(白波さつき編)眼球を貪る真っ黒な悪魔 2
この小説はフィクションです。
悲しい物語が苦手な方にはお勧めできません。
少年少女が壊れていく様を書いたものです。
「グロい、可哀想」などなどの事は承知してください。
目を開ける。
真っ白い天井が映った。
私、今……どこで……。
顔を横にする。
真っ白いカーテンが目に入る。
その後、自分がベットに寝ていることに気付いた。
すぐに体を起こす。
ズキンと体中に痛みが走る。
私……生徒会室で……。
先輩……。
痛みを我慢しながら立ち上がり、カーテンをめくる。
保健室か……。
誰もいない……。授業に出て良いのかな?
でもこんな時間に教室に入ったらみんなの注目を集めることになる。
せめて休み時間になるまで……。
時計に目をやる。
今は二時限目。確か数学Ⅱのはず。
出席したいなぁ……。
数分悩んだ後、決まった答えは‘出席する’
めまいと足音に気を配りながら教室に向かう。
階段で三階を目指す。
パタパタと上履きが音をたてる。
極力小さくするように歩いているのだが静まり返った廊下には異常なほどに響く。
三階に着いた。
目の前の教室が私の所属するクラス。二年五組。
教室の引き戸に手をかける。
教室内から教師の声が聞こえる。
計算式の解の求め方を説明しているようだ。
その答えは13……。
教師の言葉から問題を理解しその答えを心の中で呟いてみせる。
ふぅ……と息を吐いた後に引き戸を開ける。
「つまり解は13となり………っと白波か、話なら成川から聞いてる。席に着け」
「はい」
みんなの視線が集まってる。
吐き気がする……こっち向かないで。
そんな事思いながら一番後ろの窓側の席に着く。
机には私のカバンが置いてある。
先輩……ありがとうございます。
心で礼を言った後、カバンから教科書とノートを取り出す。
「言い直すぞ。AをXで割ることにより、解は13となる」
やっぱり合ってた。
ちょっとした優越感に浸ってみる。
黒板に目を向ける。
文字が見えない。
かすれて見えるとかブレて見えるとかではなく、全く見えない。
深い深い緑の黒板しか映っていない。
周りの生徒がノートに書き込んでいるところを見ると明らかに黒板に何か書かれている。
でも見えない。
必死に目を擦る。
今回は泣いていない。
もう一度、黒板を見る。
今度はしっかりと白い字が映っていた。
何なんだろう……。
大きく首を振った後、気を取り直し授業に集中した。
帰りに生徒会室に寄った。
今日は安静にしていた方が良いと先輩に言われたので、素直に帰宅した。
珍しく疲れた。体力的ではなくこう……精神的に。
大して勉強もしていない。
やはりめまいのせいだろうか……。
落ち着かない。
ボーとリビングの椅子に腰を下ろしながらテレビを見る。
大して面白くないバラエティを終えたテレビはニュースに移行した。
『ニュースの時間です。本日未明、北海道釧路で大規模な震度6強の地震が起こりました』
地震か……最近あまり無かったから安心してたけど……。
地震は忘れた頃にやってくる。
言葉の意味がよく理解できる。
ガチャ。
リビングの扉が開く。
扉の向こうからお母さんの姿が現れた。
「あら、今日は早いのね」
「うん、生徒会の仕事が無かったから」
体調が悪くなったことは親に内緒にしておこう。
変な心配はさせたくない。
この家に必要な存在になるためにも。
迷惑ばかりかけられない。
「じゃあ、今から勉強するんでしょ?」
「う、うん」
そっか……。勉強があったんだ。私が勉強を忘れるなんて滅多に無いのに……。めまいの事を気にしすぎているから?
ここまで一年半、こんな事は起こらなかったのに、どうして急に……。
「なら今日も早く寝れるわね」
「うん、多分」
「夕飯の支度ができたら呼ぶわ」
「うん、お願い」
私はテレビを消し、リビングを後にした。
リビングの扉を閉めた瞬間。
また激しいめまいに襲われる。
私はその場に方膝つく。
両目を閉じ、呼吸を整える。
数秒経つとめまいは治まり、元に戻る。
もう……、何なんだ?
ゆっくり立ち上がり私は部屋に続く階段を踏みしめた。
七月十八日
目を覚ました私は机に突っ伏していた。
顔の下には教科書やノートが広げられたまま放置されている。
勉強しながら寝てしまった?
きっとそうだろう。
いつもならお母さんがベットに寝るように促してくる。
私がここに寝ていることから言いに来ていない事が分かる。
お母さんにしては珍しい。
昨日、どこかに出かけたのかもしれない。
私は目を擦りながら、リビングに向かった。
リビングには誰の姿もない。ただラップに包まれたハムエッグとメモ用紙がテーブルの上に置かれている。
私はメモ用紙を手に取る。
‘少し出かけます明日の朝には帰ります。お金はタンスの上に置いてあるからそれで昼食と夕飯を食べて下さい’
やっぱり出かけてた。
明日の朝か……。
私はハムエッグを温めなおさず、食べる。
乾いているのでぱりぱりしていて、あまりおいしくない。
トゥルルルルルルルルル。
家の電話が鳴り出した。
私は小走りで近づき、受話器を取る。
「もしもし」
『朝早くすいません。成川と申します』
「先輩!?」
まさかの電話相手にビックリして大声を張り上げてしまった。
『お、白波は元気を取り戻したみたいだな』
まさか……心配してくれて……。
「はい。おかげさまで」
『元気で何よりだ。心配してたんだぞ』
嬉しい……。
「すいません」
『謝るなよ。今日は学校くるのか?』
「はい。行きます」
『そうか、ならいつも通り生徒会室で待ってる』
「はい」
ブツッ
電話が切れる。
先輩が待ってくれてる。
自然に頬が緩む。
やる気もでたし、行こうかな。
私は上機嫌で振り返り、部屋に戻ろうとする。
「うっっっ!」
今度は右目に痛みが走った。
握りつぶされるような激痛。
痛みに体をよろめかせてしまった私は足をもつらせ、尻餅をつく。
それでも容赦なく、痛みは治まらない。
しばらくすると痛みも引き、元に戻る。
さっきの上機嫌はどッかにいっていた。
現実に引き戻された感じで心地悪い。
私は立ち上がり、よろめく足で部屋に向かった。