51話 別れの挨拶
窓から差し込んできた光で目が覚めた。まぁ、どちらかと言うといい目覚めだな。そう思いながら体にかかっている毛布をつかみ、ベッドの横に置いた。今日エルフの族長と面会をして帰る予定だ。窓の外を見ながら俺は身支度をしていた。だんだん人の通りが多くなっていくところをボーっと見ているのも案外楽しい。あれ以来ここより深くの方にはいかないようにしている。何があるか分からないしマーレたちに行くなって言われてしまったからな。まぁ行く気もないけど。もう刺されるのは嫌だからな。「ショウさーん?起きてますかー?」アリスの声が聞こえてきた。「起きてるよ。」少し声を張って答える。「そろそろ行きます?」ドアのところまできているようだ。「あぁ、もう行けるけど、みんなの準備は?」まだ朝も早いし終わってないんじゃないか?「え?ショウさん、今何時だと思っています?」いつの間にか部屋に入ってきていたアリスが驚いた様子をした。「え?6時とかじゃないの?」外の明るさ的にまだ暗いから。「何言ってるんですか?もう8時ですよ?」、、。「へ?でもまだ外は暗いぞ?」「木の陰になっているだけですよ。早く行きますよ。」アリスはそういうと部屋から出て行ってしまった。あ、あれは怒っているな。まぁ、これは俺が悪い。ごめん、アリス。
「本当に申し訳ない。」俺は宿のドアの前で4人に頭を下げた。「ショウが遅刻って珍しいこともあるんだね。」ニルティアが興味深そうに俺を見ている。いや、そんな目で見ないでくれ。なんだか虚しくなってしまう。アイシャ、無言の圧やめて。押しつぶされそう。「それじゃあ、みんな揃ったし行く?」テイリアスがドアノブに手をかけた。「まぁ、そうですね。ここでショウさんを責めても何もないですし。」何かあったらやるのかよ。ほんとに恐ろしいな。「よし、じゃあ。」テイリアスがドアを開けて押した。「行こうか。」
族長、その言葉を一度聞くだけだと威厳という言葉を具現化したような人をイメージするだろう。俺もさっきまでそうだった。今自分の前に座っている”ティーカップを優雅に口に運んで何かを飲んでいるエルフ”を見るまでは。威厳というより優雅という言葉の方が似合うなと思う。「あのー、。」アリスが少し気まずそうに言った。「あ、ごめんなさいね。つい。何の話だったかしら?とゆうか自己紹介もしていなかったわね。私はエルフ族長ユーアス・マリガルド・ファニッシアよ。」ティーカップを置いて俺たちの方を見た2つの深い緑色の瞳は、族長とは思えない若さを俺たちに想起させた。まぁ、見た目の年齢が20歳で止まることはもう知ってるからそこまで驚かないけど。マーレに教えてもらえなかったら今でも混乱していただろう。それにティアは24歳だったし、テイリアスは26と、、。2人とも俺より年下なんじゃ?「えっと、今日の夕方にはウドルフに戻ろうと思っているのでそのご挨拶に、、。」アリスの後を継いで俺が言葉を紡ぐ。「あら、そうなのね。ご客人だったのにいろいろな面倒ごとに巻き込んでしまったようで、本当になんとお礼を言えばよいか。」「いえ、お礼を言うようなことは何もしていませんから。」アイシャが珍しく長文を発した。「あ、ならいつでもここに来ていいっていう許可をもらいたい!」ニルティアが手を挙げながら言った。「あら、そんなことでいいの?でも、ショウさんは襲われたのよね?中々来ようとは思えないのではないかしら?」まぁ、たしかにもう刺されたくはないけど。でも、「いえ、また来たいと思っていますよ。」これは本心だ。それにここで断るわけにはいかないな。だって、俺の言葉を待っていたニルティアが本当に不安そうな顔をしていたからな。「そうか、では来るときには最大限のもてなしをさせてもらおう。」「ありがつございます。」「あぁ、ショウさん。」「はい?」突然名前を呼ばれて驚いた。「後で少しいいかしら?」え?「え、あ、はい。大丈夫です。」「ありがとう。」何かあったかな。
「それじゃあ私たちは先に戻って帰る準備をしておきますね。」アリスたちはそう言い残してテイリアスの空間魔法でどこかへ行ってしまった。「さて、ショウ、といったな。」「はい。」なんだ?言葉が急に重みを含み始めた。「ショウは人類とエルフの関係をどのようにとらえている?」、どういう意味だ?とまず思った。言葉の意味が分からなかったわけではない。こんなことをわざわざ聞くなら今俺の持っている常識が間違った常識であるといいたいのだろう。正直俺もあれがあってから少し違和感はあった。「人類とエルフは同盟状態にある。」マリガルドの顔に少し諦めの色が見えた、「ですが。」俺がそう続けた瞬間、マリガルドからさっき感じた諦めが消えた。「それは表だと思います。裏では人類側はエルフをそこまで大切な同盟相手とは思っていない。」「ほう?なぜそう思った?」「もしも本当に思っているのなら、エルフの奴隷をあそこまで易々見逃さないと感じました。」「忙しすぎて手が回っていないわけではなく?」「たしかに、最近はグロメントへの対応があったりしたので忙しくないといえば噓になるでしょうが、それでも少しは余裕を感じます。」「そうか。」マリガルドはティーカップを口に運んだ。「ショウは私の見込んだ通りの人類だったね。」言葉の圧がまた消えた。なるほど、コントロールできるわけか。「ショウ、全面的に協力しよう。その代わりに、今王都でとらえられている奴隷エルフを全員開放してほしい。これが本題よ。」マリガルドから圧は感じない。どちらかと言うと優しいオーラを感じる。だが、「、俺は一冒険者です。」ただの冒険者。何か特別な力があるわけでもない。なんならまだ全ステータス1のままだ。こんな俺に何かできることがあるとは思えない。「そうだよね。分かってはいたy」「ですが。」諦めて引き下がろうとしたマリガルドの言葉を遮る。「任せてください、とすぐに言えるわけではない、というだけです。俺は王族でもなければ何か特別な力があるわけでもありません。それでも、ついてきてくれる仲間はいます。いつも礼儀正しくて周囲への気配りを忘れない魔法使いと、素っ気ないけど本心ではいつもパーティーメンバーを心配している魔法使い。それにとにかく明るく周りを元気づけてくれる前衛、自分の信念を貫いて命を危険に冒してまでついてきてくれた最強格のエルフの魔法使い。」俺はマリガルドの目を見る。「こんなに頼もしい仲間は他に知りません。」
書ききりましたー。また読んでくださいねー。最後の一段落は全力で書き上げました。注目してもらえるとありがたいです。では次の話で!!