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96話 茂みの先に

 「ショウ、どうする?」


失神した男を見つめながらニルティアが言った。


どうする、か。


いや、ここで


「怖いから先を急ぐ。」


なんて言えないでしょ。


目の前に一応助けを求めてきた人がいるんだから。


さっき強奪しようとしてきたけど。


「行ってみよう。」


[わかった。]


ニルティアより先にファニアが反応した。


失神している男は道端の木の下に寝かせて置いた。


もちろんファニアが持っていた縄で縛っている。

 


 「なんか、こんなに鬱蒼としてるんだね。

外から見てるだけじゃわかんなかった。」


ニルティアのつぶやきに激しく同意したい。


外からだとあまり深くないように思ったが、

これはまずい。


少しでも方向感覚が狂うと詰みだ。


「ファニア、来た道を覚えているか?」


俺の問いかけにファニアが頷いた。


[そういうと思ってちゃんと覚えてる。]


さすがです。


「さて、と。なんだか開けてきたな。」


文字通り周りの草木が少なくなった。


「、止まって。」


ニルティアの声がしたのと俺の察知が先か。


俺は剣を抜いて横に薙いだ。


「おっと、さっきのやつとは少しタイプが違うのが来たな。」


男の声。


俺の目から20cmくらいのところで男の持っている大きな剣が()()()()()()()()()()()止められている。


俺の剣は男のわき腹を刺していた。


[とっさに相打ちを狙いにいかないで。死なれたら困るんだから。]


ファニアはそう言っ氷剣を持っている右手とは逆の左手から超至近距離でアロズンを放った。


男は後ろに跳びながら大剣を噛んでいるアロズンの竜を払った。


「くそが、魔法も使えるのかよ。」


[お褒めに預かり光栄です。]


ファニアが間髪入れずに返した。


まぁ、もう勝負はついている。


「力はあるようだが、頭はないようだな。」


俺の言葉に男はかみついた。


「なんだと!?」


「ありがとニルティア。」


男の背後にはナイフを構えているニルティアがいる。


「この、、!」


男が振り向こうとした瞬間、

ニルティアは伏せるような低さまで腰を下げて、

男の足を払った。


「どわっ。」


なんだか少し可愛げな声を出しながら男はその場に倒れこんだ。


ファニアがすかさず縄で縛りあげる。


「さて、と。お前か?盗賊の腕ぶっ飛ばしたのは。」


俺が聞くと男は


「なんのことだ?」


と言う。


まぁ、そりゃどんな世界でも悪いことしたやつは


「はい自分がやりました。」


なんて簡単には言わないだよな。


証拠がないから。


まぁ、今俺は証拠を持ってはいないんですが。


「ショウ、そいつじゃないかも。」


ニルティアの言葉に俺は顔を上げた。


「どうかしたのか?」


ニルティアの視線の先には男の持っていた大剣がある。


「血がついていない。」


たしかに。


拭った可能性が無きにしもあらずだが、

この短時間でそんなことができるとは考えにくい。


つまり。


[ショウ跳んで!]


ファニアの声を聞いた瞬間体が勝手に動いた。


自分が殴り飛ばされたのだと気づいたのときにはもうすぐそこに大きな木の幹が待ち構えていた。


グ、、。


「ショウ!」


ニルティアの声が割と遠くで聞こえる。


何が来た?


[ショウ大丈夫?]


ファニアの声が脳内に響いた。


俺は体を起こして大丈夫だとアピールする。


まぁ、声が出しにくいんですけど。


背中がズキズキ言っている。


さて、と。


俺は目の前にいる化け物に焦点を合わせる。


オーガ、ってわけではないな。


『人間もどき』


といった方が正しい気がする。


人間の体をしているがその大きさが人外だ。


腕だけで俺の背丈はありそうだ。


正直、あの腕を振り下ろされていたら即死だっただろう。


そう考えれば()()幸運だったというべきかもしれない。


「グァァァァァァ、、。」


なんか言ってんだろうけど理解ができない。


なんて言ってんだ?


俺の前に仁王立ちしているこいつは、

何か伝えようとしているのか?


「ショウ!」


視界の端にニルティアが一瞬見えた。


いや待て、まだ敵対されてると決まったわけじゃ、。


いや。


殴り飛ばされた時点で敵対と考えてもいいのかもしれないけど。


「待て、!」


なんとか絞り出した俺の声は、

ちゃんとニルティアの耳に届いた。


「え?」


ニルティアが地面に着地したのが見えた。


持っているナイフに血らしきものはついていない。


「どういうこと?」


ニルティアが駆け寄ってきた。


ニルティアが俺の前に来たが、

この化け物は動こうとしない。


[たぶん、あれが理由だろうね。]


ファニアの声。


背中の痛みが割と治まった俺はニルティアの手を借りて立ち上がった。


「なんだ?」


仁王立ちしたままの化け物は俺と目を合わせた。


やはり威圧感がある、、、。


ここで目をそらすわけにはいかない。


化け物、とは言ったがとてもきれいな目をしている。


まるで人間のようだ。


「ガウゥゥゥ、、。」


なんて言ったのかは分からなかったが、

化け物はそう唸った後俺の前から離れていった。


いや、背中痛かったんですけど?


