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二十話 終戦と帰還

 優と佐祐、狼牙の三人は馬に乗り戦地から大きく離れて行く。


 三人の作戦は、戦慄を離れ、大きく外回りし、敵陣の大将のいる所まで一気に押し寄せるのだ。


 まともにやり合えば勝てるはずがない。大きな賭けにでなければ……。




 紬は天守閣で上から戦場の様子を窺う。


 やはり相手は有名な戦国大名でもあり、その力、勢いはこちらの比ではない。


 確実に押しやられ、形勢は誰が見ても不利である。


 すぐに不知火を使い、応戦してもいいのだが、数が多すぎて間に合わないだろうし、力を使い過ぎれば、鏡花水月が使えなくなり、負傷した武士たちの手当てが遅れてしまう。


 あともう少しでいい。敵の数を減らし、形勢を良くすれば……。




「優殿、もうすぐ敵陣である」


 先頭を走る佐祐さんが後ろの優に告げる。


「はい……」


「良いか、決して同情してはならぬ。それは死に繋がる。一番悲しむのは姫様だ。どうか死なないでくれ」


「……はい……」


「ふん。しけた顔しやがって。しっかりしねぇと、すぐにあの世行きだぞ」


 それはわかっていた。ただ、心配なのは、自分が人を切ることができるかだ。


 この時代では人を切ることは名誉であり、名を上げるために、そして勝つために許された行為であるが、現代ではそれは許されない、絶対的掟。


 まだ覚悟さえ決まっていない自分なのに、このまま参戦していいのだろうか。


 三人は草陰の手前で馬から降り、姿勢を低くして敵陣へと入りこんでいく。


「待て」


 佐祐さんが制止させる。


目の前には敵陣のマークに書かれた陣地がある。白い垂れ幕で中は良く見えないが、大将がおり、それを守る強い武士たちがいるのだろう。


「良いか、今から作戦通り、奇襲をかけるぞ。相手の不意を討つのだが、成功すればいいが、失敗する可能性も大きい。迷いは禁物。相手の大将を倒すことだけ考えるのだ」


 二人は頷く。


「よし、狼牙と私が先に出る。優殿は後ろから着いて来るのだ」


「わかりました」


「へへ、やっとやれるぜ」


 狼牙は嬉しそうに余裕の笑みを浮かべる。


 優は腰に挿してある佐祐さんから貰った刀を握る。


 緊張が収まらない。試合なら、こんなことないのだが、今から生死をかけた戦いが始まる。


 自分が死ねば、この国も、人も、そして紬も……死ぬ。


「よし、行くぞ」


 佐祐さんの合図で三人は走り出した。


 優は、覚悟を決めた。




 紬はさっきからそわそわして落ち着きが無かった。


 今の状況では不知火は使えない。予想以上に負傷者が多く、このままでは鏡花水月のために力を残すしかない。


 無敵と思っていた不知火が、こんな形で封じられるとは予想外だった。


 それに、優の安否が気になる。


 まさか優が戦に参加するなんて……。


 やはり無理にでも止めればよかったかもしれない。


 優はこの時代の者ではない、関係のないことなのだ。


 ならば、死に行くようなこと……。


「……っ……」


 そこで紬は口元を抑え、その場に崩れ落ちる。


 自分のせいだ。


 自分のわがままで、優が死んでしまう……。


 全部自分のせいだ。


「うっ……、ふっ……、ううぅ……」


 紬は嗚咽を漏らし、涙を流してしまう。


 自分の無気力に、自分の無責任に、無償に腹が立った……。


「優……」


 どうか、生きて帰ってきて……。




「うおおおおおおっ!」


 三人は奇襲をかけ、背後から攻め込んだ。


 やはり大将らしき人がいた。しかし、その分多くの武士もいる。


「雑魚はまかせろ!」


 狼牙が槍を振りまわし、次々に倒していく。


「優殿、ここからは別行動だ! 相手の大将を倒すことだけ考えるんだ!」


「はい!」


 佐祐さんは刀を抜き、目の前の敵から倒していく。


 優は大将を探した。 大将は隅の方に下がり、何人かの武士が守っていた。


 優は刀を握り飛び出した。


「ぬっ。見慣れぬ姿だな」


「……お前が大将か」


「変な言葉を使うのだな。いかにも、私が大将だ」


「お前には聞きたいことがある」


「ん? なんだ」


 優は周りを警戒しながら問い掛ける。


「どうして紬……音姫を欲しいと思ったんだ」


「ああ、そりゃあの力に決まっておるじゃろ」


 その答えに優は疑問の表情になる。


「……力?」


「そうとも。音姫の不思議な力の噂は十分耳にしておる。不知火、鏡花水月、実に欲しい力だ。この力さえあれば、天下も夢じゃない。いや、それだけではない。金も、地位も、名誉も、そして女、全て私のものだ!」


