60話 西の奴隷商
「着いたな、、、」俺は足を止めた。「まだ解放はされてないはず、、、まぁ、まだあと半日はあるけど、、。」東の奴隷商から西の奴隷商まで来るのに思ったより時間がかかった。テイリアスがいれば一瞬なんだろうけど、みんなを故郷に送りに行っちゃったまま帰ってこないからなぁ、。そりゃ10人くらいいたからすぐに帰ってくるなんて期待してはないけど。「どーする?今日は帰るか?」俺が言うとシュリードは首を横に振った。「夜中に解放する可能性もあるからまだ帰れない。」まぁ、そうだよな。「あ、ショウさん。」アリスに背中を突かれる。「どうした?」振り向きながら聞く。「いえ、大したことではないんですけど、建物の中で少し明かりが揺らいだのが見えたので。」なるほどね。「なら、人はいるってことだね。」シュリードが腕を組む。たぶんシュリードは腕を組むのが癖だな。「何だとてめぇ!!」いきなり建物の中から怒号が聞こえてきた。「シュリード。」俺はとっさに声をかけるとほぼ同時に剣の柄に手をかけた。次の瞬間、扉が文字通り吹っ飛んだ。おー、なんか漫画みたいだな。ちょっと扉の挙動が面白かった。「言うこと聞けよ!!」あ、扉と一緒に男が1人出てきていた。男はしりもちをつき、建物の中を見ながら言った。「はぁ?あんな法律に従うってバカじゃねぇのか?」建物からもう1人の気配がした。出てくる、、。俺は男たちの死角になるように隠れた。「早く開放しないと第一師団が来ちまうよ。」「そうだが、、。あのエルフだけでも売り飛ばせそうなんだよ。」男は白い歯を見せた。「あれか?」もう一人の表情が焦りから変わった。「あぁ。お前気づいてるか?今回できた法律は奴隷商への奴隷の開放。」シュリードが隣で舌打ちした。地面に座っている男は何かに気づいたようで、指を鳴らした。「つまり、奴隷を買った奴への開放ではない。」「そのとおりだ。もう新しい奴隷が期待出来ないなら、もう今買うしかねぇだろ?」男が立ち上がった。「そろそろ取引相手が来るはずなんだがな、。」シュリードが立ち上がった。「おい、、。」俺の呼び止める声も虚しく空間に散っていった。「おい。」シュリードの低い声が響いた。あーあ、。「あ?なんだてめぇ。」男がシュリードに寄っていく。「、あ、、あ、、。」さっき尻餅をついていた男は気づいたらしい。声が出ていない。「何とか言えよ!」男が手を振り上げた。一瞬。男は腹を抑えて地面に倒れ、呻いている。何があったのか見えなかった。「腹に3発、右足首を払った。」気づくと背後にテイリアスが立っていた。「あ、おかえり。」ちょっと不自然な声になったけどまぁいいや。「うん。ただいま。」「見えたのか?」俺が聞くとテイリアスは頷いた。「見えたね。でも、みようと思ってなければ見えなかったと思う。前より速かった。」テイリアスは口元に手を充てた。「前も相当速かったけどな。」テイリアスのつぶやきを俺は聞き逃さなかった。「あぁ、、、。」男がまだ呻いている。いや、ほんとに痛そう。シュリードの目線が移動した。「すみません!兄は馬鹿なんです!今すぐに全員開放しますからどうか連行だけはやめてください!お願いします、、、。」へぇ、兄弟だったのか。「通常、騎士団のものに対する暴力行為は重大な罪だ。それは知っているな?」シュリードの声は重く、冷たい。「、はい、、。」地面に額を押し当てたまま男は答えた。「そして近衛兵のものに対してとなればさらに重くなる。最高刑で斬首だ。なんならこの場で処すことも許されている。」「、、存じ上げております、、。」男はまだ顔を上げていない。「そうか。」短い、たった三文字の言葉で男は、この先の兄の運命を悟ったようだった。シュリードが剣を抜いた。「待ってください!」後ろにいたアリスが飛び出していった。シュリードの動きが止まる。「どうした?」やーば、まだ声が重いし冷たい。アリスはその声に一瞬たじろいだが、退くことはなかった。「まずは奴隷になっている人たちを助けませんか?そのお兄さんの刑罰は解放が終わってからゆっくり決めましょう。」「ならそちらでやっておいてくれ。」シュリードはアリスの言葉にそう返すと、剣先をうずくまる兄に向けた。くっそ。「シュリードさん!怒りに任せて何かをして、この場ではよくても後々後悔しますよ!それに、」アリスの声が静かになった。