84話 氷帝ファニア・メト
「なんだこれ。」俺はまずその緑の深さに驚愕した。札が立っている。『この先ロンビルク山脈。生半可な気持ちで行くと死ぬぞ引き返せ。』いや、どういうことよ。普段なら絶対通らない道だな。「いやぁ、昔はこんなのなかったと思うんだけど。あれかな。」あれ、と言うのは恐らく、「竜人族と獣人族の争いのことか?」俺が聞くとニルティアは頷いた。そうだね。たぶん。悪化したのかも。ニルティアは迷わずに林の中に入っていく。そして、獣道のような道とは言えなさそうな道を突き進んでいく。「覚えてるのか?」「もちろん。さすがに集落の近くまでは覚えてるよ。自分の家も。」「そうか。」俺はニルティアについていく。
「ショウ、止まって。」ニルティアに止められた。そして、体勢を低くした。「集落から獣人族じゃない声がする。これは、、」ニルティアの雰囲気が変わった。「ショウ、マズいよ。オーガだ。それにゴブリン。複数体。」ニルティアが手品のように指と指の間に投擲用痺れナイフ(マドリフ作)を出現させた。「助けに行きたいんだろ?」俺も剣を抜いた。「ありがと。」その言葉を合図に俺とニルティアは草むらから飛び出した。
オーガが30体、ハイゴブリンが35体、か。いやなにがあったらこんなことになるんだよ。「ニルティア、言葉通じると思うか?」「多分、。」全速力で走りながら俺は一応聞いた。エルフはどちらの言語も理解しているようだったが、こっちはどうかな。「おい!そこのお前!危ないぞ!」なんか前の方から声がしたと思うと、オーガに握られた男の人が言ったようだった。頭に動物の耳。「間違いないね。」俺が言うより先か、ニルティアが飛んだ。空中で回転しながら四方に痺れナイフを投げる。いや、戦闘技術向上しすぎだろ。どのナイフも的確にオーガの首筋を捉えている。「ショウ、首をはねていって。」恐ろしい要求だな。「任せな。」俺はオーガの腕に飛び乗り、そこから一気に駆け上がり両手で剣を振る。ザク、と音を立ててオーガのバランスが崩れた。それを確認して俺は次のオーガに向かう。5体ほど片付けたときだろうか、「ショウ!」とニルティアに叫ばれた。その声を聞いて周囲を見てみると、ゴブリンに拳を振り上げられている小さな子どもが膝を抱えて小さくなっていた。「ダッシュ。」一気に距離を詰める。そして子どもを抱えゴブリンの腕を切り落とす。「あ、あ、。」いきなりの人類の登場に困惑しているらしく、言葉が出てこないようだった。「逃げて。」俺はそれだけ言ってその子から手を離した。「ありがとう。」その子はそれだけ言って林の方へ走っていった。「ニルティア!こういうときのために衛兵的な存在は居ないのか?」「居るはずなんだけど、ここには女性と子どもしか居ない!」ニルティアが叫んだ。本当だ。逃げ回っているのは女性と子どもたちだけ。男はいない。まずいな。時間が無い。「魔力領域・封。」聞き覚えのあるチートスキル。オーガたちの動きが止まった。「さて、休暇を得たので後を追ってきましたが、まさかこんなことになっているなんて思ってもみませんでしたよ。」特徴的な白くモフモフなウサギ耳。「剣の雨。」ノクリスがそう言うと、信じられない本数の剣が空から降ってきた。こんなに大剣を保有してるものなのか?と思ったが、地面に刺さった瞬間に剣は消えている。出現させて消滅させるのを高速で繰り返しているんだということに気付いたのは、オーガが30体切り刻まれた後だった。「魔力領域・浮。」ノクリスが1本剣を地面に刺した瞬間、ゴブリンたちが宙に浮いた。まるでゴブリンたちだけに衝撃が走ったかのように。「魔力領域・墜。」今度はゴブリンが地面にめり込んでいった。まさか、重力操作?この浮かして落とすのをノクリスは5回繰り返した。うん、さすがに全てのゴブリンが死んだ。やっぱりチート。ほんとに信じられない。「さて、ただ帰省しに来たわけでは無くて、ショウさんに伝えておかないと行けないことがあったので来たんです。」「どうかしたのか?」「竜人族と獣人族のもめ事の当事者の年齢が大体分かったんです。20歳前半かなと。」いや俺と近いな。「もしかしたら気が合うんじゃ無いかな、とか思ったりしたんですけど、さすがに無いですかね。」どういう心配をしてるの?