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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第二章 戦いの形

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廃墟の依頼

 ギルドは、ほどよく混んでいた。


 椅子が埋まりきらない程度。


 依頼票の前に、数人の背中。


 


 ヒナタが掲示板を見る。


 


 紙を何枚か流す。


 


 森の外縁。

 街道警備。

 群れの間引き。


 


 見慣れた依頼。


 


 その中に。


 


 少しだけ、色の違う紙。


 端が折れている。


 貼られたまま、長い。


 


 旧街道中間地点。

 廃墟地帯の調査・討伐。


 難度:不明。


 備考。

 ――複数パーティ撤退。


 

 ヒナタの指が止まった。


「……撤退?」


 


 横から、声。


「そこ、やめといた方がいいぞ」



 振り向く。


 四人。


 鎧も武器も、使い込まれている。

 手入れの跡だけが残っていた。


「俺らも行った」

「ダメだ、あれ」


 


「硬い?」


 ヒナタ。


 


「いや」


 男が首を振る。


「そもそも、通らん」

「斬っても、刺しても、手応えゼロ」


 


「で?」


 


「無理だと思って引いた」


 あっさり。


 恥でもなんでもない、という言い方。


「全滅するよりマシだしな」


 


 ヒナタが小さく鼻で笑う。


「賢い」


 


「だろ?」


 軽く手を上げて、そのパーティは去っていった。


 


 掲示板に視線を戻す。


 

 撤退。


 つまり。


 逃げられる。


 

 ヒナタが、紙を剥がした。


「やるぞ」


 


「……いいんですか?」


 セレネ。


 


「全滅はしてねぇ」

「逃げれてるってことは、最悪引ける」


 それだけ。


「なら、様子は見れる」


 


 ステラが小さく頷く。


「情報不足ですが」

「観測価値は高いです」


 


 ミドも、黙って頷いた。


 


 依頼票を受付に置く。


 印が押される。


 


 それで決まりだった。




 ギルドを出る前。


 ヒナタが立ち止まった。


「一応、決めとくぞ」


 短い声。


「無理だと思ったら、即引く」

「深追いしねぇ」

「セレネが合図出したら撤退」


 


 セレネが小さく頷く。


「はい。光、三回で」


 



「私は足止めします」


 ステラ。


 


「……俺が前で受ける」


 自然に、形が決まる。


 


 いつも通り。


「ミドは」


 一瞬だけ視線が向く。


「見てろ」

「お前が一番、気づく」




「……はい」


 それで、伝わった。


 


 四人はギルドを出た。


 


 森へ続く道。


 石畳が土に変わる。


 足音だけが、一定の間隔で続く。


 


 ふと。


 ギルドで会った四人を思い出す。


 同じ種類の剣。


 似た装備。


 誰が前に出ても、穴が開かない。

 

 誰が下がっても、形が崩れない。


 今の主流。


 万能四枚。


 ――あいつらでも、撤退。


 ヒナタが小さく息を吐いた。


「……普通なら、無理だな」



 少しだけ間。


 

「……ま、でも」


 前を見る。


「噛み合えばいけるか……」


 独り言みたいな声。


 


 ミドは、少しだけ笑った。


 


 森に入る。


 光が減る。


 湿った空気が肌にまとわりつく。


 



 すぐに気配。


「左」


 ステラ。


 

 茂みが揺れる。


 

 ヒナタが踏み込む。


 一閃。


 短い。


 セレネの補助が重なる。


 動きが軽い。


 ステラの術が走る。


 獣が弾ける。



 終わり。 



 あっけない。


 もう、慌てない。


 

 役割が自然に回る。



 また一体。


 同じ。


 

 斬る。


 撃つ。


 崩す。


 数秒。




「……安定してますね」


 セレネが小さく言う。


 

「慣れただけだ」


 ヒナタが返す。



 でも。


 少し違う。


 前より、速い。


 前より、無駄がない。


 


 奥へ。


 さらに奥へ。


 


 木が太くなる。


 光が、届かない。


 鳥の声が、減る。


 風が、弱い。


 


 足音だけが、やけに響く。


 


「……静かですね」


 セレネの声が、やけに遠く感じた。


 


 返事はない。


 


 匂いが変わる。


 土と、苔と。


 それに混じって。


 古い石の匂い。


 人のいなくなった匂い。


 


 木々の隙間。


 遠く。


 灰色の何かが、ちらりと見えた。



 崩れた壁。


 石の影。


 人工物。


 森の色と、明らかに違う。


 


 足が、自然に遅くなる。


 


 誰も何も言わない。


 


 音が、ない。


 獣の気配も。


 虫の声も。


 森じゃないみたいだった。


 


 ただ。


 


 何かが、いる。


 


 そんな気配だけが、残っていた。


 


 ヒナタが、低く言う。


「……近いな」


 その一言だけが、重く落ちた。


 


 四人は、言葉を交わさないまま。


 さらに奥へ進んだ。


 


 石の影が、少しずつ大きくなっていく。


 

 まだ。


 

 全貌は、見えない。



 ただ。


 空気だけが、確実に変わっていた。


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