護衛任務
ギルドを出ると、すでに数組の冒険者が集まっていた。
装備を確かめる者。
短く言葉を交わす者。
どこか、空気が張っている。
今日、魔王城へ向かうのは一組だけではない。
正面に立つのは、あの四人。
城へ挑む連中だ。
その周囲を、三組が囲む。
ヒナタたち。
そして、もう二組。
護衛だ。
ヒナタは、自然に後方の位置を選んだ。
「俺たちは、後ろを押さえる」
誰に言うでもなく。
それで通じる。
魔王城までの道は、地図には残っている。
だが、最近まで実質的には封じられていたルートだ。
隊列を組む段階で、護衛側から確認が入った。
「基本、魔王城へ挑戦する四人は戦闘には出さない」
「獣が来たら、処理はこっちでやる」
「とにかく、削らせないことだけを考えろ」
ヒナタは、短く頷いた。
「了解だ」
隊列が動き出す。
森へ。
木々の間を抜ける。
足音が重なる。
獣が、出た。
一体。
二体。
だが、前と違う。
護衛の二組が、迷いなく処理する。
連携。
役割分担。
手早い。
ヒナタたちは、下がったまま。
セレネの支援が、静かに重なる。
防御。
治癒。
気づかれない程度に。
戦闘は、長引かない。
廃墟。
崩れた壁。
倒れた柱。
ここも、見慣れた場所だ。
以前より、獣は確実に強くなっている。
だが、それでも。
護衛側で、足りている。
ヒナタは、剣を抜かない。
必要になるまで、使わない。
二羽の怪鳥を討伐した地点。
空が、少し開ける。
ここでも、足は止まらなかった。
「……ここから先だ」
前方から、声が飛ぶ。
「敵の質が変わる」
「数は少ないが、無視できない」
「気を引き締めろ」
ヒナタが、短く答える。
「了解」
あの四人は、歩調を崩さない。
護衛が、周囲を固める。
ヒナタたちは、後方。
前に出ない。
だが、外さない。
ここまでは、順調だ。
二羽の怪鳥を討伐した地点を越えると、空気が変わった。
出てくる獣の数は、むしろ減っている。
だが。
一体一体が、重い。
踏み込みが鋭く、反応が早い。
こちらの間合いを、最初から分かっているような動きだ。
「……質が違うな」
ヒナタが、低く言う。
ここからは、後ろに下がったままでは済まない。
一体、前に出る。
ヒナタが剣を抜く。
一閃。
浅くはない。
だが、一撃では沈まない。
ステラの術式が、間を切る。
直撃。
それでも、踏みとどまる。
すぐに、前方の二組が動いた。
挟む。
抑える。
確実に、仕留める。
「……やっぱり、強ぇな」
ヒナタが、息を吐く。
無理がない。
焦りもない。
役割が、完全に分かれている。
こちらが一歩出れば、すぐに隙を埋める。
下がれば、無言で前に出る。
魔王城へ挑む四人は、動かない。
最後尾。
剣も、魔法も、まだ使っていない。
削られない。
それが、この護衛の目的だ。
進む。
さらに進む。
石の匂いが、濃くなる。
風が、変わる。
そして。
視界の先に、城が現れた。
魔王城。
黒い。
大きい。
圧迫感が、空気そのものになっている。
自然と、足が止まった。
「ここから先は」
前方の男が、足を止めた。
城の前。
何もないはずの空間に、わずかな歪みが走る。
男が、手を伸ばす。
触れた瞬間。
――弾かれた。
見えない壁。
音もなく、力だけが返ってくる。
「人数制限がある」
振り返らずに、言う。
「四人までだ」
「五人目は、入れない」
誰も、試そうとはしなかった。
ここまで来て、それは十分すぎる説明だった。
ここまでは、護衛。
ここからは、挑戦。
四人が、振り向く。
「……助かった」
短い言葉。
「ここまで、削られずに来られた」
ヒナタは、軽く手を振った。
「仕事だ」
それ以上は言わない。
四人が、城の前に立つ。
扉は、まだ閉じている。
だが、拒んではいない。
一歩。
また一歩。
扉が開く。
城の中へ。
四人の背中が、闇に吸い込まれていく。
その直前。
セレネが、静かに前に出た。
両手を重ねる。
光。
強化。
防護。
祈りに近い、それ。
四人の背に、淡い光が宿る。
セレネは、何も言わない。
ただ。
無事で、と。
それだけを込めていた。
扉が、閉じる。
音は、しない。
城は、沈黙したままだ。
護衛の役目は、ここで終わる。
あとは。
待つだけだ。