化け物が動いたことによってファニアが奥の方に見えた。


そして、ファニアの足元には、、少女が寝ていた。




 化け物はファニアが少女の横に座ったのを見ると一瞬だけ威圧感を発したが、

ファニアが敵意や殺意を全く発さなかったから、

すぐに威圧感は消えた。


そして少女を挟んでファニアの隣に座った。


[ショウ、たぶんここは巨人族集落だよ。]


ファニアの言葉に俺は腰が抜けるかと思った。


巨人?


俺が知っている巨人と言えば、

人を食ったりいろいろなものを壊したり、

そんなどちらかというとマイナスなイメージしかない。


[周りからたくさんの魔力を感じるでしょ?]


ファニアの声を聴い俺は落ち着いて目を閉じる。


、、本当だ。


正直囲まれている。


「ッ、。」


少女の瞼が少し動いた。


[目を覚ますね。]


ファニアがそう言ったとき、少女の瞼が上がった。


そして、、


「スンドロヘンダニャ!」


と意味の分からない言葉を言われた。


俺の頭は『?』で埋め尽くされている。


「ショウ、理解できた?」


ニルティアが聞いてきたがから俺は首を横に振った。


「だよねー。ファニアは分かるの?」


[さすがに巨人族の言葉は分からない。なんか単語が覚えられなかったから。]


うん、学生の英語のテスト前の言い訳かっ。


勝手に突っ込みを入れつつ、俺は少女の方を見る。


うん。めっちゃ警戒されてる。


そんな身構えなくていいじゃん。


俺は自分の剣を鞘に戻し、

敵意がないことを示す。


「スンドロノルトアール?」


少女がまた何か言った。


うん、だからわかんないんだって。


「ガウン。」


さっき俺を殴り飛ばした奴が少女に向かって反応した。


やばい。


なんて言ってるのか全く分からない。


[うーん、意思の疎通は難しいかもね。]


ファニアが立ち上がった。


「たしかにそうかも。」


ニルティアも立ち上がった。


俺もそれを見てゆっくり立ち上がる。


少しだけまだ背中が痛い。


「ゆっくり道に戻ろう。」


俺は来た道を見て足を進める。


後ろの方からニルティアたちの足音が聞こえている。


巨人たちが追ってきたらどうしようかなと思ったが、追ってくることはなく、

杞憂に終わったからよかった。




 [こんなところに集落があるとは思わなかった。]


「巨人族って確か、

集落というか生活する場所を定期的に変える人たちだから、

たぶんファリスイから戻ってくるときにはもういないと思うよ。」


ニルティアがファニアの言葉に反応した。


[なるほどね。まぁ、あの巨人たちがずっと一緒のところにいると、

いろいろと大変そうだね。]


たしかにそうだな。


あの巨体だから相当の食糧を必要とするはず。


ならずっと同じ場所にいるとその場所の生態系を崩すことになる。


、、巨人たちがそこまで考えているのかわからないが、

そこまで考えているのだとすれば、

言語は通じないけどそれなりの知能を感じる。


「ショウ?どうしたの?」


気づくとニルティアが俺の顔を覗き込んできていた。


「いや、大丈夫だ。」


俺が答えるとニルティアは


「そっか。」


といって前の方に向き直った。


[にしても、わりと王都から近いところにいるんだね。]


ファニアが言った。


たしかに。


「まだ王都を出てから半日と少ししか経っていないな。」


俺が言うとニルティアが振り返った。


「そうだねー。なんだかもう1日くらいたったような疲労感だけど。」


激しく同意したい。


なんだかよくわからないけどものすごく疲れた。


なんだろうこれ。


[ショウ、そろそろ日が暮れるよ。]


ファニアが言った。


たしかに周りが暗くなってきた。


「今日はここらへんで夜を過ごすか。」


[分かった。]


それから三人で別れて軽く木の枝を切ったりして支柱を立て、

ファニアの異空間収納から取り出した大きな布を天幕として簡易的だがテントを立てた。




 「初心者にしてはきれいなテントだよねー。

支柱がしっかりしてるからかなー。」


ニルティアが言った。


[ニルティアが斬る枝を選んでたよね、それって自画自賛じゃ、、]


ファニアが苦笑いした。


「まぁいいじゃん。自己肯定感高いのはいいことだよ。ね?ショウ?」


まぁ、特に否定する理由も思いつかなかったので俺は首を縦に振った。


「まぁ、そうだな。」


「ほらー、ショウもあー言ってる。」


ニルティアが得意げに言った。


[全く、調子がいいんだから。楽しいからいいけど。]


ファニアは手に近くの小川で獲った魚を持っている。


どうやって獲ったか。


川の水の一部を一時的に凍らせたのだ。


そしてその凍った部分を取り出して砕き、

中に入っていた魚を取り出して捕獲成功、

という感じだ。


まぁ、なんといえばいいのか分からないが、

凍らせ漁、とでも言っておこう。


ファニアが外へ出たのについていくようにニルティアと俺もテントの外に出た。


[ニルティア、火を起こせる?]


