68話 マリガルド
墓地から戻ると、ラファエルさんに声をかけられた。「あ、ショウくん、さっき手紙が来ていたよ。」そういってラファエルさんは茶色い便せん入れのようなものを出した。「ありがとうございます。」誰だろう、と思いながらその封筒を受け取り、裏返した。『王都冒険者協会』ときれいな明朝体で―この世界に明朝体が存在するのか知らないが―書かれていた。飾り気のない封筒。なんとなく俺は部屋に戻らずにもらったその場で封筒を開いた。『王都冒険者協会より各冒険者(パーティーの場合はリーダーに)この手紙は送られている。』というなんだか堅苦しい一文から始まった。『3日後にウォシティの奪還作戦を行う。協力する冒険者、パーティーは各地域の冒険者協会へ行き、レイドへの参加登録をしてもらいたい。敵は最低でもブロンズランク級の魔物だと思われる。もちろんこの召集は有志であり、参加を強制する権力を我々は持っていない。報酬は討伐結果による。多くの冒険者、パーティーの参戦を期待している。 ―王都冒険者協会総司令部長 ルインドリス・エシュード —』うわぁ、最後の肩書長すぎだろ。まぁ、初読の感想はそんなところにしといて、なんか、思ってたより大ごとだな。「ショウさん、ちょっと見せてもらえますか?」後ろからアリスに声をかけられた。「あ、ごめん。」アリスに手紙を渡すと、それをまじまじと見つめた後、口を開いた。「まさか総司令部が動くようなこととは思いませんでしたね。」あ、そうなんだ。「エシュード、。」テイリアスがなんか意味ありげな反応を示した。「どうかしたのか?」「、グロメントを4人殺した歴代最強の人間で、魔族から見ると化け物。まぁでも、私も戦ったけど、さすがに人間ね。私が勝った。」どっちなんだよ。強いのか弱いのかわからねぇ。「まぁ、グロメントの中でも序列の低い者だったとはいえ、4人葬ったのはすごいと思う。」結論は強いで良さそうだな。「3日あるんだ。」隣にいつの間にかアイシャが立っていた。「まぁ、3日あればゆっくり準備すれば間に合うだろ。」「わかった。」「ウォテシィって、また地下道から行くの?」あー、あそこは出来れば通りたくないな。「特に明記されていないな。」俺はパーティーメンバーたちを回りまわって戻ってきた手紙を読みながら言った。「じゃあ、クリスさんに聞きに行きますか?レイドへの参戦登録もしないとですし。」特にほかにすることもなかったから、アリスの提案を採用することになった。
「あ、来た。それ、手紙が届いたようね。」冒険者協会に入るなり、クリスさんがカウンターから声をかけてくれた。「はい。レイドに参加したいのでその登録をしに来ました。」「はーい。、あ、そうだ。ちょっと待ってて。」そういうとクリスは一度奥のほうへ下がっていった。しばらくして戻ってきたクリスの手には、なにか銅色の長方形のものがあった。「それって、」アイシャが言った。クリスはその言葉に頷いた。「えぇ、みんな、昇級おめでとう。」銅色の冒険者カード、ブロンズランクか。「それと、登録ね。」クリスはカウンターに書類を出してきた。いつもの署名だ。「ショウ、あとで少しいいかしら?」なんとなく真面目な話の予感がした。「わかった。」俺は答えてからペンを走らせた。
俺だけに話があるということだったから、テイリアスたちには先に宿に戻ってもらった。アリスがさっきほかの3人に「今日の晩御飯の食材を買いに行きませんか?」と誘っていたから、おそらく買い物に行っていることだろう。俺は冒険者協会2階のいつもの部屋のソファに座りながらそんなことを考えた。「それで、話なんだけど、」その言葉を聞いて俺は前方に腰かけたクリスを見た。「今回のウォテシィの作戦、冒険者のランク制限が無いの。つまり誰でも参加できる。」「誰でも参加できるなら、難しいクエスト、ってわけじゃないのか?」俺が聞くとクリスは腕を組んだ。「そういうわけでもないの。もちろん、クエストに制限がないってことは敵が弱いからっていうことのほうが多い。でも、」「ほかの理由があることがある、と?」俺がクリスの言葉を次いで聞くと、クリスは頷いた。「えぇ、敵のレベルがどんなものか分からないときも制限がつかないの。」なるほど。「普通に考えれば、敵の占領地がイージーゲームなわけがないよな。」「そのとおりね。だから、何が出てくるかわからない。