25本にまで切り詰めて構成されていた。これで、人間の表情はほぼカバーできる。

 そして、写実からCG、CGから立体造形物になるたびに問題になった、人間に似せれば似せるほど不気味になる『不気味の谷現象』。

 当時の科学力と美術力では、立体物の人でないものの人間らしさを表現するには、不気味の谷の手前で妥協するしかなかった。


 そして『人間らしく不美人な顔』製造の難易度の結果、全員が当時流行の民生品メイドロボのフェイスパーツの流用となった。

 もともと存在しなかったのに、わざわざ作り出してまで不自然な彼『女』の顔と身体を作った男達が地球にいた。

 その胴体と頭部がさらに改造され、アンドロイドが子宮付きのサイボーグとなった。最も原始的で安価な、量産可能の人を産む機械。

 そして、産まれたときからメイドロボ顔の母親に育てられた長男達。


 ようするに、妹達が15歳を過ぎてもそれはそれとして捉え、未だにママの乳首がないおっぱいが性的な意味で恋しい男達が、半分ぐらいはいた。

 もちろん生身の妹達は別枠として、船樽は彼『女』達の好むと好まざるに関わらずに、なくてはならない機能となった。

 こうして妹達が妻になっても、マザーファッカーは後から後から沸いてきた。


「妹はもうあんなにいるのに、どうして船樽の需要は増え続けるのかな?」

 数年前から、義体医師のサリーと専用ナースのミネルヴァの本業はIQ140を超えるサイバネティック工学博士号を持つ長男の一人に取って代わられた。そして今は、女医と看護婦の『コスプレ』で船樽にボランティア(ご奉仕)に出かける身だ。

 名誉ある先遣隊隊長のオードリーと調査リーダーのシンシアは最後の最後までボランティアを猶予されていたが、『栄光のヘルダイバー降下作戦プレイ』をしたい息子達の予約リストは長くなっていくばかりだった。


 ニルヴとエレインは、その温和でおっちょこちょいな元来の性格に全く似合わないクールビューティーな『死神』特殊部隊員と、歴戦の女鬼軍曹としてサディスティックに『しごき倒す』プレイの需要があった。


 しかし……それでもまだマシだった。


「ニルヴ、軍票を受け取りに行くんだけど、一緒に行かない?」

「ごめん、アリシア。今日から用事があるんだ」

「……ふーん。三男くんは、そろそろ成人だったね。もうそんな時期かぁ……」


 この星では、義務教育は15歳までだった。むしろ、教育は『15歳までしか受けられない』というシステムだった。

 人間の肉体の成熟が男子で18歳、女子で15歳でピークを迎える。その時期に結婚および出産する体制に入るのが望ましいからである。

 地球の先進国が教育水準と人口増加に大きな矛盾を抱えていたのは、高校と大学の存在自体に問題があったためだった。

 進学率が高いほど、人口増加率が下がる。しかも15歳から22歳までの生物として最も優秀な子孫を残せる時期に繁殖を許容しない地球のシステムは、それ自体が欠陥制度と言わざるを得なかった。

 その問題を、DNA選抜による知能の強化と個別指導による格差の許容で解決するのが、惑星オーストラリアの人口計画のコンセプトだった。

 学歴は、いつまで勉強するかではなく、どこまで勉強できるかで決定した。


 三男は、栄光のヘルダイバー降下作戦の『ガンスリンガー(銃使い)』死神ニルヴに憧れ、対巨大生物専門の猟兵・ハンターソルジャーを志望していた。

そして今日は、ニルヴが息子に教える最後の日だった。

 今日教えることは決まっていた。

1.ハンターソルジャーのあり方

2.生き物の命を奪うということ

3.男女とは何か


「うん! どれもとっても大事なことだよ! 頑張って、ちゃんと教えてあげなきゃ!」

「……まあ、いつもと同じだよ。 狩りに行って、獲物を仕留めて、ご褒美をあげる」

「そうだね、いつもと同じだね……でも今日の生徒は、ニルヴが自分で産んだ子なんだよねぇ」

 今日のためにニルヴは手作りのくるみ焼きと、中をくり貫いて居住している巨木の木質を糖に分解して生成した自家製酒・メープルラムも用意した。

 さらに義体表皮のシリコン皮膜を噴き替え、人工膣も新調した。出来る限り、新品同様になるよう計らった。


 そして、念のためにクリーパーには鉈と携行用のCSS(細胞休眠システム)フリーザーを積み込む。

「……ちょっと過保護かなぁ……アリシア」

「そんなことないよ、ニルヴ。自分の子はいつだって特別だよ! 頑張って素敵な成人の儀式にしてあげてね!」

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