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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第三章 魔王城・序

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まだ、名を持たない

 町の外れ。


 

 舗装の甘い道を、リヤカーが軋ませながら進む。


 

 ミドが前を引き、ステラが横を歩いていた。


 

 本を積むための荷台は、まだ空だ。


 


「……意外と、遠いね」


 ミドが、ぽつりと言う。


 


「そうですね」


 ステラは頷く。


「普段は、あまり来ませんから」


 


 町の音は、もう薄い。


 人の気配より、風と草の音の方が目立つ。


 



「最近」


 ミドが続ける。


「この辺も、変わってきてる」


 


「はい」


 即答だった。


 


「獣の数だけでなく、質も」

「浅い場所に出るようになっている」


 ミドが、リヤカーを引く手に少し力を込める。


「森だけじゃない」

「廃墟も」

「……町の近くも」


 


「侵食、ですね」


 言い切り。


 


 ミドは、一瞬だけ空を見た。


「魔王のせい、なのかな」


 


「直接かどうかは、分かりません」


 ステラは、少しだけ間を置く。


「でも」

「無関係ではないでしょう」


 


 

 沈黙。


 


 道は続く。


 


「……あの城」


 ミドが言った。


「近くにあるようで、遠い……」


 



「はい」

「物理的にも」

「それ以外の意味でも」


 ステラは、前を見たまま答える。



 

 ミドは、それ以上聞かなかった。


 


 やがて。



 小屋が見えた。


 

 木造。

 簡素。



 だが、崩れてはいない。


 


「……着いたね」


 そのとき。


 ミドが、足を止めた。


「……来る」


 理由は、言わない。


 空気が、変わった。


 


 小屋の脇。


 


 草むらが揺れる。

 ――気配。


 

 獣。

 低い唸り。


 


「……やっぱり、出るようになってる」


 ミドが、リヤカーから手を離す。


 


 ステラは、すでに前に出ていた。


 術式。

 直線。

 光が走る。


 獣が、倒れる。


 

 一体だけ。


 



 ミドが、周囲を確認する。


「……この辺まで、か」


 



 ステラは、倒れた獣を一度だけ見てから、小屋に視線を戻した。


「本を、早く運びましょう」


 声は、落ち着いている。


「ここも、長くは持ちません」


 


 ミドは、頷いた。


 リヤカーを引き直す。


 小屋の前で、足を止める。



 守れるものは、減っていく。


 それを、二人とも、もう疑ってはいなかった。



 小屋の中は、薄暗かった。


 窓は小さく、埃が光を散らしている。


 


 本棚。


 机。


 積み上げられた紙束。


 


 ステラは、迷わず中へ入った。


「……まだ、無事ですね」


 


 ミドが、肩の力を少し抜く。


「よかった」


 


 本を抱え、リヤカーに運ぶ。


 一冊。

 二冊。

 三冊。


 

 ステラは、運びながら、何冊かを開いては閉じている。


「……確認、か」


 ミドが、呟く。




「確認、です」


 即答だった。


「この辺りの記述が、気になっていて」



「……無属性は」


 小さな声だった。


「今のところ」

「発生させることは、できます」


 

 ミドが、黙って視線を向ける。


 

「形も、あります」

「術式として、成立もします」


 淡々と。


 事実だけを並べる。


「ですが」


 少し、間。


「結果が、ありません」

「干渉しない」

「……何にも、ならない」


 言い切りだった。


 

 ミドは、何も言わない。


 

「属性にも、乗りません」

「相性も、増幅も、減衰も起きない」

「世界側が、反応していない」


 ステラは、一度だけ手を止めた。



 小屋の隅。

 崩れかけた木箱に、視線を向ける。



 小さく息を吸う。



 術式。


 簡素。

 装飾も、増幅もない。


 無属性。

 指先に、淡い光が生まれる。



 それは、確かに“発生”していた。


 形もある。

 術式としては、成立している。


 だが――

 木箱には、何も起こらない。


 焦げも。

 揺れも。

 ひびも。


 音すら、残らない。


 光は、数秒で消えた。


 最初から、存在しなかったかのように。


 


 ステラは、本を荷台に置いた。


「だから」

「研究も、進みません」


「“失敗”とも」

「“成功”とも」


「記録できないので」


 


 

 ミドは、ゆっくり息を吐いた。


「……今は、使い道がない?」




 ステラは、首を横に振る。


「使えない、のではありません」


 即答だった。


「ただ」

「今の世界で」

「反応する相手が、見つかっていないだけです」


 

 それ以上、説明はしない。


 

 本を積む作業に、戻る。


 



 無属性は、まだ。


 


 何者でもなかった。


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