72話 テイリアスの過去
気づくと俺は何もない世界にいた。本当に何もない、ただ俺だけが立っている世界。確証はないけれどすぐにそう感じた。とりあえず5分くらい待機してみたが、何もなかった。仕方なく動いてみることにした。しばらく歩くと、前のほうから小さな子供たちがはしゃぎながら走ってきた。「なぁ今日何して遊ぶ?」「んー、ルエンはなにがいいー?」「僕は図書館で本を読もうかな。」「えー、遊ぼうよー。」なんだか平和だなぁ、と思った。そういえば、周りが街の風景になっていた。でも、見たことのない景色。どこの景色だろう。ま、俺が言ったことのある街のほうが少ないし、こういうところもあるんだろう。もう少し歩いてみるか、。待て、なんで俺以外のパーティーメンバーがいないんだ?「なぁ、ここってどこだ?」俺は近くにいた人に話しかけてみた。だが、反応がない。聞こえていないのかなと数回同じ問いを投げたけど、毎回無視された。まるでそこに俺がいないかのように。、、俺がいない?ある考えが浮かんだ俺は周囲の高いところを見ようとする。だめだ、見えない。俺はそれなりに高い場所を見つけて、そこに向かって走った。
一人の男性が、それも腰に剣をもった明らかな冒険者が必死に走っているのに道中誰も俺のほうを向きはしなかった。目を向けることもなかった。つまり、、。俺は目指していた高い場所についた。そして辺りを見渡す。この世界になかなか存在しないとてつもなく高い壁、遠くから聞こえる水の音、街の中央に立派な城、間違いない。ここは、、支配される前のウォテシィだ。突然信じられないくらい眩しくなって、俺は目をつむった。目を開けると、視界が異様な光で染まっていた。なぜだろうと思ってふと上を見上げると、大きな魔方陣があった。
ウォテシィの上空に現れた魔法陣。なんだこれは、、と目を細めてみていると、周囲にいた人が次々に倒れていった。「おい!どうしたんだ!」俺が声をかけても誰も反応しない。次々に倒れていく。「全員眠ったね。」聞き覚えのある声がしたと思ったら、後ろにテイリアスが立っていた。でも、服装が今のとは大幅に異なっている。昔の―グロメントの一員だったころの―黒いフードだ。だが、俺は見えていないようで、スタスタと横を通りすぎた。「全く、ただ眠らせただけですか?つまらないですよー。テイリアス様なら皆殺しも可能でしょうに。」この声、誰だ?「人殺しは好みじゃないって昔から言ってるじゃん。」テイリアスはそれだけ言った。この頃、だから大体20年前にはもう人類を殺さないようにしていたのか。「テイリアス様、いつ、裏切るんですか?」「行くときは言ってくださいねー。私たちもついていくので。」「はいはい。」裏切りの約束、。だが、俺が来た時はテイリアスしかいなかった。どういういうことだ?
「おい!お前たち何をしている!?」俺がさっき上がってきた階段を男性が駆け上がってきた。「知らないふりで通すよ。」テイリアスがこそっと言ったのが聞こえた。「いや、急にみんなが倒れ出して、、、。何が起こったんですか、、?」テイリアスの隣にいる人がテイリアスの前に立ちながら言った。「待て、その後ろにいるのは誰だ?」「私たちの姉です。」「そうか、、生き残りがいたのか、、。ん?お前たち、テイリアスとよく一緒にいる側近と似ているな。」次の瞬間、男の姿が消えた。「しゃがんで!」テイリアスが叫んだのとほぼ同時に、ギィィィンという音が聞こえた。「やっぱりお前、近衛騎士団特殊師団だな。奇人集団が!」初めて聞いた単語だった。「シャル!だめ!」逃げるよ!、とテイリアスは続けた。「逃がさんよ。」気づくと周りには戦闘態勢に入った集団がいた。「囲まれた、、!」「空間魔法は?」「ダメ、ここでやったら魔法陣を閉じる前に入ってこられる。」「じゃあ、あの男は私たち二人に任せて。ほかの人たちはテイリアス様にお願いします。」「シャル、あなた、、。」テイリアスの口にシャルは指を置いて塞いだ。雨が降ってきた。「大丈夫ですよ。だって私たちは魔族トップクラスのテイリアス様の側近なんですから。」シャル、と呼ばれた少女は笑って白い八重歯を見せた。「シャルの言う通りですよ。すぐに片づけて置きますから後で迎えに来てください。」となりにいる少女も笑って見せた。テイリアスは気づいているはずだ。シャルたちは時間を稼ごうとしているということに。「、、、わかった。後で来る。」テイリアスはそういうと建物の屋根に飛び乗った。「俺以外のやつ全員であいつを捕らえろ!この2人は俺が殺る!」はい!という声が幾重にも重なった。俺はテイリアスのほうについていった。
