29話 さてと、情報を聞こうかな
連れて行くのがめんどくさかったからアイシャに1発腹にお見舞いしてもらい、静かにしてもらった、のだが、一向に目を覚まさない。「それで?まだ目を覚まさないんだけど。間違えて殺したの?」クリスが椅子に縛り付けた男を見ながら言う。殺すわけないでしょうがっ!!「いえ、殺してはいないはずです。私が魔法の威力を調整したので。」ナイスフォロー。「あ、アイシャちゃんなら安心だねー、気長に待つかなぁ。」アイシャちゃん”なら”ってなんだよ。俺だと不安なのか?アリスがそっと寄って来た。「ショウさん、こいつ、一瞬瞼が動きました。起きているはずです。」耳打ちされた。へぇ、、盗み聞きかぁ、悪い趣味してんなぁ。俺は男へ視線を向ける。右に首を曲げ、まだ気絶していますよ感を出しているな。「さてと、起きないようだし私は受付に戻ろうかな。」クリスは踵を返そうとするが、その動きはいつもよりだいぶ遅い。クリスもこいつが目を覚ましていることに気づいているのだろう。「ふぁ~。」ニルティアがあくびをしながら背伸びをしている。そして俺とクリスとアイシャが男から目を離した瞬間、やはりそいつは俺に跳びかかってきた。「読めてるんだよ!」俺は振り向きながら剣を抜いた。ギィィィン、と金属のこすれる音がする。こいつ、短剣を隠し持っていやがった。くっそ。さっきしっかりチェックしたはずなのにな。男は部屋の隅に跳び下がった。「まったく、めんどくさいやつを連れてきてくれたね。」クリスも短剣を抜いた。アイシャも魔方陣を展開している。「そう簡単に逃げられると思うなよ?」クリスが一瞬で男の背後に回り、手首を短剣の柄で叩き、男の短剣を落とす。「うるさい!静かにしてよ!」昼寝をしようと壁にもたれていたはずのニルティアがいつの間にか出てきて、男の急所を蹴った。、、、どこを蹴ったかはご想像にお任せします、、、。「あ、、あぁ、、、うぅ、、。」とりあえず男はうずくまってうめき声をあげている。あぁ、可哀想に。俺でもあれは無理かな。あの物理攻撃だけは男性は耐えられないと思う。「ふぅ、静かになった。」女子、恐るべし。「さてと、知ってる情報全部話してもらおうか。」クリスが男の胸倉を掴んで睨みつける。「教えてたまるかよ。」男はそっぽを向いた。「ふーん、残念だなぁ、。」そういうとクリスは俺たちを見て、「ショウたちは先に帰っておきな。ここからは冒険者協会の人間に任せて。何かわかったらまた言うから。」と言われた。「ショウさん、帰りましょう。」アリスがそそくさと部屋を出ていった。何をそんなに急いでいるんだ?まぁ、ここで反抗する意味もないから、俺たちも出ようかな。俺はアイシャとニルティアに目配せして、「出ようか。」とアイコンタクトを取った。2人とも頷いて部屋から出ていく。「じゃあ、クリスさん。後は頼みますね。」「あぁ、任せておきな。」胸倉をつかんだままクリスは答えた。俺が部屋を出て少し歩いた時、男の悲鳴とも言えない叫び声が聞こえてきた。その瞬間俺は気づいた。そうか、尋問と拷問か。それをアリスやアイシャ、ニルティアに見せないように先に帰っておけ、と言ったのか。まぁ、ちょっとこれは想像したくないな。俺は急いで階段を降りていき、アイシャたちと合流した。
冒険者協会から出た。「ショウ、ベクチズ15本、忘れてないよね?」「もちろん。食い行くか。」正直俺は食う気になれないけど。だってさ、あんな声を聞いて、想像しちゃったら食えないだろ。俺が浮かない顔をしていたのだろう。ニルティアが隣に来て、背伸びし、俺の頭を撫で始めた。「何してんだ?」「何か元気なさそうだったから。私の故郷ではこうやって大人も子供も慰めてた。」なるほどな。ニルティアなりの優しさ、か。「ありがと。でももう大丈夫だ。」「ほんとに?」「あぁ。」「ならいいけど。」ニルティアの手が離れた。「ショウ、あいつのことは今は忘れて。」アイシャにも言われた。「あぁ、分かってる。」「ショウさんは考えすぎなんですよ。そりゃあ、私も初めて見たときは吐き気がしましたけど、悪いことをした人があのようなことをされるのは当然のことです。そんなに考えるようなことではありません。私はそう思ってなんとかスルー出来るようになりました。」なるほどね。「ありがと。」「いえいえ、私の場合の話なのであまり信じなくてもいいですよ。」「いや、、。」少なくとも3人のおかげでだいぶ気が楽になった。「もう大丈夫だ。ベクチズ食いに行こうか。」「ショウ、財布の用意はしといてね。」こっわ。どれだけ食うつもりだよ。さすがに上限は考えてくれよ?こんなことで破産するなんて嫌だぜ?俺たちは他愛もない話をしながらベクチズの店まで向かい、大量のベクチズをアイシャが平らげた。ニルティアは最初、少し遠慮していたが、最後のほうはガツガツ食べていた。これは、まずいぞ。「お会計、6100ゼニーになります。」マジかよ。俺ほぼ食ってないのにこの値段?マジ?前回来た時の倍以上じゃねぇの?前はそんなにきつくなかったけど、てゆうかマドリフさんにおごってもらったし、、、。俺の財布から多くの金が消失してしまった。またゴブリン狩りまくって稼ぐしかないのか?俺は店から出て、少し寂しくなった財布を見ていた。「ショウ、ごちそうさま。ありがと。」え?気のせいかな。アイシャが今礼を言った気がしたんだけど。「ショウさん、ごちそうさまでした。」アリスにも言われる。いや、アリスはいつでも礼儀正しいからいうだろうけど。「ショウ、ありがと。」ニルティアにも言われた。なんか、いい気分になって来た。俺はルンルンな気分で宿に戻った。
なんだか少し穏やかなお話になった気がしますね。まぁ、これからどうなるかはまた楽しみにしていただければな、と思います。最初はゴブリンに苦戦していたショウがだんだん成長していることを読みながら感じていただければ幸いです。では次の話で!!