一応、魔族側にこのクエストの情報は漏れていないはずだから、奇襲は成功すると思う。」なんか、フラグな気がするんだけど。「ウォテシィが魔族に占領されてからどれくらいだ?」「大体20年よ。」「守りが固くなっている可能性は十分にあるな。」「そうね。どうなるか分からない。いい方は悪いけれど、もし素人冒険者ばかりだったら、死傷者が90%以上になるかもしれない。これは最悪のケースね。」「マリガルドを呼んだりはできないのか?」あの人が来たら全部解決だろ。「それは考えたんだけど、少し難しそうね。」クリスは少し声を低く、そして小さくして言った。「王都の人間にマリガルド様を嫌っている人間が多いの。」「嫌っている?」「少し前に全ステータス1の殺人鬼について話したわよね?」「たしかマリガルドが解決したものもあったな。」「そうなの。その時に思い出せなかったんだけど、あの当時マリガルド様は冒険者だったの。それで、誰も対応できなかったものに見事に対応した。」「そりゃあ注目されるな。」「そうね。そして報酬があったの。『王都名誉騎士』、『王都騎士団特別顧問』。」おいおい、「それって、」「えぇ、騎士団のトップオブトップね。まぁ、そんなの貴族たちが許すわけがなくて、いろいろ嫌がらせをしたようね。それで、マリガルド様は冒険者をやめて、報酬の受け取りを拒否したの。」「そんなことがあったんだな。」「えぇ、その名残のようなもので、今でもマリガルド様を嫌う貴族は一定数いるの。」「そりゃ呼べないな。」「もしバレた時にどうなるか分からんからな。」おっと聞き覚えのある声がした。「久しぶり、ショウ。」「どうやって来たんだ?」俺が聞くと声の主―マリガルド―は、ソファに座って言った。「なんか暇だったから。」「いや、エルフ族長がそんなんでいいのか?」「いいのいいの。ティアとマーレが代わりにやってくれるし。」いや、それって丸投げじゃ?「それで、マリガルドは来れないのか?」一応本人に聞いておこうと思った。「さっきのとおり、バレるとめんどくさいの。ショウたちが危なくなったら介入するけど、ほかの人たちは王都の責任だから、何もしないわ。」まぁ、ね。「王都が将来有望な冒険者たちを多く死なせたことに後悔すればいい。」言葉の重みが一気に増した。、一見無責任な発言だが、普通に考えて当たり前なことだ。自分を一方的に嫌って排除してきた集団を、わざわざ助けてやる義理も道理もない。それでも、俺たちを守ってくれるのは、おそらく俺たちがエルフの奴隷解放に協力したし、もうニルティアたちがだいぶ仲良くなっているからだろうな。よかったあの場で協力しておいて。「じゃあ、陰から見守りか?」俺が聞くとマリガルドは頷いた。「そうなるね。」「一つ聞いてもいいですか?」それまで静かに話を聞いていたクリスが口を開いた。「どうかした?」マリガルドの言葉に圧はなかった。「なぜ双剣なのでしょうか?エルフは一般的に魔法使いであるような気がするんですけど。」たしかに。「あぁ、『エルフの呪い』だね。エルフには必ず一人、魔法が苦手な子供が1人存在する。私が生まれる前にも一人いた。そしてその人が死ぬのとほぼ同時に私が生まれた。次もおそらくそうなる。」次、というのはマリガルドが死んだときだろう。「だが、魔法が苦手なエルフは、その代わりといってはなんだが、双剣の扱いが尋常ではないほど上手い。なんでこんな呪いがあるのかは分からないがな。呪いにかかった子供は外の世界に出て、双剣を極める。極めないと帰ってはいけない。私は人間年齢で10歳のころからファリスイにいた。」10歳から強制家出か。いや、もう今何歳かわかんねぇよ。「この剣は、始めていった武器屋の店主がくれたもの。まぁ、オーズブレードとは思わなくて持った瞬間に激痛だったから驚いたけどね。」マリガルドは両腰に差している剣に触れながら笑いながら言う。二本とも立派な鞘に収まっている。「とりあえず、話したかったことは話したわ。ショウ、気を付けて。」クリスは立ち上がった。「マリガルド様、お会いできて光栄でした。またお会いできることを祈っております。」「うん。元気でね。」クリスは部屋から出ていった。「宿よっていく?」俺は聞くとマリガルドは頷いた。「そうだねー。みんなの顔を見にきたし。」
マリガルドの訪問にラファエルさんは倒れかけていたけど、それ以外は大丈夫だった。




