仮説の証明
森を抜けたころには、空はほとんど夜だった。
西の端だけが、わずかに赤い。
足は重い。
腕も、少し震えている。
だが、止まらない。
ギルドの灯りが見える。
扉を押す。
中は、夕方と夜の境目の空気だった。
酒の匂い。
低い話し声。
疲れた笑い。
数人の視線が向く。
ヒナタは無言で受付へ歩いた。
黒い牙を、机に置く。
鈍い音。
「廃墟の件だ」
受付の手が止まる。
視線が牙に落ちる。
一瞬の沈黙。
「……確認します」
奥へ消える。
ざわ、と空気が揺れた。
「まさか」
「撤退したやつだろ」
「本当に?」
声は小さいが、広がる。
あの四人組が近づいてくる。
「……やったのか」
疑い半分、期待半分。
ヒナタは肩をすくめる。
「まあな」
「どうやって通した」
「通したんじゃねぇ。壊しただけだ」
短い返答。
男が低く息を吐く。
「これで、あの道が使えるな」
「遠回りせずに済む」
その言葉に、周囲の何人かが顔を上げた。
魔王城へ続く道。
誰も口にしないが、意味は分かっている。
受付が戻る。
「討伐、確認しました」
「廃墟地帯の危険指定を解除します」
今度は、はっきりとざわめきが起きた。
ヒナタは特に反応しない。
ただ、軽く息を吐く。
その横で。
ステラが、ギルド中央の水晶へ向かった。
いつもの測定用の石。
静かに手を置く。
光。
数値が浮かぶ。
瞳が、わずかに細くなる。
「……やはり」
小さく呟く。
ヒナタが見る。
ステラは、水晶を見たまま言う。
「今回の上昇値ですが」
「三人の伸びが、通常より高い」
「……多いってことか?」
「はい」
「四人分の戦闘結果が、三人に分配されているようです」
一瞬、沈黙。
ヒナタが、ゆっくりミドを見る。
ステラが続ける。
「ミドには変動がありません」
「ですが、戦闘の記録そのものは残っています」
「その分が、三人へ流れています」
はっきりと。
「黒鉄の獣戦で、確信しました」
空気が、少しだけ重くなる。
ミドは、何も言わなかった。
ステラは水晶から手を離す。
「測定不能でも、無関係ではありません」
それだけ。
騒ぎは徐々に日常へ戻る。
だが。
視線の質だけは、少し変わっていた。
もう“様子見の新人”ではない。
ヒナタが言う。
「……帰るか」
夜は、完全に落ちていた。
新しい宿舎。
簡単な食事。
会話は少ない。
「今日は早く休め」
ヒナタが言う。
「長かった」
誰も反論しない。
灯りが消える。
深夜。
外。
乾いた音。
――ぶん。
剣の風切り音。
ミド。
ひとり。
「……おい」
低い声。
振り向く。
ヒナタ。
「早く休めって言っただろ」
「……すみません」
「謝んな」
少し間。
「続けるなら、正面」
自然に立ち位置が決まる。
夜の訓練。
短い。
静か。
だが。
確実に。
積み重なっていく。
月だけが、それを見ていた。




