一閃、断つ
地面が抉れる。
鉄皮熊の前脚が振り下ろされる。
ヒナタが受ける。
鈍い音。
骨まで響く衝撃。
足が、半歩沈む。
「……っ」
止めている。
だが。
押される。
重い。
今までの魔物と、質が違う。
質量そのものが、ぶつかってくる。
ヒナタの体が、後ろへ弾かれる。
その瞬間。
「――離れて」
ステラ。
足元に術式。
光。
爆ぜる。
衝撃波。
鉄皮熊の巨体が、わずかに浮く。
その隙に。
ヒナタが着地。
踏み込み。
一閃。
火花。
浅い。
刃が、弾かれる。
「……硬ぇ」
舌打ち。
すぐ横。
鉄皮熊の腕が薙ぐ。
速い。
避けきれない。
その瞬間。
薄い光が、ヒナタの前に走る。
防御術式。
衝突。
光が砕ける。
だが。
勢いが、わずかに殺される。
ヒナタが滑りながら受け流す。
「助かる」
「三秒だけ持ちます」
即答。
ステラの手が、止まらない。
詠唱。
次の術式。
雷光が走る。
鉄皮熊の脚に直撃。
肉が焦げる。
匂い。
――それでも。
倒れない。
止まらない。
踏み込んでくる。
「……削れてはいます」
「ですが、時間がかかりすぎます」
「見りゃ分かる」
ヒナタが笑う。
余裕の笑いじゃない。
歯を剥き出した、戦闘の顔。
斬る。
弾かれる。
ステラが撃つ。
焦がす。
体勢が崩れる。
そこにヒナタ。
また斬る。
ほんの少しだけ、血。
だが。
ほんの少しだけ。
積み重ねないと、届かない。
確実に、削り切れない。
ヒナタの額に、汗が滲む。
(……この感じ)
このランクの魔物は、何度もやった。
だが。
(こんな重さじゃねぇ)
想定より、一段。
いや。
二段、上。
(今の編成だと……長引く)
舌打ち。
鉄皮熊が、再び踏み込んだ。
地面が割れる。
戦闘は、まだ続く。
――その頃。
ミドは、セレネの腕を肩に回していた。
「……大丈夫ですか…」
反応はない。
体が、ぐったりしている。
思ったより、運びにくい。
引きずるみたいに、後退する。
枝が足に絡む。
転びそうになる。
それでも、止まらない。
後ろで。
爆発音。
金属音。
ヒナタの声。
ステラの詠唱。
全部、聞こえる。
遠くなっていく。
「……セレネを、避難させろ」
あの声。
短い。
迷いのない命令。
――セレネだけ。
ヒナタは、二人で持ち堪えるつもりだ。
自分が戻る前提で。
足が速くなる。
セレネを木陰に横たえる。
呼吸。
ある。
大丈夫。
顔を上げる。
戦闘音。
まだ続いている。
鉄皮熊の動き。
ヒナタの踏み込み。
ステラの術式。
頭の中で、勝手に再生される。
(……削れてない)
(何か、おかしい)
喉の奥が、少しだけ乾いた。
まだ。
自分は、戦力だ。
戻らないと。
森の奥で、また爆発音が鳴った。
ミドは、走った。
音が、近づく。
視界の先。
ヒナタが弾かれた。
木を削りながら、横へ流れる。
すぐ立つ。
踏み込む。
斬る。
火花。
浅い。
ステラの魔法が炸裂する。
爆音。
閃光。
それでも。
止まらない。
鉄皮熊が突っ込む。
低い姿勢。
地面を抉りながら。
ヒナタが受ける。
押される。
重い。
土が、ずるずると後ろへ滑る。
また突進。
同じ。
低いまま。
立たない。
近い。
それでも、起き上がらない。
目が、止まる。
突進。
体が、浮いた。
一瞬だけ。
影が、開く。
ミドの喉が、勝手に動いた。
「ヒナタ!!」
「下!!」
ヒナタの目が、わずかに細くなる。
理解。
同時。
「ステラ!!」
地面が、爆ぜた。
術式。
鉄皮熊の足元が隆起する。
巨体が、持ち上がる。
腹の影が、開いた。
ヒナタが踏み込む。
一直線。
水平。
一閃。
深い。
初めて。
刃が、沈んだ。
肉を断つ感触。
血が、飛ぶ。
鉄皮熊が、絶叫した。
森が揺れた。
確かに。
今。
届いた。