「その人があなたのお姉さんの仇ではないでしょう?」シュリードの肩がピクリと跳ねて、動きが止まった。どういうことだ?シュリードの姉?「シュリードさん、、。」アリスが名前を読んでから数秒立つと、シュリードは剣を鞘に戻した。「見苦しいところを見せた。」あ、いつもの声に戻った。「おい、奴隷たちを解放しろ。」俺が少しにらみながら言うと、怯えながら「は、はい!」と言って建物の中に入っていった。いや、今あなたを脅したのは全ステータス1の化け物、逆の意味の化け物ですけどね。とゆうか、「なぁ、アリス。さっきのってどういう意味だったんだ?」俺のはシュリードに聞こえないように小さな声でアリスに聞いた。「あ、ショウさんは聞いていないんですね。」アリスは魔方陣を開き、それに手を突っ込んだ。「たしか、ここに入れた気がするんですけど、、。」なんか、どっかで見た光景だな。なんかロボットがダメダメの主人公をポケットから出した道具で助けてあげるっていうような、、。まぁ、やめとこ、いろいろダメなラインに触れてしまう気がする。「あ、ありました。」何やらメモのようなものが出てきた。「こっちに来る前にクリスさんからどんな人かメモをもらっていたんです。」アリスは俺のほうにメモを見せてくる。うわぁ、小さな文字がびっしり。前世で左右の視力が合わせても0.1無かった俺には難しいかも。「まぁ、いろいろ書いてあったんですけど結局要約すると、」アリスがメモを折りたたみながら言った。要約してくれるの? マジで助かる。「シュリードさん、昔お姉さんが奴隷商に連れ去られているんです。」は?「え、それって人間の奴隷ってことか?」アリスは頷いた。「はい。今人間の奴隷だけは法律で禁止されています。、、人間以外の他種族は許可されちゃってるってことにもなりますけど。ですが、」アリスは続けた。「シュリードさんがまだ子供の頃は、人類奴隷禁止令もありませんでした。」まさか、。「人さらい?」ちょっと意味は違うかもしれないけど、。「そうですね。その表現も正しいかもしれません。」「それで、シュリードのお姉さんはどうなったんだ?」「5日後に空き家の中で遺体になって見つかりました。」、、、そうか。「それでシュリードは奴隷商を殺そうとしたのか。」「おそらく。なんとか止められて良かったです。クリスさんに感謝ですね。」全くだ。「お待たせいたしました!」建物から男が出てくる。後ろから数人の気配がしている。「これで全員か?」シュリードの鋭い視線が男に突き刺さる。「も、もちろんでございます!」男は声を震わせてこたえた。あれ?エルフがいない。全員獣人族だな。「おい。」あ、結構低い声が出た。「は、はいっ!」男の声が裏返った。「お前、エルフはどうした?」俺は剣の柄に手をかける。もちろん、抜く気はないけど。「ひっ、エ、エルフですか?私の扱っていたのは全員獣人族でして、、、。」見え透いた嘘だな。「今すぐに白状すれば斬らないが?お前はどうする?首と胴体のさようならが良いのなら、」少し剣を抜き、刀身を見せる。カチン、と甲高い金属音が響いた。「ひっ、、、。」男は建物の中に入っていった。そしてすぐに1人エルフが出てきた。やっぱりいたんだな。俺は出てきたエルフに近づく。「疲れているところ申し訳ないが、エリオットと約束してるんだ。」エリオット、と聞いた瞬間そのエルフは顔を上げた。「エリオット?」発された声は震えていたが、希望に満ちていた。「エリザで合ってるか?」俺の言葉にエルフ―エリザは首を縦に振った。「エリオットは、良い息子だな。母思いだ。」、、大学生が言うような台詞じゃ無いけど。「それじゃあ、すぐに帰ろうか。」テイリアスが俺の隣に出てくる。「あなた、、ハーフ?」エリザがテイリアスを見る。「えぇ、魔族とエルフよ。」「あら、そうなのね。私はエルフと竜人族のハーフなの。」エリザは驚いたような顔をして言った。「あ、そうなの?」テイリアスも驚いたようだ。
それから、エリザとテイリアスはずっと話していた。仲良くなったみたいで良かった。獣人族の人たちは近衛兵団が保護したから、明日エルフ村にエリザを送りに行く。なんか、いつの間にか男が消えてたけど、まぁいっか。
祝60話投稿!!いやぁ、文量多いっすね。あ、この話はスマホ(ウェブ)で書いてます。書式とか問題や違和感があれば教えてください!では次の話で!!