と言いそうになったがなんとか引っ込めた。「まぁ、大丈夫だろう。」「それなら良いんです。では私はこれで。」ノクリスは剣の上に乗ってすっ飛んでいった。めっちゃ速い。さて、俺は周囲を囲んでいるいつの間にか出現した男の獣人族にどう説明するか悩んだ。「ニルティア、頼んで良いか?」ニルティアが来てくれた。「白狼族、?まさか、、ニルティアか!?」男性のうちの一人が叫んだ。驚いたようにニルティアが頷くと、「じゃあこいつがさらったやつか。全員で叩きのめしてやる。」いや、なんでだよ。普通やった人がのこのこ来るわけが無いでしょうが。「いや、ちが、」俺の言葉を聞く隙は無かった。みんなして俺を殴りに来た。はぁ、俺は剣を握り直して構えた。
「、、、って言うことなんです。分かりました?」俺は正座して頭を下げているさっきの獣人族たちに向かってこれまでの経緯を説明した。ちなみにさっき一瞬でボコした。ニルティアが頭を抱える。「全く、相変わらず激情型しか居ないんだから。」「面目ない。」はぁ、。「それはそうと、何しに行ってたんだ?集落がこんなに危なくなってたってのに。」「それなんだけどさ、ショウ。たぶんこのゴブリンたち、巣から出てきた奴らだと思う。誰かが巣を刺激して、誘導してきたのかも。」「竜人族の仕業か?」誰かがそう言った途端、雰囲気が変わった。「違いない!」「もう我慢できねぇ!」「ぶっ潰しに行くか!」はぁ、。「落ち着け!!」俺の一喝で静まりかえった。はぁ、。手が焼けるとか言うレベルの話じゃ無いぜ。「そうと決まったわけじゃ無いだろう?」男の中で一人がそう言った。よかった。まともなやつがいた。「僕たちが追いかけっこしてたら巣に入っちゃったんだ。」小さな獣人族の子どもが怯えながら言ってきた。おー、正直で良いこと。「大丈夫だ。なんとかなったんだから。」俺がそう言うと子どもたちは明るい顔をした。分かりやすいな。「おい、なにがあった。」集落の入り口近くで、いかにも強そうな人たちが立っていた。あとから分かったが、この男の集団は15~18歳の未熟なやつらで、入り口にいたのが本当の兵士だった。
「へぇ、お前さんたちが助けてくれたのか。」「はい。あとノクリスさんも。」ニルティアがそう言うと、獣人族長マーキュレン・ギリスは驚いたように「ノクリスが来てたのか?」と言った。そうだ、この人こそノクリスの父親だ。あの化け物じみた方の親です。「顔くらい出しても良いだろうに。」あー、めっちゃさびしそう。「さっきはすまなかったな。若い奴らは人の話を聞こうとしないものでよ。」「いや、大丈夫だ。一喝すれば静になった。」「おうそうかい。あんたもやるな。まぁ、仲良くしようじゃねぇか。」ギリスから差し出された手を俺は握った。「こちらこそ。」「失礼します!」入り口から声がした。「どうした。」ギリスが立ち上がりながら言った。「竜人族の集落の方に子どもたちが迷い込んだとの報告が!」「なに!?」ギリスの表情がけわしくなった。「ショウ、ニルティア、話は帰ってからになる。すまないな。集落の中を適当にうろついていて良いぞ。」ギリスはそれだけ言って部屋から出て行った。俺はニルティアに視線を送った。それを受け取ったニルティアは、頷いた。俺はそれを見てすぐに立ち上がって部屋を出た。
森の中は日差しが届かず、暗いところが多い。山脈と言ったら木が生えていないイメージがあるんだが、ロンビルク山脈はその固定概念を崩してきた。「ショウ、今度は竜人族の声がする。って、。」ニルティアの言葉がおかしくなったことで俺は視線を上げた。すると目の前には縄で拘束され、歩かされている獣人族の子どもたちがいた。気付くと俺はその縄を切っていた。「敵襲!」あ、やっちまった。竜人族が一瞬で俺を囲んできた。「なぜ人類がここに居る?」ドスの効いた声。だけどマリガルドに比べたら屁でも無い。「俺のパーティーメンバーの故郷を見に来ただけだ。それと、小さな子どもを縄で縛るな。」俺の言葉を聞いた竜人族の兵士は俺を睨んできた。「貴様に何が分かる。」「何も分かるわけが無いだろう。だから知りに来た。それだけだ。」睨み合った。すると、奥から圧倒的な気配がした。「氷帝様が通るぞ!」と大きな声がした。すると兵士たちが道を作り、地面に槍やら剣やらを突き刺した。