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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第二章 戦いの形

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かまいたちの谷

 朝のギルドは、いつもより少しだけ賑やかだった。


 


 人の数は変わらない。


 だが、空気が軽い。


 


 ヒナタは依頼板の前に立ち、紙を流していく。


 


 討伐。


 警戒。


 護衛。


 


 指が止まる。


 


 卵の回収。

 対象生物:指定なし。

 条件:持ち帰りのみ。


 


「……楽そうだな」


 呟くと、後ろから声がした。


 


「楽、ではないぞ」


 


 振り向く。


 


 年配の冒険者。


 装備は軽いが、使い込まれている。


 


「卵そのものはな」


 男は続ける。


「岩陰に転がってるだけだ」

「取るだけなら、誰でもできる」


 


 ヒナタが眉を上げる。


「なら、なんで残ってる」


 


 男が肩をすくめた。


「そこに行くまでが、通れん」


 少し声を落とす。


「谷だ」

「風が出る」

「刃みたいな風だ」


 


 ステラが、静かに反応する。


「……かまいたち、ですね」


 


「そう呼ばれてるな」


 男は頷く。


「少し前からだ」

「踏み込んだ瞬間、切られる」

「深くはないが、数が多い」


 腕を示す。


 古い傷。


 浅い切り口が、何本も残っている。


「奥までは行けん」

「だが、鳥自体は強くない」

「卵も、守ってない」


 


 ヒナタが腕を組む。


「……行けさえすりゃ、終わりか」


 


「そうだ」


 


 ヒナタは、もう一度依頼票を見る。


 討伐対象:なし。


 


 セレネが小さく言う。


「戦闘、ではありませんね」


 


「だな」


 ヒナタが息を吐く。


「……一回、見てみるか」


 軽い言い方。


 


 だが。


 


 谷。

 風。

 刃。


 


 ミドは、黙って依頼票を見ていた。


 そこに書かれていない“面倒さ”を、


 もう、想像している顔だった。









 谷の手前で、ヒナタが足を止めた。


「……この辺りからだな」


 言葉より先に、空気が違う。


 音が、ない。


 風は吹いているはずなのに、肌に当たる感触が読めない。


 


 一歩。



 ――ひり、と。


 

 頬に、細い痛み。


 


 次の瞬間。


 ぱっと赤が浮く。


 

「……っ」


 

 ヒナタが、即座に足を止めた。


 

 切り傷。


 深くはない。


 


 だが。


 

 数が多い。


 

 空気そのものが、刃になっている。


 


「……まずいな」




 ヒナタが振り返る。


「ミド、ここで待て」


 即断。


「何かあったら困る」


 

 視線が、ステラにも向く。



「ステラもだ」




「……分かりました」


 反論はない。


 


 

 セレネに視線が向く。


「え……私、ですか」


 少し戸惑った顔。


 


 

「他にないだろ」


 ヒナタが短く言う。


「走る」

「防御、全開」

「治癒も混ぜろ」

「止まらない」


 


 セレネは一瞬だけ目を瞬かせて。


 深く頷いた。


「……はい」


 


 光が重なる。


 まず、ヒナタ。


 次に、セレネ自身。


 防御。

 治癒。

 重ねがけ。



「行くぞ」


 踏み出す。


 同時に、走る。


 風が、来る。

 切れる感覚。


 だが。


 痛みは、浅い。


 すぐ、消える。


 治癒が追いつく。


 

 それでも。


 息が詰まる。


 皮膚が、じりじりする。



 セレネの呼吸が、次第に荒くなる。


 それでも、止まらない。

 走る。

 走る。


 

 そして。


 風が、抜けた。


 空気が、軽くなる。



 二人は、ほとんど同時に足を止めた。



 セレネが、膝に手をつく。


「……は、……っ」


 顔色が、少し白い。



「大丈夫か」


 


「……はい」


 だが、余裕はない。


 


 少し歩く。


 

 岩場。


 谷の奥。


 岩陰。



 そこに。


 卵。


 確かに、転がっている。



「……本当に、取るだけだな」


 ヒナタが拾い上げる。


 

 重さも、普通。


「よし」


 

 振り返る。


「戻るぞ」


 

 セレネが、わずかに目を見開いた。


「……もう一回、ですか」


 

「当たり前だろ」


 

 苦笑。


 


 光。


 再び、重なる。


 防御。

 治癒。

 全開。

 走る。


 また、風。

 また、刃。


 今度は、脚が重い。


 息が、苦しい。



 それでも。


 止まらない。



 ようやく。


 ミドとステラの姿が見える。


 

 境界。


 風が、消える。


 

 セレネが、その場に座り込んだ。


「……つ、疲れました……」


 

 額に汗。


 息が、整わない。


 

「少し、休むか」


 ヒナタが言う。


「帰るのは、そのあとだ」


 

 セレネは、黙って頷いた。




 谷の風は、まだ奥で唸っている。


 だが。


 ここまでは、届かない。



 四人は、しばらくその場で休むことにした。


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