魔王城へ
ギルド。
朝の空気は、まだ冷たい。
人の出入りはあるが、どこか落ち着きがない。
依頼板の前。
受付台。
四人が並ぶと、周囲の視線が自然と集まった。
ヒナタが、一歩前に出る。
「魔王城に入る」
短く、それだけ言った。
受付の手が、一瞬止まる。
「……確認します」
形式的な声。
だが、目は真剣だった。
「城まで、護衛を付けますか?」
一拍。
ヒナタは、首を振る。
「今回はいい」
「無理だと判断したら、引く」
それだけ。
受付は、それ以上踏み込まなかった。
「……記録します」
紙に走る、羽ペンの音。
ギルドを出る。
町を抜け、森へ。
木々は深く、影は濃い。
すぐに、気配。
「来るぞ」
ヒナタの声と同時に、獣が飛び出す。
一体。
だが、動きが速い。
ミドが後方へ。
位置を取る。
ステラの術式が、流れを切る。
セレネの支援が重なる。
ヒナタが、確実に仕留める。
足を止めない。
さらに進む。
森を抜けると、廃墟が見えた。
崩れた石壁。
折れた柱。
ここでも、出る。
数は少ない。
だが、一体一体が重い。
連携は、崩れない。
以前より、明らかに。
戦える。
廃墟を越え。
さらに奥へ。
やがて。
視界が、開けた。
魔王城。
黒い城壁。
歪んだ塔。
近くで見ると、その大きさが分かる。
城の前で、足を止める。
「……ここだな」
ヒナタが言う。
セレネが、一歩前に出た。
「治癒、入れます」
簡潔に。
淡い光が、四人を包む。
疲労が、静かに引いていく。
誰も、言葉を挟まない。
ヒナタが、城を見上げる。
「約束通りだ」
「無理だと思ったら、出る」
誰も、異論はない。
門へ。
重い扉が、軋む音を立てて開く。
城の中は、暗い。
冷たい空気。
一歩。
そして、もう一歩。
四人は、魔王城へ入った。
――まだ。
引き返す余地を、残したまま。
中は、薄暗かった。
光源はない。
だが、完全な闇でもない。
広い廊下。
高い天井。
壁の輪郭だけが、ぼんやりと見えている。
足音が、響く。
四人分。
反響は、すぐに消えた。
張り詰めた緊張感は、ない。
息を詰める必要もない。
ただ、静かだった。
ヒナタが、前に出る。
ミドは一歩後ろ。
ステラとセレネは、その間。
歩を進める。
――来る。
暗闇の縁が、揺れた。
黒影。
獣。
輪郭だけのような体。
数体。
ヒナタが踏み込む。
一閃。
ステラの術式が、壁際を走る。
セレネの支援が、自然に重なる。
その少し外側に、ミドがいた。
動きは、噛み合っていた。
数は多くない。
強さも、想定の範囲だ。
倒れる。
黒影は、音もなく霧散した。
息を整える間もなく、歩を再開する。
さらに、奥へ。
廊下は、続いている。
やがて。
先が、わずかに開けて見えた。
暗闇の向こう。
広い空間。
その中心に――
球体。
巨大。
黒い。
影が、渦を巻いている。
表面は定まらず、
黒い靄が、内側へ外側へと流れ続けている。
塊のようでいて、
どこにも芯が見えない。
動いているのか、
それとも、動き続けることで静止しているのか。
判別できなかった。
ただ、そこにある。
四人の視線が、自然と集まった。
足が、止まる。
言葉は、まだ出ない。
ここからが、城の中だと。
誰もが、分かっていた。




