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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第三章 魔王城・序

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並んだ覚悟

 宿舎の裏。


 


 干していた洗濯物を、セレネが一枚ずつ取り込んでいる。


 布が、風を離れる音。


 


 少し離れた場所で、ヒナタが剣を振っていた。


 


 ――シュッ。


 


 空を切る音。


 派手さはない。


 だが、止まらない。


 


 

 しばらく。


 



「……なあ」


 ヒナタが、剣を下ろさないまま言った。


「この先」


 一拍。


「どうなるか、分からん」


 


 セレネは、洗濯物を畳む手を止めない。


 


「もしだ」


 ヒナタが続ける。


「……もっと、先に進むことになったら」


 言葉を選んでいる。


「危ねぇ場所に、踏み込むことになったら」



 剣を振る。



「どうする」


 


 セレネは、一枚、布を重ねてから顔を上げた。


「……逆に聞きますけど」


 声は、落ち着いている。


「私だけ、残りたいと思ってるって」

「そう、思ってますか」


 


 ヒナタの剣が、止まった。


「そういう意味で、聞いたわけじゃねぇ」


 即答だった。


「ただ」


 


 言葉を続けかけて、止める。


 セレネが、先に言った。


「覚悟ができているか、と言われたら」


 少し、間。


「正直、分かりません」


 洗濯物を、静かに畳む。


「怖くないわけじゃないです」

「不安も、あります」


 だが。


「それでも」


 顔を上げる。


「皆さんだけ行かせるつもりだと」

「思われるのは、違います」


 

 ヒナタは、何も言わない。


 

「置いていかれる覚悟より」

「一緒に行く覚悟の方を」

「……まだ、選べますから」


 少し、苦笑する。


「だから」

「強くならないと、いけないんですよね」


 


 ヒナタが、息を吐いた。


「……そうだな」


 剣を下ろす。


「無理は、させねぇ」

「だが」


 一拍。


「止めもしねぇ」




 セレネは、静かに頷いた。


 洗濯籠を持ち上げる。


「それで、十分です」



 風が、布を揺らす。



 言葉は、もう要らなかった。


 覚悟は。


 並んだまま、少しずつ形になっていく。




 話は、そこで終わった。




 リヤカーは、いっぱいだった。


 本が、隙間なく積まれている。


 革の表紙。

 紙束。

 紐でまとめられた冊子。


 きしむ音を立てながら、町を戻る。


 


 宿舎に着いた頃には、空が少し暗くなっていた。



 夕方。


 昼と夜の境目。


 


「……多すぎだろ」


 ヒナタが、荷台を見て言う。


 


「はい」


 セレネが、苦笑いで頷いた。


「でも、ステラさんのですし」


 


 ステラは、何も言わない。


 ただ、本を抱えたまま立っている。


 


 運び終え、荷台が空になる。



「小屋の近くにも、獣が出ていました」


 ステラが、淡々と報告した。


「一体だけでしたが」

「……出る場所が、確実に近くなっています」


 


「侵食、か」


 ヒナタが低く言う。


 


「はい」


 即答だった。


「このままなら」

「……町も」


 一瞬、沈黙。


 

 ヒナタは、腕を組んだ。


「……一回」


 ぽつりと。


「魔王城、入ってみるか」


 


 

 ミドが顔を上げる。


 


「ただし」


 ヒナタが、すぐに続けた。


「魔王の部屋には、行かねぇ」

「危険だと判断したら、即出る」

「深追いもしねぇ」


 言葉は短いが、はっきりしている。


「腕試しだ」

「レベル上げも兼ねて、だな」


 


 セレネが、少し考える。


「……部屋の前までは」


 


「ああ」


 ヒナタが頷く。


「複数パーティが、行けてる」

「正直」


 一拍。


「今の俺たちは」

「そいつらと比べても」

「下じゃねぇ」


 驕りはない。


 事実だけを並べる声だった。

 

「行くなら、今だ」


 


 ミドは、黙って聞いている。



 ステラも、否定しない。


 


 セレネが、ゆっくり息を吐いた。


「……条件付き、ですね」


 


「当たり前だ」


 ヒナタが言う。


「“挑戦”じゃねぇ」

「“確認”だ」




 視線が、順に交わる。


 


 誰も、反対しなかった。



 決まった。


 

 魔王城へ。



 だが。



 まだ。



 その奥へ、踏み込むとは言っていない。


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