表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

その6

「……こういうジョークって聞いたことあるかな?


 船長『それでは新入り、今日からこの船がキサマの職場だ!』

 新入り『はい船長!』

 船長『飯は1日3回、8時間の睡眠時間が与えられる。そしてムラムラしてきたら、月・水・木・土・日の20時から24時までの間に、あの樽の穴にナニを突っ込め。性欲を処理してくれる』

 新入り『それはすごい! でもなんで火曜と金曜はやってないんですか?』

 船長『その日はキサマが樽の中に入ることになっている』


……ってヤツ」

 エレインは、定番のジョークを口にする。

「……なんでみんな、忘れちゃってたのかな。もともと男だったのに……こんな当たり前のこと」

 ニルヴは、半ベソをかいている。

「このジョークだったらまだマシだよ……アタシ等の場合はただ単に樽に入れられるだけで、樽を使えるわけじゃないんだから」

 オードリーは、うんざりした表情を浮かべている。


 義体は、あくまでも簡略化した人体である。

 たとえば舌と声帯に空気を通して「喋る」というのはコストがかかりすぎるため、肺自体を振動させて 音を出す内蔵型スピーカーになっている。そして舌は口腔内に固定されたまま膨らむことと萎むことしかできない。

 そのおかげで食べながら喋ったり口を閉じたまま喋ったり、どんな人物や動物・環境音の声帯模写をすることも可能だ。なにせ、声帯のような楽器に近い構造ではなく、単なるスピーカーなのだから。

 もともと股間の排泄器官ですら1個しかなく、しかもその直径は最大で1.5センチにしかならない。股間には肛門付近に肛門に似た小さな穴があるだけで、それ以外には外性器に似せた飾りすらない。

 同様の理由で、臍と乳首も存在しなかった。

 

 つまり、妊娠は出来るがそれに至る行為は一切不能の、不出来な『女』の模型であった。


 しかし、それでも問題は起きないはずだった。彼『女』達が愚かでさえなければ。

「いったい誰が言い出したんだよう! 入植してから最初の3年間は、男の子だけ産もうだなんて!」

「そのあと3年は、女の子ばっかり産んできたんだよね」

「……そして、それが最悪だった」

 初年度の430人から少しは減ったものの、それでも年間平均350人づつ子供は生み出されている。

 惑星オーストラリアの現段階の人口は、入植開始から15年で5000人を超えるまで増加した。そして解凍時には既に妊娠していた約100名のうち50名しか、15歳の女子がいない。

 その次の世代の女児は、上の330人がまだ12歳になったばかり。1000名を超える13歳以上の男子の中に、女はたった50人しかいなかった。

 1000人の健全な青少年の欲望を、男であった事実を消去された彼『女』達は甘く見ていた。


 指導部は、男子が18歳を迎えたときに女子が15歳になることで、最大速度での人口増加が期待されるとしていた。

 しかし、少なくとも12歳から起こる第2次性徴期から18歳までの獣の6年間をどうやって過ごせというのか?


 彼『女』らは、やっと軌道に乗ってきた惑星オーストラリアの経営そっちのけで、長男達の性欲と闘う羽目になった。

 まずは地球からデータとして持ち込まれたポルノコンテンツをすべて破棄し、自慰を禁止した。

 もちろん、妹達はまだ12歳から9歳、もしくはそれ以下の年齢だから、性行為も禁止している。


「その結果が、このザマだよ。長男達の6割近くが腐れファグになっちまった、あとの3割はロリコンかマザーファッカーだ。

 地球で生まれてりゃ映画スターと政治家と科学者全部になれるようなエリート中のエリートのDNAなのに、自分達でそのブランド品の精子のかけっこをしてやがる!」

 サリーが吐き棄てるように言う。最年長者が14歳になった頃から突然、年長男子が同級生や年下の弟を恋人にするようになった。

 12歳になった妹達からも、すでにこの1年間で70人近くの妊婦を出している。

 娘を守るために、自ら長男に体を差し出す彼『女』達も現れた。しかし、舌が動かない口と挿入できる穴が全くない義体に満足できる長男は、そう多くはなかった。


 そして一旦広まった同性愛の普遍化はいくら罰しても防ぎようがない。動く舌と入れる穴が1個あるだけ、男でも彼『女』達よりはずっとマシだった、ということだ。

 それでも1割はノーマルを維持する男子もいたが、ようするに50人の女子に二股以上をかけられている100人ということになる。


 自然の摂理に反した、効率のみの非現実的な人口増加プランを提唱した首脳陣の責任が問われた。

 ちゃんと最初から半分づつ男女を生み出していれば、あるいはその後も短絡的にポルノを廃棄しなければ、長男達の反乱を抑えることが出来たはずだった。

 しかし、短絡的な方法を取ってしまった。その結果、行き場のなくなった性欲は怒りへと転化し、八方ふさがりの状況を生み出した。


 そして今回の長男達による反乱の鎮圧の実行部隊に選ばれたのが、オードリー率いるオーストラリア先遣隊の10名だった。

 ニルヴとエレイン、そしてアリシアはいつのまにか首脳陣の座に納まっている7人の指導部の要人警護に当たっている。

 彼『女』らは単に例外的に知能指数が高く、全員120を超えていた。110以上が2人でそのうち1人がシンシア、100以上なら8人しかいない中でその1人がオードリー。あとは全員揃って、100未満の知能指数だった。

