逃げ込まなければ良かった。
数年前卒業した高校の前の道を深夜歩いていた時だった。
突然、所持していたスマホからJアラートの警報音が鳴り響く。
ヤバい、確か着弾まで5分程しか余裕がないんだったよな?
俺は高校の塀を乗り越え校舎の裏に走った。
在学中に教えられてたんだけど、Jアラートか鳴ると学校の地下にある核シェルターの扉が自動的に解除され、誰でも逃げ込めるようになるからだ。
校舎の裏に走り込むと、校舎と部室棟の間にあるコンクリート造りの小屋の分厚い扉が開いているのが見えた。
躊躇する事無くその扉を潜る。
俺が扉を潜り階段を駆け下りた直後、扉が閉められる事を知らせる甲高い警報音が鳴り響いてから、扉が音を立てて閉められロックされた。
夏休み真っ盛りだった事もあって、シェルターに逃げ込んだのは俺だけみたいだ。
扉が閉められて数秒後、シェルター内を凄まじい振動が襲う。
核兵器が着弾したらしい。
多分、隣街にある同盟国の基地が攻撃されたんだと思う。
放射能が核シェルター内に入り込んで来てないか不安だったけど、そんな事は無かった。
階段に腰を下ろしてへたり込んでいた俺は、腰を上げシェルターの奥に歩む。
長い通路が何本も伸びる広い部屋に入った俺に頭上のスピーカーから声が掛けられる。
『これはこれは卒業した柴田君ではないですか。
おめでとうと言うべきかな? 此のシェルターに逃げ込めたのは君だけだよ。
通路の左右にある部屋を1つ選び自室にしなさい。
選んだらまた此処に戻って来るように』
此処から1番近い部屋のドアを開け中を覗き込む。
2メートル四方程の部屋は、ベッドと机に椅子だけが備わっているだけの殺風景な物。
『そこが君がシェルターから出るまでの個室になる』
広い部屋に戻るとアンドロイドが1体立っていた。
あ、此奴、担任だった奴だわ。
俺が生まれた頃から教師のなり手が不足し、その穴埋めをアンドロイドが負うようになったのだ。
アンドロイドが俺に声を掛けて来る。
『さて、柴田君、お久しぶりです。
元気でしたか?
此処で一緒に避難生活を送る事になったのですから、柴田君は高校生活をもう一度やり直しましょう。
卒業できたとは言え成績は最下位でしたから、次はもっと良い点を取れるように頑張りましょうね』
こうして俺は卒業した高校の核シェルターに逃げ込んだばかりに、高校生活をやり直す事になってしまったんだ。
逃げ出したくても逃げ場所は無いし、勉強しかやる事が無いから嫌でも勉強しなくちゃならない。
だから偶に思うんだ、逃げ込まなければ良かったとね。