「だったら、お前は音姫の気持ちは何も考えてないんだな!」


「気持ち? お主はさっきから何をほざいておる。一国の姫の役目など、領土拡大しか使い道は無かろう。なのに断りおって。もう必要ない。来ないから奪うまでよ」


 島津は不敵に高笑いする。


 優は刀を握る拳に力が入っていた。


 許せなかった。こいつだけは、許せなかった……。


 確かにこの時代ではそうかもしれない。環境によって考えも見方も変わることはある。


 でも、だからといって……。


 人の心を弄んでいいはずがない!


「くっ!」


 もう迷いはなかった。気がつけば、手が勝手に動き、刀を抜いていた。


 目の前に煌めく刃は、光に反射し、その鋭さを物語っていた。


「お前は、俺が倒す」


「ふっ。子供が、小癪なまねを。……やれ!」


 さっきまで大将を守っていた武士たちが刀を抜いて襲いかかってくる。


 優は肩の力を抜いてすっと構え、集中力を高める。


 もう、死ぬ気がしなかった……。




「優……」


 紬は顔を上げて戦場の状態を確認する。


 形勢は未だに不利。もうダメだ……。


 そのときだ。


「姫様! 報告します! 佐祐殿、狼牙殿、優殿の、以下三名による奇襲が成功。今大将を目の前に戦闘中とのこと!」


「なにっ」


 紬は目を凝らして遠くにある敵陣を凝視する。確かに中では慌ただしかった。


「すぐに援護の準備! 残っている者全員で攻め入るのじゃ!」


「はっ!」


 報告に来た武士はすぐに階段を降りて行く。


「優……」


 紬は泣きながらも笑みは消えなかった。


 生きていてくれたか……。




「な、なんじゃ、これは……」


 敵の大将は目の前の光景に呆然となる。


 たった一人の敵、見慣れぬ姿をした若者に糸もたやすくやられているのだ。


 皆それなりの腕のあるものばかり。なのに、夢のようにその場に倒れ伏しているのだ。


 優はその場で甲冑を脱ぎ捨てた。そして大将を睨みつける。


「次は、お前の番だ……」


「ぐっ……。他におらぬか! 戦えるものはおらぬか!」


 しかし、大勢いた武士たちは佐祐や狼牙にやられ、その数はすでに皆無だった。


 優は鋭い目つきで睨みながら、すっと刃先を大将に向けた。


「詫びろ。今ここで謝罪するんだ。音姫の侮辱を謝れ。さもなくば、ここでお前を殺す」


「うっ……。わ、わかった……」


 そのときだ。


パンッ!


