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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第二章 戦いの形

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水の壁

 朝のギルドは、少しだけ静かだった。



 依頼板の前に人はいるが、動きが緩い。


 疲れが、まだ抜けきっていない空気。

 


 ヒナタは掲示板を眺めながら、紙をめくる。


 森。

 街道。

 討伐。


「……今日は、軽めだな」


 独り言みたいに呟く。



 腕を回すと、まだ奥に重さが残っていた。


 無理はしない。


 長引く戦いは、しばらく避けたい。


 そう思っていたところで。


 


「……あんたら」


 横から、声。


 

 三人編成。


 装備は悪くない。

 


「廃墟の獣、倒したって聞いた」


 周囲を気にするように声を落とす。




「……ああ」


 ヒナタは短く返す。


 


「なら、もしかして、と思ってな」


 男が言う。


「橋の前に、水の壁ができてる」

「少し前からだ」


 水の壁。


「流れ落ちてるわけじゃない」

「立ってる」

「触ると、冷たい」

「斬っても、叩いても、手応えがない」

「でもな」


 男は肩をすくめる。


「襲ってはこない」


 


 ヒナタが、わずかに眉を動かした。 


「……魔法か?」


 


「分からん」

「誰かが張ったって感じでもない」

「ただ、そこにある」



 少し前から。


 その言葉が、引っかかる。


 


 ステラが、静かに言った。


「最近、増えていますね」

「原因不明の現象」


 誰も否定しない。


 

 ヒナタが腕を組む。


「反撃はないんだな」


 


「ない」

「通れないだけだ」




 狩場。

 レベル上げに使われていた場所。


 今は、橋の向こう。



「……あれが使えねぇと、困る奴は多い」


 男が続ける。


「だから、報酬も出てる」

「ギルド依頼じゃない」

「有志だ」

「解決したら、何組かで上乗せする」


 


 ヒナタが、少し考える。


 戦闘じゃない。

 反撃もない。


「……一回、見に行くか」


 軽い調子。


 


 セレネが頷く。


「はい」


 


 ステラも、もう考え始めている顔だった。


 


 ミドは、黙って頷いた。


 


 男が、ほっと息を吐く。


「助かる」


 


 ヒナタは依頼票を受け取らない。


「様子見だ」

「無理なら、引く」


 それだけ。


 

 だが。



 水の壁。


 

 少し前から。




 世界は、静かに変わり始めている。


 そんな気配だけが、朝のギルドに残っていた。








 橋の手前。


 水の壁が、立っていた。


 流れていない。


 落ちてもいない。


 

 ただ、そこにある。


 

 高さは、橋の欄干をはるかに越えている。


 幅は、橋だけじゃない。


 両岸ごと、正面から塞いでいる。

 

 地形そのものを、区切っているみたいだった。



「……こりゃ通れねぇな」


 ヒナタが言う。



 水は澄んでいる。


 だが、向こう側は歪んで見える。


 


 中央。


 少しだけ濃い影。


 球状。


「コアか」


 誰に言うでもなく。


 直感的に、分かる。


「あれだな」


 


 ヒナタが一歩前に出る。


「とりあえず、やってみるか」




 一閃。


 斬撃。


 

 水面が、大きく揺れる。

 だが。

 切れない。


 暖簾に腕押し。


 突き。


 押し返される。


 刃が、水に弾かれる。


「……粘るな」


 手応えはある。


 だが、進まない。


 通ろうとすると、弾力のある壁が押し返してくる。


 


 ステラが前に出る。


「撃ちます」


 術式。


 炎。



 水の壁に直撃。

 一瞬、蒸気。


 だが。


 拡散するだけ。


 すぐに、元通り。


 コアまでは、届かない。




「反撃は……ありませんね」


 セレネが言う。

 


 


 ヒナタが舌打ちする。


「面倒だな」


 


 二人同時。


 斬撃と炎。


 セレネの強化。


 力を乗せる。


 だが。


 結果は同じ。


 広がって。


 戻る。


 変化なし。


 

「……どうしたもんか」



 一瞬の沈黙。



 そのとき。


 

 ミドが、ぽつりと言った。


「……砕いてみるのは、どうですか」


 

 ヒナタが振り向く。


「砕く?」


 


「黒鉄の獣のとき」

 一瞬。


 

 ステラの目が、わずかに細くなる。


「……なるほど」


 


 術式が変わる。


 空気が、冷える。


 水の壁が。


 音もなく、凍った。


 透明な氷。


 歪みが止まる。


 動かない。


 


「今です」


 


 ヒナタが、もう踏み込んでいる。


 突き。

 一直線。

 コアへ。


 ――鈍い音。

 ひび。


 次の瞬間。



 砕けた。


 氷が割れる。


 水が弾ける。


 壁そのものが、崩れ落ちる。


 

 再生は、ない。


 ただ、水が地面を濡らすだけ。


 

「……あっさりだな」


 ヒナタが言う。


 


 セレネが小さく息を吐く。


「道、通れますね」


 


 橋の向こう。


 

 風が抜ける。


 

 何もない。


 

 ただの道。


 


 後日。


 ギルド。


 報告。


「助かりました」

「これで狩場が使える」


 感謝の声。


 報酬。

 上乗せ。


 ヒナタは、軽く受け取る。


「またな」


 それだけ。


 

 小さな依頼。


 だが。


 確かに。


 

 世界は、少しずつ変わっている。


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