第六話:龍と水源と過去の約束
火山ではなく、悠久なる大地のプレート移動のせり上がりによるエッジの尖った高高度山脈の麓の澄んだ美しい湖。
村の水源は、この湖に繋がっている。
「こんな美しいところが汚染されているとは考えづらいが?」
「マスター含めた人間に直接影響が出るほど汚染されていたら、この辺り一帯は死の世界ですよ」
白馬のくせに白馬の王子みたいな麗しい見た目のシルフィードホワイトは、長いまつ毛をキラキラさせながら語る。
他の三人にはない新たな魅力にクラクラする。
「とにかく、降りて調べてみましょう」
湖の畔に降り立つ魔法少女たち。
……僕はおまけかな。
湖の大きさは東京ドーム丁度一個分だろう。
この世界に東京ドームなんか無いと思うけど。
すると、湖面中央から波紋が広がり中から湖面の青さに負けない青い美しい龍が姿を表す。
「ここは……汝ら許可も無い人間が立ち入って良いところではありません…私は争いは好みません。早々に立ち去りなさい」
有無を言わさぬ否定…
その威厳と巨大さと異様な威圧感に、魔法少女たちも流石に黙り込む。
だが、僕のなかではもう答えが出ていた。
「あまねく生命の根源たる美しき湖の主たる蒼き龍神よ。今日我等は貴方にお願いしに来たのではありません」
「ほう?」
巨大な古龍は少し興味を持ってくれたらしく、こちらに近付いて来た。
「この中で一番力無き人間の男よ…お前は何を言っているのだ?」
フゥン〜と言う鼻息が湖面を揺らし、ため息一つの威力からも龍神のチカラが分かるというものだ。
ゴブリナとサブリナはビビって腰を抜かしそうに僕にしがみついている。
「偉大なる龍神様は自身の事でお困りではありませんか?」
「何だと?」
「例えば…体に異常がある、おいしい野菜を最近食べていない…不衛生な場所が…」
そこまで聞いていた古龍はスゥっと頭を上げるとその高さはゆうに十数メートルに達する。
「愚か者め!!…お前たちごときが解決するような問題など我は持っておらぬわ!!」
その轟音と勢いで僕たちは吹っ飛ばされてしまう。
「いたた…皆さん大丈夫ですか?」
折り重なって湖畔の手前の茂みに突っ込んだ僕たちは、何とかそこから抜け出す。
サブリナイエローが治癒を施してくれ、ファイアーハートレッドが汚れも浄化してくれる。
「うーん…意外と簡単には行かなかったか…想定ではこの泉の主らしきあの龍が最後の魔法少女だと確信していたんだけどな…」
「マスター、私は司祭を務めてこの地を広く巡礼しておりましたが…このような古龍の伝説は、あまり聞いたことがありません」
サブリナイエローも当惑しているようだ。
「みなさん、茂みにたくさんキイチゴがありました!ピュアピュア・ベジベジ・ラブリーコン!」
ゴブリナグリーンは比較的お気楽な感じだ。手に一杯のキイチゴを豊作にして持って喜んでいる。
すると後ろから、小さなウサギが数匹飛び出してくる。
「あら!可愛いうさぎさんたち!このキイチゴが欲しいのかしら?!いいですよ~」
貧困と飢えの経験があの明るさと慈愛を育んだのであれば、僕は嬉しい。
「ともかく、今この場にとどまるのは状況的に好ましくない。一旦村に戻ろう…」
文字通り僕たちは尻尾を巻いて逃げ帰ることになってしまった。
村の集会所のテーブルに着く僕と四人の魔法少女。
そこまで深刻な状況とは言わないが、順調とは言えない結果に少々落胆する。
「さて、これからどうしたものか…」
「マスター、あの古龍は『許可ない人間』は立ち入っていい場所では…と言ってました。つまり、許可を持つ人間なら立ち入れたということになります」
サブリナは司祭だけあって、人の話をよく聞いているし要点を掴んでくれている。
「つまり…何かしらの許可を持つ必要があるということか?」
しかし、サブリナが知らない話となると、いったい以前何時の約束の話になるのか…
「あんな立派な古龍がこの辺りに居るなんて、騎士である私も知りませんでした」
辺境伯とはいえ、名家の出身のファイアーハート家も知らないとなると、伝説級の話なのか?
