決意の夜に
宿舎の外。
夕方。
日が傾き始め、影が長く伸びている。
灯りは、少ない。
四人が揃っている。
誰かが呼び集めたわけではない。
気づけば、そうなっていた。
ヒナタが口を開く。
「……明日だ」
短い。
それだけで、意味は通じる。
「魔王の部屋に入る」
言い切り。
誰も、驚かない。
セレネが、少しだけ息を吸った。
「……はい」
それ以上は言わない。
ステラも、頷くだけだ。
ミドは、黙って立っている。
逃げ道の話は、出なかった。
条件の確認も、もうしない。
全員が、分かっていた。
ここまで来たら。
行かない、という選択肢はない。
食事は、静かだった。
誰も多くは話さない。
だが、重くもない。
皿が空になる。
湯気が消える。
いつもと、変わらない。
夜。
宿舎の灯りが、少しずつ落ちていく。
月明かり。
ヒナタが剣を振る。
ミドも、少し離れて、振る。
同じ軌道。
同じ踏み込み。
「……前に」
剣を振る音の合間。
「ヒナタさんが言ってた言葉」
少し、間。
「諦めねぇやつが、最後まで立ってる」
「勇者ってのは、たぶんそういうのだろって」
ヒナタは、振る手を止めない。
だが。
一拍、踏み込みが遅れた。
すぐに、戻る。
「……僕」
一呼吸。
「今、逃げないでいられるのは」
「……たぶん、あの言葉があったからです」
それだけ。
「……そうか」
ヒナタの剣が、止まる。
一瞬だけ。
月明かりの下で、刃が揺れた。
それから、また振る。
「じゃあ」
「まだ、大丈夫だな」
剣の音が、夜に溶けていく。
月は高い。
風は、冷たい。
だが、誰も止めない。
誰も、引かない。
それぞれが、振っているのは剣だ。
だが。
確かめているのは、覚悟だった。
明日。
扉の向こうへ行く。
その事実だけが、静かにそこにあった。