 渇いた音が響き渡った。その音が止むとき、ドサッと優はその場に倒れた。


「優殿!」


 佐祐はすぐに優のもとに駆け寄る。


「優殿! 大丈夫か!」


「うっ……、くそっ……」


「動くな。撃たれたのだな。すぐに止血する」


 すると、優はすっと佐祐の肩を掴んで立ち上がった。


「あいつを……殺してやる……」


「待て! 無茶するな!」


 しかし、優は目の前にいる大将から目を離さなかった。


 大将は手に持っている銃を構えながら笑みを浮かべる。


「ふん。かすめただけか。次は当てる」


 しかし、遅かった。


 すでに優は動いており、一瞬で懐に入っていた。


「なにっ!」


「くらえぇ!」


 優は柄を握り締め、そして刃を仰向けにし、天高く突き上げ、弧を描かせた。


 大将は首をやられ、宙を舞う。


 そして力はて、その場に倒れた。


 優はその場に膝を着いた。


 これで、終わりだ……。




「……んっ……」


 優は目を開けた。ぼやけた視界を元に戻し、当たりを見渡す。


 自分は佐祐の背中におり、戦が終わって帰っている途中だった。


「お、気がついたか、優殿」


「佐祐さん……。俺たち、勝ったんですよね?」


「ああ。勝った。私たちは勝ったのだ」


 その言葉に全員が笑みを浮かべる。


 優は腰にある刀にそっと触れた。


「佐祐さん、この刀、ありがとうございました。まさか、人を切らない刀があるなんて……」


「うむ。それは逆刃刀というのだ。刃がないから、打撲程度しか使えぬ。優殿にはぴったりだがの」


「……これのおかげですよ。俺は、人を殺さなくて済みました」


 優はふと息を吐く。


「ほら、見えて来たぞ」


「え?」


 目の前には自分たちの国、そして住み家が広がっていた。


 皆こちらを見て大きく手を振っている。


 そこで優はやっと実感できた。


 守れた。


 この国を……。


 城を……。


 そして、紬を……。


 そのときだ。


「優ー!」


 城の入り口から大きな声が聞こえた。


 そこには紬がいた。他にも、衣も、霙もいる。


 優はその姿を見れただけで嬉しくなった。


「佐祐さん……自分で歩きます」


「ん? そうか」


 佐祐さんはそっと優を降ろす。


 優はふらふらになりながらも、ゆっくりとした足取りで歩き、そして紬たちの下に向かっていく。


 紬も歩きだし、何度も滲み出て来る涙を手の甲で払いながら進んでいく。


 そして二人は立ち止り、向かい合った。


「……優」


「……ただいま、お姫様」


 優はニッと笑みを浮かべる。


 紬は目じりを拭いて笑い返す。


「このたわけが。無事に帰って来いっていったのに、ぼろぼろではないか」


「ごめん。でも……」


 優は真っ直ぐに紬を見つめた。


「死ななかっただろ」


 その言葉に、紬は抑えきれなくなった涙を流し、そのまま優に抱きついた。


「優!」


 紬を受け止め、そっと抱きしめ返す。


「良かった……。本当に良かった……。良くぞ帰ってきてくれた……。ほんとに、すまなかった。……ありがとう、優……」


 優は紬の頭を撫でながら、そっと目を瞑った。


 これで、全て終わったんだ……。






 戦が終わり、一ヶ月が経った。


 紬の鏡花水月のおかげで生き残った者たちの傷も完治し、無事に元に戻って行った。


 優の傷も治り、今では万全だった。


 そんなとき、優と佐祐は紬のお気に入りの場所である泉の場所まで来た。


「どうしたのだ、こんなところまで」


 佐祐さんが問いかける。


 優は馬から降り、紬が前に掘った跡のある木に触れながら口を開いた。


「佐祐さん。俺は……もうすぐ消えます」


「なに? どういうことだ?」


「……役目を果たしたから」


「役目? それは何だ?」


「ちゃんと話します。佐祐さんには、全て……。その前に、今から僕と真剣勝負してください」


「なに? ここでか?」


「はい。そして約束してください」


「なにを?」


「もし僕が勝ったら……紬と結婚すると」


「なっ! それはどういう――」


「約束ですよ。それでは、いきます」


 優は逆刃刀を抜き、集中力を高める。


 佐祐も馬から降りると、真剣を抜き、じっと構える。


「佐祐さん……」


「ん?」


「……ありがとう」


 優は俊敏に動きだし、佐祐も後から出て、試合が始まった。




 その次の日、優、紬、佐祐の三人は再びこの場所を訪れた。


「それで、話とは何だ、優?」


 紬は綺麗に輝く泉を手で掬いながら問い掛ける。


「うん……。紬、悪いけど、ここでお別れだ」


「……え?」


 紬は耳を疑い、その場に立ち上がって優を見る。


「な、なんの冗談じゃ? 嘘じゃろ? 嘘だといってくれ!」


 紬は真剣に懇願する。しかし、優は力なく首を振った。


「そんな……」


 紬の目から涙が流れる。


「どうしてじゃ……、ここにおれば良い。ずっと……ここにおれば良いではないか……。何も不自由なく暮らさせてやる。望みがあれば何でもやる……。だから、ここにいてくれ……」