村に白い天馬の馬車が到着したと聞いた村長がやって来た。
「お仲間の魔法少女もまた増えましたな…うらやまけしからんことです」
「みんな粉屋のマリアの家に世話になっていて、僕は手を付けていません!」
「ははは…どうやらユーマ様は…」少しだけ真面目な顔をして「どうかなさいましたか?」
村長なりに場を和ませようとしたけど受けキレていない僕を見て何かを気付いたようだ。
流石に村の長なだけではある。
そこで、湖の件を掻い摘んで説明する。
「ふむ…司祭様であったサブリナ様も騎士のレイラ様もご存じないのであれば、その様な龍の化身の話などこの村で知る由もないと言いたいところなのですが…わが村の水源の話でもありますし…少し調べてみましょう」
どうやら、この村も小さいながらも歴史はあるようで、村長も初代ではなく三代目ということであった。
「実は、家宝という訳でもないのですが…我が家に伝わる幾つかの書物がありまして…」
村長が持ち込んできたのは木箱に収められたボロボロのぼろ切れであった。
カビてネズミがかじって殆ど判別不可能である…
「これは…」僕はあることを直感していた。
「ゴブリナグリーン、この箱に植物の促進魔法をかけてくれ」
「え?…この真っ黒なボロボロの紙の束にですか?」
「そうだ」
「うーん、わかりました!ピュアピュア・ベジベジ・ラブリーコン!」
箱が光って中のぼろ紙が修復され始める。
「これは?!」
「これ、多分…トウモロコシの皮でつくった紙ですよね?だから…」
「おお!しかし…汚れていて結局何も…」
「ファイアーハートレッド!」「うっしゃ!わかってますよ!」
炎により浄化され汚れが消えてゆく。
ところどころ、虫食いが補修された箇所は流石にそのままであったが
手紙は復活した。
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開墾進むが、安定した■■の確保が難しい
山間に■があることを突き止めた
訪れたそこには美しい■■がいた
彼■は泉の■霊だという。
■しいその瞳、愛ら■■■。
私は■■■■■良くなり、■の■■■を引■
■■に受け入れて■源とする■■をした。
■■■の約束は、■女と共に■■■時間を■ること
私は約束した。■■は難しいか■■れな■■
■■な限り■■に■■、共に■■すことを。
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村の開墾が■■り、領主さまの約束を果たした
私は彼女との約束を守るために二日に一度は泉を訪れた。
<中略>
彼女はあまり喜んでくれなかったが、■■をしてくれた。
私は■■■■、収穫があ■■らお■■もするし
共に■■うと約■■た。
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私には妻が出来、子供も授かった。
幸せだった。■■、うまく■■代わりに
<略>
■■行く機会が減って行った。
だが、彼女の■■あって■■の■だ。
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■■がさらに高まった。■■も働いてくれたが
豊■■実りをすべ■■収されるようになってしまった。
益々■■向かうことが難しくなった。また、私も
歳を取った。■■での行■■決して楽ではない。
息子に後を■■せることにした。
<略>
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私に■■よいよ■えが来そうである。
息子に泉の精霊に■■をしているか?と聞くと
勿論■■答えた。
だが、■■こっそり■■教え■■れた。
彼は精霊に■■で、求■■して困■せてい■。
精霊■■間は■■■ないと■られ■いる…と。
私は息子に■■の■いをした。
「彼■に敬意を」…と。
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……手紙というか日記、手記の類であったが、虫食いで分からないまでも祖父の代は泉の精霊に感謝を伝えて交流していたが、村長の父の代では少しねじ曲がった交流になっていたようだ。
「私は…父から泉のことを何も聞いていないのです…このようなことがあったとは」
「もう泉の精霊ではなく、湖の主だが…」
「彼女はずっと昔からそこに居たんだ…そして村長の祖父との交流の約束を守ってきていた…」
僕は彼女が淀んでいる理由を、魔法少女たちの特性と合わせて勝手にどこか調子が悪いのだろう…と推測してあんな聞き方をしたのだから、怒らせてしまっても仕方なかったと反省した。
「わしを湖のところへ連れて行ってくれますかな?」
「勿論このシルフィードホワイトにお任せあれ!」




