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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第二章 戦いの形

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黒鉄の獣

 崩れた塔の影。


 



 黒い塊は、動かない。


 ただ、こちらを見ている。




 赤い目。


 瞬きもしない。





 呼吸のたびに、白い蒸気が漏れる。


 金属が、擦れる音。


 

 生き物のはずなのに。


 どこか、機械みたいだった。


 



 ヒナタが一歩出る。


「……行くぞ」


 低い声。


 

 返事はない。


 

 踏み込む。


 

 一閃。


 

 甲高い音。

 火花。


 刃が、止まる。


 弾かれた。


「……は?」


 刃が食い込まない。


 衝撃が、そのまま腕に返る。


 手のひらが痺れた。


 

 違う。


 硬い、で片付く感触じゃない。



 ヒナタがもう一度踏み込む。


 

 二撃。


 三撃。



 同じ。


 火花だけが散る。


 削れた感触が、ない。



「……ッ」


 舌打ち。


「セレネ」




「はい」



 光が走る。


 ヒナタの身体に重なる。


 強化。


 

 踏み込みが深くなる。


 動きが、軽くなる。


 力が、まっすぐ乗る。



 全力の一撃。



 ――金属音。


 変わらない。


 刃が、滑る。



「……硬い、とかじゃねぇな」


 ヒナタが低く呟く。


「そもそも……斬れてねぇ」


 


「撃ちます」


 ステラ。


 術式。



 空気が歪む。


 炎。

 一直線。



 黒鉄の身体に直撃。


 爆ぜる。



 熱風。


 瓦礫が吹き飛ぶ。


 煙。


 


 だが。



 中から、何事もなかったみたいに歩いてくる。


 焦げ跡すら、ない。


 足音だけが、重い。




 ……ずし。




 ……ずし。


 



 セレネが小さく息を呑む。


 



「……効いていません」


 ステラの声も、わずかに低い。


 


 ヒナタが距離を取る。


 珍しく、攻めない。


 様子を見る動き。


 


 ミドは、黙って見ていた。


 


 斬撃。


 炎。


 衝撃。


 全部。


 同じだった。




 当たっている。


 はずなのに。


 手応えだけが、消えている。


 


(……弱点は、ある)


 ないはずがない。


 どんな相手でも。


 必ず、どこかに。


 


「セレネさん」


 声が出た。


 


「防御、厚めに」


 


「……はい?」


 


「受け主体で」

「時間、稼ぎます」


 


 セレネがすぐ頷く。


 光が重なる。


 守りの強化。




 ヒナタが肩を鳴らす。


「……長期戦か」

「面倒だな」


 

 でも。


 

 笑っていた。


 戦闘の顔。


 


 黒鉄の獣が、ゆっくり前脚を踏み出す。


 地面が沈む。


 影が、伸びる。


 空気が、重くなった。



 黒鉄の獣が、踏み込んだ。


 石畳が砕ける。


 一瞬で間合いが詰まる。


 低い姿勢。


 狼みたいに、地を這う軌道。


 


「来る!」


 ヒナタが前へ出る。



 牙。


 噛みつき。


 横薙ぎ。


 咄嗟に腕を上げる。


 防具に、食い込む。


 ぎ、と。


 金属が軋む音。


「……っ!」


 押される。


 重い。


 顎の力じゃない。


 体重そのものが、のしかかる。


 



 蹴りで距離を作る。




 次。


 前脚。


 切り裂き。


 横一線。


 


 防御姿勢。


 火花。


 衝撃が肩を抜ける。


 避けきれなかった。


 頬に、熱。


 血が一筋、落ちた。


 


「ヒナタ!」


 


「平気だ!」


 短い返事。


 


 もう踏み込んでいる。


 

 斬る。


 弾かれる。


 斬る。


 止まる。


 手応えが、ない。


 

 ステラの炎が走る。


 爆ぜる。


 包む。


 熱風。


 瓦礫が溶ける。


 


 だが。


 黒鉄の獣は、煙の中からそのまま出てくる。


 何も変わらない動きで。


 


「……手応えがありません」


 淡々と。



 術式は止まらない。


 炎。

 雷。

 爆裂。

 連続。


 それでも。

 同じだった。



 時間だけが過ぎる。



 ヒナタが受ける。


 

 セレネの光が重なる。



 耐える。


 また受ける。


 また押される。


 じりじりと。


 消耗戦だった。


 


 ミドは、動かない。


 剣にも手をかけない。




 ただ、見ている。


 



 斬撃。


 炎。


 衝撃。


 全部。


 同じ。


 変化が、ない。


 

 ……いや。


 

 もう一度、炎が直撃する。


 その瞬間。


 黒鉄の表面が、わずかに赤く染まった。


 一瞬だけ。


 ほんの、一瞬。


 次の動きが、遅れた。


 足が、半拍、重い。


 


(……今)


 

 気のせいか?



 違う。


 

 もう一度。


 炎。


 同じ箇所。


 

 また。


 わずかに、鈍る。


 


 ミドの視線が、止まった。


 呼吸が、浅くなる。


(……なんだ、今の)



 黒鉄の色。


 動き。


 

 ほんの少しだけ。


 噛み合っていない。


 

 胸の奥で。


 何かが、引っかかった。


 確信には、まだ遠い。


 


 でも。


 


 何かが、違う。



 ミドは、もう一度だけ、目を凝らした。




 ――確かに、何かが違う。



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