魔王への違和
――挑戦記録。
人数:4
レベル:95 / 92 / 91 / 90
経過時間:00:13:08
記録終了:魔王の間
結果:全滅
――過去記録。
人数:3
レベル:99 / 99 / 99
経過時間:00:12:43
記録終了:魔王の間
結果:全滅
――
人数:1
レベル:999
経過時間:00:03:21
記録終了:魔王の間
結果:全滅
誰も、すぐには声を出さなかった。
水晶の光が、淡く揺れている。
それだけだ。
セレネが、息を止めたまま立っている。
ステラは、表示から目を離さない。
ミドは、黙っている。
ヒナタが、舌打ちした。
「……あいつらでも、無理か」
低い声。
感情を抑えきれない、短い音。
それ以上は、言わない。
言う必要がなかった。
あの四人だ。
最前線。
魔王討伐に、最も近い。
レベル90台。
レベル99の三人も。
レベル999の転生者も。
すべて、同じ結末だ。
空気が、重く沈む。
「……今日は」
ヒナタが、踵を返す。
「やめとくか」
誰に向けた言葉でもない。
「気分じゃねぇ」
異論は、出なかった。
ギルドを出る。
朝の光は、もう十分に差している。
だが。
誰の足取りも、軽くはない。
宿舎へ。
とりあえず、戻る。
それだけだ。
考えるのは。
――あとでいい。
宿舎。
扉が閉まると、外の音が途切れた。
重い。
誰かが何かを言うわけでもないのに、空気だけが沈んでいる。
椅子に腰を下ろしても、落ち着かない。
ヒナタが、壁際に立ったまま言った。
「……外、行ってくる」
それだけ。
返事を待たずに、扉が開いて閉まる。
少しして。
セレネが、立ち上がった。
「洗濯、してきます」
気分転換、ということを選んだのが分かる。
誰も止めない。
部屋には、二人だけが残った。
ミドと、ステラ。
ステラは、いつものように本を開いている。
だが。
ページは、あまり進んでいない。
しばらくして。
ミドが、ぽつりと声を出した。
「……ステラ」
顔は上げない。
「どう思った?」
一拍。
「さっきのログ……」
ステラは、静かにページを閉じた。
視線を、少しだけ上げる。
「……違和感、ですね」
即答に近かった。
「魔王が強い、という話ではありません」
ミドが、わずかに眉を動かす。
「強いのは、前提です」
「ですが」
本を閉じたまま、指先を揃える。
「数字が、合っていない」
ミドは、黙って聞く。
「レベル99が三人」
「転生者が、999」
「そして今回、90台が四人」
「全員、同じ場所で」
「短時間……」
「“全滅”」
少し、間。
「本来、ありえません」
ミドが、ゆっくり息を吐いた。
「……そうだよね」
少し間。
「おかしい」
ステラが、静かに頷く。
「はい」
一拍。
「強すぎる、という言葉では足りません」
「この世界のレベルという数値体系から」
「外れている」
沈黙。
二人とも、その先を言わない。
言えない。
ミドが、低く呟く。
「……なのに」
「レベル、って表示されている」
「測定も」
「ログも」
ステラは、目を伏せた。
「だからこそ」
短く。
「気持ちが悪いです」
沈黙。
二人の中に。
同じ結論だけが、形にならないまま残っていた。
――魔王は、強さの先にいない。
――強さの外にいる。