「しついこいなぁ。」テイリアスが屋根上を走りながら言った。「ここなら、、。」そういってテイリアスは屋根から飛び降りた。「囲め!」テイリアスは一気に囲まれた。「ねぇ、早くどいてくれない?」テイリアスは低い声で言った。「やれ!」大勢の武装した人間がテイリアスに切りかかる。「エモタズ。」テイリアスの足元の地面から何かが出てきた。「ヴァレンスだ!全員気をつけろ!」「こんなもの!」テイリアスの出したヴァレンスは、あっという間に処理された。「一騎打ちをしようか。」集団の中から一人、前に出てきた。「なんのつもりだ?この場で全員殺す。すぐに私の妹たちのところに行く。そこをどけ。」声に怒りが含まれている。「では、この勝負で私が死ねば、ほかのものは退かせよう。これでどうだ?」「わかった。」「魔族最強と呼ばれながら人を殺そうとしない謎の存在。以前から気になっていたんだ。ふむ、私の好みの顔だな。では、貴様を殺してその首を私の家に飾らせてもらおうか。」「相変わらず特殊師団には奇人変人だらけだな。こいよ。」「では。」男は2本の剣を出した。二刀流か。「アロブド。」光の矢が発射された。「これはおもしろい。魔族が光属性か!」「黙れ。」男が近づいて来ると同時に、テイリアスの手が光った。そして、剣がテイリアスを貫いた。「はっ!近づかれただけで死ぬとは、最強とは嘘のようだな!では!」シュ、っと音を立ててテイリアスの首がずれた。「飾らせてもらう!」男が剣を突き上げた。「『勝って兜の緒を締めよ』って言葉知ってる?」「え?」男の腹から大きな剣が出現した。「ありがと。剣が体から遠ざかるのを待ってたんだ。」「ゴフッ、。」男が血をはいてうずくまる。「じゃあね。」テイリアスは男の痙攣している手からから剣を取り、ザシュ、と音を立てた。「おわり。通してくれる?」テイリアスが言うと取り囲んでいた男たちが一斉に襲いかかってきた。「わかってた。だから、、。準備してたの。リングリッド・ロスタス。」テイリアスの背中から黒い翼が生えた。え?テイリアスってエルフじゃ、、。父親の遺伝子か?「まずい、、!逃げろ!酷翼だ!」「酷翼ってテイリアスだったのかよ!別人じゃねぇのかよ!」「全員死んで。」テイリアスは剣を出し、空を滑空して飛びながら、次々に人を斬っていく。途中、羽ばたくたびに黒い羽根が落ちてくる。その姿が、俺にはきれいに見えた。おかしいとは自分でも思う。でも、空を滑空して自由に飛び回る姿が、俺の心を揺さぶっている。「じゃあね。」最後の一人を斬ったテイリアスは剣をしまい、翼も背中に消えた。「さて、と。急がないと。」地面は雨の水に溶けた人間の地で赤く染まっていた。
さっきいたところに戻った時、信じられないものを見た。さっきの特殊師団の頭と思われる男と、シャルが、刺し違えたまま立っている。「シャル!」テイリアスが走って向かった。シャルは男の首に剣をさし、胸に剣を刺されていた。目と口を開けたまま。後ろを振り返ると、シャルとは違うもう一人の少女が腹から血を流して倒れていた。「、、、、。」テイリアスはその場に座り込んだ。雨が地面を打つ音が響いている。「、、、ごめん、、、。」かろうじて聞き取ることができた。「ごめん、、ごめん、、ごめん、ごめん、ごめんごめん。」雨が強くなっていく。「ごめんごめん!ごめん!ごめん!!ごめん!!!ごめん!!!!ごめん!!!!、、、、ごめんなさい、、、。何回でも、謝るから、、謝るからさ、、、謝るから帰ってきてよ、、、。ねぇ、シャル、、リーゼ、、。ねぇ、、、。」強くなった雨で道は水たまりが多くなって川のようになった。シャルとリーゼの血が流れていく。テイリアスは少し2人を抱き寄せ、魔法で傷を治癒し、目を閉じさせた。2人を抱きしめたテイリアスは動かなくなった。「忘れない。忘れないから、、生まれ変わっても私を見つけて。私も探すから。もし、、もし見つけたら、、そのときは夢って言ってた世界旅行に行こう。今よりも平和な世界で。」
あ、ところどころ「ウォテシィ」の表記がおかしいですが気にしないでもらえればと思います。似たような街の名前などを作る予定はないので。なかなか重くなっちゃいましたね。今回はテイリアスの過去編でした。まぁ、次からも重めになるとは思いますが、、読んでくださいね?では次の話で!