 ちなみに長男達の平均知能指数は、地球標準では135を超えている。つまり一番頭が悪い長男達と一番賢い彼『女』達で、ほぼ同レベルという状態だった。


 シンシアは、指導部の場当たり的な方針に疑問を抱いていた。

 そして今回の暴動に対する責任の所在も明確にしたいと考えていたし、なにより自分の長男達に暴徒鎮圧用とはいえ銃口を向けたくはなかった。

 だからシンシアは、今回の暴動の『最終的解決案』を計画した。


「……こういうジョークって聞いたことありますか?


 船長『じゃあ新入り、今日からこの船がオマエの仕事場だ!』

 船員『はい船長!』

 船長『飯は1日3回、睡眠時間は8時間だ。溜まってきたら月・水・木・土・日の20時から24時までの間に、あの樽の穴にナニを突っ込め。スッキリする』

 新入り『すごい! でもなんで火曜と金曜は休みなんですか?』

 船長『その日はオマエが樽の中に入ることになっている』


 ……ってヤツ。さっきエレインから聞いたんですけど」

 ニルヴは、定番のジョークを口にする。

「それがどうしたって言うの! 早くバカ息子達を排除しなさいよ、この際多少の犠牲はやむおえないから!」

「ですよねー、『多少の犠牲は』やむおえませんよねー……」

 ニルヴとエレインは、指導部の面々を避難場所に退避させる。

「ここって、義体用メンテナンスルームだね」

「篭城するには絶好の場所かも、ここなら治療も速やかに行えるよ」

 サリーは、指導部をにこやかに出迎える。

「そうですね、もっと色々できますよ……改造とか」

「改造?」

 幹部の一人が問い返すと同時に、小型のジュース缶とほぼ同じ大きさの肉色の筒を投げ渡す。

「悪いけど、びっくりおもちゃで遊んでる暇は……」

 言いかけた幹部が、黙り込む。

 筒の片端は、女性の外性器そのものだった。


「ようするに、『誰が』樽に入るか、ということです」


 絶句する指導部の面々に、ニルヴとエレインは暴徒鎮圧用粘着投網を撃ち込んだ。

「今から皆さんの股間から腸詰へのデッドスペースに、これを埋め込みます」

 今は樽が必要だ。そして樽が必要になったのは、明らかに指導部の失敗が原因だった。

 では樽に入る責任がある者は誰か? 答えは、決まっていた。


『泡姫は確保したよ、オーヴァー』

 オードリーは、粘りに粘って待ち続けた知らせを受けた。

「もうお互いに武器を収めましょう。指導部は全員失脚した。それから、エッチなお姉さんもなぜか同じ人数だけご奉仕してくれることになるわ!」


 欲求不満という行き場のないエネルギーに衝き動かされていた長男たちは、初めて耳を傾けた。


「……うん! いい出来!」

 ニルヴとアリシアは、義体用シャワールームの一角に『ソープランドShipBarrel(船樽)』という手製の看板を掲げる。

「ところで……ソープランドってなに?」

「タイや韓国や日本なんかのアジアでメジャーだった、特殊な公衆浴場を利用した性風俗サービス。もともとは日本の男娼のサービスだったんだって」

 シンシアは答える。

 失脚した指導部の、新しい服務先だった。

 これから、旧指導部は自らの想定の範囲外だった長男達の性の悩みを、その身を挺して解決していくことになる。

 せめてもの情けで、最初の客だけは選ぶ権利を旧指導部側に与えた。ほぼ全員が、最初の客に自分自身の長男を指名した。

 同性愛者やロリコンにするぐらいなら、マザーファッカーになったとしても大人の女を愛する道を選んでほしいという親心だったのかもしれない。

 いや、たぶん元々半分はマザーファッカーだったのかもしれない。ただファックできずに満足させられなかっただけで。


「いい気味だよ、あいつら!」

「でも……自分の長男が旧指導部のお世話になると思うと、なんだかやだな」


 破棄されたと発表されていたアダルトコンテンツは長男たちの熱心なサルベージ作業を経てほぼ完全に復旧し、13歳以上と15歳以上の等級に分けて段階的に公開された。

 一度流行した同性愛はどうしようもなかったが、妊娠する妹達の数が劇的に減少したのは幸いだった。


 しかし、これが旧指導部の失敗のさらに上を行く失敗になるとは、この時点ではマザーファッカーしか気付いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