撤退と作戦
何度目かの攻防。
主導権は、完全に向こうだ。
赤が、動く。
一直線。
ヒナタに向けて。
「来る――!」
踏み込む。
すれ違いざま。
一閃。
確かな手応え。
翼。
切れた。
赤い鳥が、バランスを崩す。
地面へ。
転がる。
砂と石を巻き上げて、止まった。
「……よし」
一瞬。
その瞬間だった。
――鳴き声。
高い。
鋭い。
耳を裂くような音。
青い鳥。
空中で、喉を震わせている。
反射的に、耳を塞ぎたくなる。
だが。
それだけじゃない。
地面の赤が、応える。
共鳴するように。
同じ音。
二重。
重なった鳴き声が、空気を揺らす。
「……っ!」
足が、止まる。
視界が、ぶれる。
動けない。
ほんの、数拍。
だが。
致命的には、十分だった。
赤い鳥。
切断された翼が。
――戻る。
肉が盛り上がり。
骨が繋がり。
羽が、揃う。
完全に。
何事もなかったように。
赤が、跳ねる。
再び、空へ。
青の隣へ。
二羽。
揃った。
ヒナタが、歯を食いしばる。
「……再生、か」
まずい。
ただでさえ厄介だった。
それが。
さらに、だ。
以降。
斬る。
傷が入る。
落ちる。
鳴く。
戻る。
何度も。
同じやり取り。
削っても、意味が薄い。
消耗だけが、積み重なる。
ヒナタが、短く叫ぶ。
「……引くぞ!」
即断。
「廃墟まで戻る!」
セレネの光が重なる。
防御。
治癒。
ステラが、後退を支える。
二羽が、追ってくる。
突風。
斬撃。
かまいたち。
耐える。
防ぐ。
走る。
距離。
そして。
ある一線を越えたところで。
――止まった。
二羽は、それ以上、来ない。
空を旋回しながら。
こちらを見ている。
追撃は、ない。
廃墟の手前。
四人は、足を止めた。
息が荒い。
誰も、すぐには口を開かない。
ヒナタが、空を睨む。
「……一筋縄じゃいかねぇな」
二羽の怪鳥は。
まだ。
あそこにいる。
完全な攻略には。
もう一手、要る。
距離が、少しだけ開く。
廃墟の影。
石壁の向こうで、四人は息を整えた。
「……どうだ」
ヒナタが、短く言う。
視線は、まだ空の方角。
「何か、あるか」
ミドは、すぐには答えなかった。
赤と青。
突進。
再生。
頭の中で、一度だけ組み直す。
「……一回だけなら」
静かな声。
「試す価値は、あると思います」
ヒナタが、わずかに視線を向ける。
「ただし」
「無理だと判断したら、すぐ引きましょう」
「片方だけ倒しても、意味がない」
「回復するのは、もう確認できました」
ヒナタが、低く息を吐く。
「ああ」
「それは、分かってる」
ミドは続ける。
「だから……」
「相手の動きを、一瞬でも鈍らせることはできますか」
セレネを見る。
「重ねれば、反応を遅らせることはできると思います」
セレネは、少し考えてから頷いた。
「完全には無理ですけど」
「重ねれば、反応を鈍らせることはできます」
「一瞬、ですけど」
「それで十分です」
ミドは、今度はステラを見る。
「風……突風は、起こせる?」
ステラは、即答だった。
「できます」
そして。
もう一度、空を見上げる。
「……一瞬、ですね」
ミドが、小さく頷く。
「魔法は、通りにくい」
「だから、最後は……」
ヒナタを見る。
「ヒナタさんに、頼みます」
一瞬の沈黙。
ヒナタが、口の端を上げた。
「了解だ」
「一回だけだぞ」
「ダメだと思ったら、迷わず引く」
「分かってます」
ミドは、短く答えた。
四人の視線が、自然に揃う。
赤と青。
空を旋回する、二羽の怪鳥。
「……よし」
ヒナタが、一歩前に出る。
「行くぞ」
再び。
二羽の鳥のもとへ。
勝負は、まだ終わっていない。