そしてその道を歩いてきたのは、小柄な女性だった。[こんにちは。]その人は口を開けずに俺の頭に話しかけてきた。[私は竜人族の氷帝、ファニア・メトと言います。あなたは?]俺は相手の脳に語りかけるなんて芸当は出来ないので、普通に声で「俺は冒険者をしているショウだ。」と言って頭を下げた。冒険者、と聞いた瞬間衛兵たちの空気がぴりついたのを俺はしっかり感じ取ることが出来た。「無礼なのは承知している。それにあなた方の間での問題で俺が口出しするのがお門違いだということも分かる。だが、どうしても見ていられなかったんだ。子どもたちを争いに巻き込まないでくれ。」俺の言葉を聞いたファニアは[そうですか。]と言って優しく微笑んだ。[優しい方なのですね。では、この子たちは解放します。しかし、あなたには一緒に来ていただきます。]理解のある人でよかったと心の底から思った。
俺とニルティアは客間に通された。そして今目の前にはファニアと竜人族の族長が座っている。簡単な自己紹介を済ませて、本題に入った。[よくいらっしゃいました。ようこそ竜人族の集落へ。]「久しぶりの人類だな。最後に来たやつは奴隷商のやつだったか?みんなでフルボッコにしたな。」族長、エグいっす。「それで、ショウよ。何の用で来たんだ?」なんとも言えない圧がある。恐らく覇気だな。「獣人族と仲直りというか、そう言ったことをしてもらいたくて、ここに来た。」「そうか、。」[バカ正直すぎますね。]クスクスとファニアが笑った。「おぉ!久しぶりにファニアが笑ったところを見たな!おい、ショウとか言ったか?」「はい。」「なぜ仲直りしてほしいのだ?」「争いに巻き込まれる小さな子どもたちが可哀想に思ったからだ。」[真っ直ぐな心をお持ちのいい方ですね。]ファニアが族長に言った。「そうだな。よし、仲直りしてやろう。」、、。「、、は?」やっべ、。なんか話が早すぎて拍子抜けしたわ。だって10年以上喧嘩してんだろ?え?そんな簡単に終わらせちゃって良いのか?いや良いんだろうけど!「娘が笑うところを本当に久しぶりに見ることが出来た。私は今機嫌が良いからな。」うわぁ、。[あらまぁ、ショウさん、気に入られちゃいましたね。]氷帝、なんか、なんとも言えないですけど怖いっす。竜人族ってみんなこんな感じなのか?めっちゃ怖いんですけど。その後もとんとん拍子で話が進んでしまい、楽勝で仲直りの約束を取り付けることが出来た。もちろん、いろんな条件がついたが、それでもやっぱ人間以外も機嫌って大事なんだな、と思った。帰り際、ファニアが見送りに来てくれた。[すみません、いろいろと話が早すぎて。]「いや、良いことだから。でも、そんなに笑ってなかったのか?」俺が聞くとファニアは少し考えるように目を閉じた。[そう、ですね。あの時以来ずっと笑ってなかったかもしれません。あなたのおかげですね、ありがとうございます。]いや俺なにもしてないんだけどな。[知っていらっしゃると思いますが、私がこの争いの火種になりました。]まぁ、「なんとなくそうかなとは思ってた。」[はい。]「あのさ、丁寧語やめてくれない?」普通に俺より明らかに高貴な存在が丁寧語だとなんか、罪悪感があるから。[良いのでしょうか。]「うんいいよ。」[なら、丁寧語は無しで。]「あ、気になってたんだけどさ!」ニルティアが口を開いた。「『氷帝』ってどういうこと?」[あぁ、それはね、、、。]ファニアが魔方陣を出現させ、魔法(恐らくアロブド系統)を放つとそれは竜の形になって飛んでいった。表現が難しいが、本当に竜が飛んでいったように見えた。[竜人族は魔法を放つとそれが『竜の加護』によって強化されるの。私の場合はそれが氷魔法で、竜の形もはっきりしてるから、『氷帝』の称号が与えられたってわけ。他にも『炎帝』や『風帝』、『雷帝』なんかが居るの。]「なるほど。獣人族にはそんなの無いなぁ、。」ニルティアが頬を膨らました。[ふふっ、でも獣人族はその速度があるじゃない。]「たしかに。」ニルティアが笑うとファニアは微笑んだ。なんか、平和だなぁ。獣人族との仲直りは、これまでの捕虜を全員解放することが条件にされた。そりゃそうだなとは思ったけど。「ファニア、ありがとな。たぶんファニアのおかげでここまで早く話が進んだから。」俺は礼を言った。「ほんとだよ。なんでこんなに早く帰れるのか理解できないもん。」ニルティアが苦笑いしながら言った。[笑ってなかったのが功を奏したみたいですね。]ファニアも苦笑い。そのとき、近くでカンカンカンカンカン、と鐘の音がした。明らかに異常事態だ。「どうしたんだ!?」[敵襲ですね。行かないと。]「俺たちも手伝う!」「もちろん!」ファニアについていく。
