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(白波さつき編)眼球を貪る真っ黒な悪魔 3

この小説はフィクションです。



悲しい物語が苦手な方にはお勧めできません。

少年少女が壊れていく様を書いたものです。

「グロい、可哀想」などなどの事は承知してください。






 奥の方で何か鼓動してる。

 心臓とは別の何かが……鼓動してる。

 目の奥で鼓動してる。

 ザワ……。

 何かうごめいた。小さな何かが……。

 ザワザワザワザワザワ。

 次々と動いていく。気持ち悪い。まるで虫が目の奥で……。

 目の奥に虫?

 いやいやいやぁぁぁぁ。

「どうした?白波」

 パニックに陥る寸前、先輩の声で我を取り戻す。

「すごい汗かいてるぞ」

 私は額に手を当ててみる。

 ……確かにベトベトに濡れてる。

 何考えてるんだろう。先輩と二人っきりで居られる時間なのに。

「ホント……すいません」

 先輩は急に立ち上がり、席に着く私の傍までやってくる。

 そして私の前髪を左手で軽く上げて、右手で私の額に手の平を合わせる。

 先輩の手の暖かさを感じる。

 私はそれが心地よくて……。先輩がわからないくらいの微笑を浮かべて、暖かさを感じる。

 暖かい……。

「熱は無いみたいだな」

 そっと額から手の平が離れ始める。

「あっ」

「うん?」

 離して欲しくなくてついつい声が出てしまった。

 先輩は額に手をつけたまま私の顔を覗きこむ。

「どうした?」

「いえ、その……」

 離さないでください、なんて口が裂けてもいえない。

 だから俯いてしまう。

 他の答えが無い。

 純粋に離して欲しくないだけだから咄嗟に言い訳など出てくるわけがない。

「白波……。聞いて欲しい事がある」

 先輩の真剣な声が聞こえる。

 そっと視線を上げると目の前に真剣な眼差しをした先輩の顔があった。

「なんですか?」

「俺の……彼女になって欲しい」

「……」

 え? なんて言ったの? 

 ‘彼女になって欲しい’幻聴まで聞こえ始めたのかな。

 先輩がこんな私に告白してくるわけが無い。

 だから聞き返すことにした。

「すいません。もう一度、言っ――――――――――――――――――――――――」

 私の口が塞がれた。

 手じゃない。これは……。

 先輩の唇……。

「ん……」

 鼻から息が漏れる。

 先輩が私を……。

 そっと先輩の唇が私の唇から離れた。

 先輩の唇の感触がまだ残っている。

「……」

「……」

 長い沈黙。

 次の言葉が見つからない。

 先輩は私の答えを待っている。

 今のキスは私が告白を聞き返したからした事だろうし、私が言わなきゃ話は進まない。

 早くしないと副会長二人が来てしまう。

 でも、答えが……見つからない。

 先輩のことは私も好きだ。

 薄々気付いていた。先輩と喋るときの楽しさと心地よさ、触れられたときの暖かさ。

 ただ、認めようとしていなかっただけ。

 私なんかに好きになられちゃ迷惑だと思って。

 だからこのままが良いと思っていた。

 それを先輩から打ち破ってくれた。

 私はそっちに踏み込んでも良いのだろうか。

 無駄なだけの存在じゃない。

 そっちの世界での支えはそれになる。

 存在意義を探し出すという、こっちの世界の支えからは全く異なるもの。

 そっちの世界に踏み込んでも、私の存在意義は見つからないんじゃないだろうか。

 無駄、じゃないだけで。

 頭の中がクルクル回る。

 考えがまとまらない。

 瞬間。

 眼球が切られたような激痛に襲われた。

 握り潰すのではなく、切り裂かれたような鋭い痛み。

 私は椅子から床に倒れこんだ。

「白波!!!」

 先輩が叫んでる。

 そっと抱き上げられるのを感じる。

 確かめたいけれど痛みで声は出ないし、なにより……

 目が開かなかった。

 


 体が揺れている。

 先輩が私を抱きかかえて保健室に走っているのだろう。

 痛みは治まらない。

 痛くて痛くてたまらなくて、口からうめき声が出るほど痛いのに。

 頭だけは冷静に動いてる。

 でも、ある意味拷問だ。

 こんなに痛いまま続くのならいっそ気絶してしまったほうが楽なのに。

「はぁ……はぁ……はぁ」

 先輩の息切れが聞こえる。

「はぁ……大丈夫か? もう少しの辛抱だからな」

「あうぅぅ……あ゛、う゛ぅぅぅぅぅ」

 言葉が発せれない。

仮塚かりつか先生!」

 先輩は走るのを止め、大声で叫んでいる。

 保険の先生の名前を呼ぶって事は今いる場所は保健室前?

 そっか。私を抱いてるから両手塞がってるんだ。

「どうしたの?ってまた!!?」

 ドアが開く音と共に先生の声が聞こえる。

「お願いします。前よりも酷いみたいなんです」

「いそいでベットに!」

「はい」

 また体が揺れる。

 数回揺れると先輩の暖かさからベットの温かさに変わる。

 きっと離れていくだろう先輩の手を私は手探りで探し出して掴んだ。

「どうした?白波」

 ここにいて欲しい。

 言葉が出ない私にできる唯一の伝え方だった。

 手が握り返される。

 その暖かさを感じながら、私は闇に堕ちた。






 あれから何時間経っただろうか……。

 重い体をベットから起こす。

 周りは白いカーテンに覆われている。

 先輩はいなかった。

 そりゃそうだろう。授業に参加してるに違いない。

 間違ってない。それが正解なのだから。

 私のわがままのためだけに先輩が授業をすっぽかすはずが無い。

 先輩は生徒会長なのだから。

 立ち上がってカーテンを開ける。

 誰もいないのかな?仮塚先生は……?

 カーテンの壁から顔だけ出して先生の机を見てみる。

 そこには仮塚先生とは違う生徒が机に突っ伏して眠っている。

 不振に思った私はそっと近づいてみる。

 この髪型……。この体型。

 もしかして。先輩?

 横に向けてる顔を覗きこんでみる。

 …………。

 先輩だった。

 とても穏やかな顔をしている。

 いつも凛々しい顔してるけど寝てるときはとても可愛い。

 私はこの顔をもう少し眺めていたかったので、近くにあった椅子を持ってきて先輩の顔が間近に見える位置に座る。

 待っていてくれてありがとうございます。


 窓から差し込む光は赤く、カラスの鳴き声が聞こえた。

 



 時計は私が気絶してから10時間くらい経過した時刻を示していた。


 

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