 それでも、優は首を振る。


「俺はこの時代のものじゃない。自分の時代に帰るんだ……。それにわかったんだ。俺がここに来た理由」


「……それは、何じゃ……?」


「紬、お前を守るためだ」


「え?」


 優はそっと紬に近づき、そして優しく抱いた。


「紬を守ること、それが、俺がこの時代に来た理由だ。死なせないために……」


「な、何をいうておる……。そんなことが理由に――」


「なるんだよ。俺は未来から来たんだ。……全てわかるんだよ」


「そんな……」


 優はそっと紬を離し見つめる。


「紬……、ありがとう。お前のことは忘れない。だから……」


 そこで優はうつむき、口を閉ざす。


「優……」


 紬がぽつりと呟き、手で口を抑える。


 優は流れ出て来る涙を我慢しようと唇を噛み、拳を固く握っていた。


 それでも、溢れる涙は止まらず、頬を伝い落ちて行く。


 ここにきて、いろんなことがあった。


 紬と出逢い、下僕になり、衣に出逢い、こきつかわれ、試合もして、霙に出逢って、側近になって、戦にも出た。そして……。


 一人の女を好きになった……。


「うっ……、ぐすっ……」


 優は何度も手の甲で涙を拭う。しかし、なかなか収まらず視界がぼやける。


 しょうじき言えば、ここにいたい。ずっと紬のそばにいたかった。


 でも、歴史を変えてはいけない。


 ここで、帰らないといけないんだ。


 優は震える体を何とか抑え、懸命に口を開く。


「……紬……。俺さ、ここにきて……楽しかったぜ……。いろいろお前には、手を焼かされたけど……うっ……それが、充実して……すっげぇ……楽しかった……」


 優は何度も鼻を啜り、息を吸う。


「だから……紬の側近になれて……、この時代で出逢って……本当に良かった……」


 紬も手で口を抑えながら涙を流し続ける。そして一言も聞き逃さないようにと、耳を傾き続けた。


「……俺がいなくなっても、元気でな……。衣や霙と……仲良くするんだぞ……」


「……うん……うん……」


「もう……一人で何でもこなせよ……。頼ってばかりじゃ……ダメだからな……」


「うん……」


「それから……それから……」


 言いたいことはたくさんある。でも、それを上手くまとめることができなかった。


 ただ、目の前にいる女性を、忘れないようにしようということしか、今の自分にはできなかった。


「……ありがとう……元気でな……」


 優は最後のそう残し、ポケットにある巻物を取り出した。


 その瞬間、白い光が輝き始めた。


 これで、お別れだ……。


「優!」


 紬が声を上げる。


「わらわも、お主と出逢えて本当に良かった。心から感謝する! わらわは待っておる! いつかきっと、また会いに来てくれると!」


 優は涙を拭うと力強くうなずいた。


「うん!」


「ありがとう、優!」


 その瞬間、優の姿は消え、光だけが残り、その光もやがて消えてしまった……。






「痛っ!」


 優は自分の家の物置の中で倒れていた。


「いって~。あれ? ここは……」


 優は携帯で時間と日付を確認する。


「え?」


 日付はあの日と変わらない。時間も十分程度しか経っていなかった。


「どういうことだ?」


 そのときだ。


「おら、優! さっさと片付け終えないと、飯抜きだぞ!」


 母屋から親父の声が聞こえる。


「俺、戻ってきたのか……」


 いまいちぱっと納得できなかった。


 とりあえず、物置から出て庭に出る。


 そのとき、優の足が止まった。


「あっ……」


 目の前にある木。そこにある幹に字が掘ってあった。


『音姫のもの。無断での伐採は禁ず』と。


「紬……」


 優はそっと笑みを浮かべた。


「おら、優! さっさと着替えて来い!」


 目の前にいる親父に言われ、優は上機嫌になり、家に入った。






 佐祐と紬は座りながら話をしていた。


 前の前にある泉は綺麗である。


 佐祐は全て話した。


 ここに優が来た理由。それは、


 紬の嫁ぎに行く話をもみ消し、島津家との結婚を中止させる。そして戦に参加し、紬を守る。最後には、佐祐と結婚し、子孫を作らせる。


 つまり、紬を佐祐意外の男と結婚させないために、ここに来たということだ。


 優はただそのためだけに、この時代に来て紬を守ったのだ。


 それから、この場所で優と佐祐が真剣勝負したことも話した。


「そうじゃったのか……。なら、優はわらわの孫にあたるのか」


「そういうことになりますね。逞しい孫です」


「うむ。そうじゃな……」


 そこで佐祐は頬を赤くしながら、ぼそっと呟いた。


「あ、あの、姫様……」


「ん? 何じゃ?」


「その、これは、優殿に負けたから言うわけじゃありませんので」


「うむ。それで、何じゃ?」


「はい、その……」


「うむ」


「……結婚してください」


「……………………………………………………………………………………うむ」

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