「うわ、。」さっき歩いたはずの道はゴブリンに埋め尽くされていた。なんだこの数、尋常じゃ無い。[数体のオーガとヴァレンスが入り込んでる。申し訳ないけど皆を守るために力を貸して。]ファニアが言ったのとほぼ同時に俺たちは左に飛んだ。「あらまぁ、避けられましたね。」おい待て、この喋り方。「何でお前が生きてんだよ。」「なぜか?私は死なないんですよ。」意味がわからねぇ。みんな、死んだってのに。「クルーシャ!!」俺はそう叫んで剣を抜いた。凶刃の舞・酷・終の番。「おやおや、元気ですね。」クルーシャは俺の横薙ぎを受け流した。長剣ではなくなっている。マリガルドが折ったからか。だが、それは俺の攻撃を受け流すのには十分だったようで、すぐに反撃の膝がきた。俺はなんとか避けたが、それによってクルーシャとの距離が出来てしまった。「許さ、ない。許さない。許さない。許さない。許さない!」ニルティアがキレた。剣を抜き、振った。ニルティアの背中に翼が出現した。「ほう、。」クルーシャは余裕そうだった。「乱翔。」ニルティアが低空飛行していく。クルーシャが剣を構えたのを見てニルティアは右翼だけを羽ばたいてクルーシャの周りを回り、後ろに入った。「危ないな。」クルーシャがそう言うと、姿が変わった。「お前、なんだ?」俺は素直にそう思った。「『模倣』の魔族です。」そいつはそれだけ言うと今度はノクリスになった。あ、詰んだ、、と思ってしまった。だが、「お前には仲間は居ねぇだろうが。」俺は2本しか出ていない大剣を見てそう言った。[模倣か、。興味深いね。]ファニアが前に出た。[じゃあ、本気出すからショウたちは離れてて。]ファニアの指にハマっていた指輪が光った。少ししてその光の中から現れたのは、竜(でも翼があるからドラゴンか?まぁいいや竜と呼ぶことにしよう。)だった。全身から冷気を発している。水色の竜だが、翼には氷の結晶のような模様があった。とりあえず、この人(竜)はやばい。そんなに大きいわけじゃ無いけど、たぶんやばい。大きさ的には中型ぐらいか。出現したときのファニアの咆哮で、ゴブリンたちは体を震わせて逃げていった。[ショウ、隙を作るから、後はよろしく。]一瞬だった。ファニアは飛び上がると、特大級と言っても足りないくらいの大きな魔方陣を5枚、それぞれが少しずつ重なるように出現させた。[氷針。]辺り一面に氷の結晶が出現して、模倣ノクリスは逃げ切ることが出来ずにそれが肥大化したときに生じた氷の結晶に体を貫かれた。俺の周りにあった結晶は、肥大化しなかった。[あ、もういいや終わらせる。]もう一度、今度は3枚の魔方陣を完全に重ねて出現させたファニアは、人の姿に戻るとその魔方陣からさっき見せてくれたアロブドのようなものを放った。それは最初、線だったが、次第に形が形成され、竜になり、その口が模倣野郎を飲み込んだ。竜が消えたとき、俺たちの前には完全に凍りきった模倣野郎がいた。[砕いちゃって良いよ。]ファニアがそう言ったのを聞いてニルティアが蹴って砕いた。うん、模倣野郎は砕け散った。[ありがと。]ファニアはそう言った。「氷帝様!」あ、さっき俺たちを囲んでた人だ。「おけがは!?」[無いですよ。けが人たちの手当を早急に行ってください。]ファニアは丁寧語で言った。「御意!」とその人たちは返事をして走って行った。
事後処理が割と大変だったが、がれきの撤去などは俺も手伝った。
はい、新キャラはファニア・メトですね。まぁ、まだちゃんとした戦闘はしてないですけど、とりあえず化け物ってことが伝わってればそれで十分です。(あれ、なんかノクリスの親も出てきていた気が、。)まぁ、なんだかんだで仲直りの約束をとりつけて任務完了ですね。まだ次の話でも竜人族と獣人族の話なので楽しみにしてもらえればです!では次の話で!




