62話 エルフの村
「エリオット!お客さんだ!」門番の人が呼ぶと、少年は振り返った。「あ!」走ってきたエリオットは、少年としては尋常ではない速度だった。「元気か?」俺が聞くとエリオットは大きく頷いた。「うん!」そして俺の後ろにいる人を見つけると、動きが止まった。「、、お母さん?」エリオットの声が震えているのがわかった。「ただいま、エリオット。遅くなってごめんなさいね。」エリザが姿勢を低くすると、エリオットはエリザに飛びついた。その行動からは、やはりまだ幼さを感じる。「お母さん!僕前に行ってた騎士団に入れたんだよ!」エリオットの声は弾んでいる。エリオットの手にはいくつもマメができていた。ちゃんと訓練しているのだろう。「あ、ショウ。来ていたのね。」練習場の入り口の扉が開いて、ティアが入って来た。「昨日仕事で王都に行ったらショウたちが来ているって聞いて探したんだけど。」あー、。「会えなかったな。」「そうね。あ、お姉ちゃんどこにいるか分かる?」テイリアスのことか。「さっきまではいたんだけど、、」俺はあたりを見渡す。「さっき1人でどこかに行っちゃったような気がしますね。」アリスが言った。振り返ると、アリスとアイシャと俺だけだった。ニルティアもどこかに行っているのか。「あ、ショウたちのおかげでエルフたちが全員帰って来たから前みたいな事件は起きないと思う。なんなら皆英雄扱いしてたから。」ティアがそういうと、「ショウ。」と後ろから声がした。エリオットだった。「ご迷惑をお掛けしました。」そう言ってエリザは頭を深く下げた。「本当にごめんなさい。」エリオットもそれにならう。まぁ、最初は死ぬかと思ったけど、「もう大丈夫ですよ。エリオット、守れるように強くなれよ。」俺はエリオットの頭に手を置いた。「もちろん。」エリオットは力強く答えた。よし。まぁ、たぶん俺より強くなっちゃうだろうけどまぁいいや。「少し打つか?」俺はエリオットの持っている剣を指さしながら言った。「いいの?」エリオットの目が輝く。まぁ、1つだけソードスキルは使うけど。
俺は剣を抜く。「凶刃の舞・酷・終の番。」うわぁ、体の魔力が剣に吸われてく。そして体に力があふれる。まぁ、そういうスキルだけど。やはり体が軽い。まぁ、今は全ステータスが106まで上昇してるからな。「すごい、、。でも、、いくよ!」エリオットが一気に距離を詰めてくる。まぁ、さすがに見える速さけど。俺はエリオットを視界にとらえて、受け流す準備をする。攻撃も単純で、俺に真正面から突っ込んで来る。ぞして、まっすぐに振り下ろされてきたエリオットの剣を右に受け流す。そしてエリオットの首から5cmほどのところで剣を止める。「取った。」俺が剣を鞘に戻しながら言うと、エリオットも剣を下した。「なんか、本当に全ステータス1なの?」「スキルで強化してるし、この剣がオーズブレードだからな。」「なるほど。」剣を鞘に戻したとたん、体の軽さが消え、代わりに魔力が戻ってきた。さすがに全部は戻ってこないけど。まぁ、俺に勝つにはクリスくらいの速さはいるだろうし、、。「あ、ショウ。族長が呼んでる。」ティアが近づきながら言った。マリガルドが?まぁ、報告しないとだから会いに行こうとは思っていたけど。「今から?」ティアは頷いた。「できれば早めがいいって言ってた。」そうかー。、、、めんどくさい、、、。「わかった。今から行く。」エリオットの目線に合わせるために膝を折る。「じゃあな。頑張れよ。」「うん!ありがと!」エリオットは笑顔で答えた。
扉をノックすると、「どうぞー。」と緩い声がした。俺がドアを開けて中に入ると、紅茶の香りが鼻腔をくすぐった。「あら、ショウ。来てくれたのね、久しぶり。どうぞ座って。」エルフ族長―マリガルドは持っていたティーカップを置いた。彼女の周りにはほんわかした雰囲気が漂っている。「成功したようね。」マリガルドの深い緑色の瞳と目が合う。なんだか、心の隅まで見られているような気分になる。「あぁ、なんとかな。全員解放できたはずだ。」マリガルドは微笑んだ。「そうね。全員無事に帰ってきたわ。でも、、。」なぜ言葉に詰まったのかは分かっている。「すべての奴隷を禁止できたわけではない。今回の奴隷法の改正、新しい立法によって、すべての奴隷を廃止しようって動きが大きくなってる。」「そうなのか?」マリガルドが明らかに興味を示している。「おそらくすべての奴隷が解放されるのは時間の問題だろうな。」これはシュリードの受け売りだ。「そうか、。よかった。」マリガルドはティーカップに手を伸ばした。「さてと、ショウはこれからどうするんだ?私の頼みごとも終わったことだし。」そうだなぁ、。「まぁ、一旦ウドルフに戻ろうかなって。」マリガルドは紅茶を飲む。「そっか。またしばらくだな。」「そうだな。」俺が席を立とうとした時、部屋の扉が勢いよく開いた。「「ショウ!」」テイリアスとティアだった。「まったく、そんなに急いで何があったの?」マリガルドが一瞬ティーカップを落としそうになっていた。でもすぐに平静を装った。「ショウ、今ウドルフがどうなってるか知ってる?」テイリアスが聞いてきた。「どういうことだ?」全く知らないけど。「スルアッジの二の舞いになるかもしれない。」ティアのその言葉だけで俺は理解できた。気づくと席を立ち、剣を腰にさしていた。「戻るぞ。」俺が言うとティアとテイリアスは頷いた。「もちろん準備はできてるよ。」部屋の入り口からニルティアとアリス、アイシャが入ってきた。準備が早い仲間で助かる。「マリガルド、悪いが予定が早まった。」「エルフの民を救った英雄に手を貸さない族長はいない。私も向かう。」マリガルドが立ち上がると、俺より背は低いが、存在感は俺の比ではない。「助かる。」テイリアスの魔方陣が足元に展開された。
スルアッジ崩壊侵攻の二の舞になる、、。そう言われたウドルフの現状とは、、、。次の話もお楽しみに!