「任せて。」


いつものようにニルティアが火をおこす。


火をお起こす魔法はどうやら初歩的な魔法のようで、

()()()()なら簡単に火を起こせるらしい。


俺のパーティーメンバーを考えてみよう。


人類最弱と氷剣使い、


つまり氷魔法の対象の存在ともいえる火、


または炎魔法とは無縁の人、


そして元暗殺者。


うん、俺のパーティーには普通の人はいないな。


そう自己完結したところでファニアが魚に氷の串をさした。 


氷の串だと溶けるだろうと思うかもしれないが、

この氷はファニアの意思でしか破壊行為が出来ない、

なんとも便利なものなのである。


まぁ、それを知ったのは今日の明朝、


ご飯の相談をしている時だったが。


もちろん、さっきの凍らせ漁もそのときにファニアに教えてもらったものである。


「ショウ?どうしたの?


なんか今日ぼーっとしてるけど。」


ニルティアが再び俺の顔を覗き込んでいた。


「いや、考えてみれば俺のパーティーメンバーって異色だなぁーって。」


異色、という言葉には語弊があるかもしれない、

と思ったのはその言葉を口に出した後だった。


幸い、ファニアとニルティアには意図していない意味では取られずに済んだ。


よかった。


[まぁ、竜人族と獣人族と人類っていう、対立してる種族同士だからね。]


「でももうそれも過去の話でしょ?」


ニルティアが焼けている魚に手を伸ばしながら言った。


[待ってニルティア。まだ焼けきれてない。]


ファニアがニルティアの手をはたいた。


「えー、お腹すいたー。」


ニルティアが頬を膨らませて不満を表現する。


[あとちょっと待って。]


ファニアの言葉にニルティアは頬を膨らませたまま頷いた。


[話戻すけど、たしかにもう対立はしてないね。

最近人類とエルフ族が協定を結んだって噂を聞いた時には信じられなかったけど、

ショウたちとエルフの人たちの会話とか聞いてると、

ほんとに仲がいいんだろうなって思った。]


「仲が悪かったらパーティーなんて組めなかっただろうねー。」


ニルティアの声には少しさびしさが含まれているような気がしたのは俺の気のせいだろうか。


[はい、ショウ。]


ファニアの方を見るといい色に焼けた魚を貫いている氷の串を持ってそれを俺に差し出していた。


「ありがと。」


礼を言ってファニアからもらった焼き魚を食べながら、

俺たちは明日からの予定についてゆっくり話した。




 「じゃあ、寝よっか。」


とニルティアが言って就寝してから何時間経っただろうか。


さすがに全員寝ると夜襲に来た敵に反応出来ないから、

代わる代わるで見張りをしようということにこのパーティーを組んだ当初に決めた。


最初にこれを提案したのはアイシャだったっけな。


、、懐かしいな。


俺はテントの外に座り空を見た。


きれいな星々が空に浮かんでいる。


黒く何もない世界に美しさを足している。


昔祖母が


『亡くなった人はお星さまになるんだよ。』と、


何回も言っていたのを思い出した。


もしそうなら、テイリアスたちもこの空にいるのだろうか。


[ショウ、交代だよ。]


背後から声がした。


振り返ると目をこすっているファニアがいた。


「眠そうだな。」


[たった今何とか起きたからね。]


「寝ててもいいんだぞ?」


俺が言うとファニアは首を横に振った。


[ショウも寝ないと。パーティーのリーダーを寝かせないパーティーとか、

鬼畜すぎるでしょ。]


苦笑いするファニアを見ると、

なんだか俺も口角が上がった。


全く意識はしていなかったが。


[星を見てたの?]


ファニアの言葉を聞いて、

その通りだった俺は首を縦に振ってまた空を見上げた。


[きれいだね。]


ファニアが空を見ながら言った。


「そうだな。」


俺は短く答えた。


しばらく沈黙が続き、先に口を開いたのはファニアだった。[ショウは、昔のパーティーと今のパーティー、どっちがいい?]俺はその質問を聞いた瞬間軽く頭がフリーズした。比べようがないから。そりゃあ、テイリアスたちがいた昔も十分楽しかった。けど。[ごめん。いじわるしたね。]「いや、大丈夫だ。、、、決められないな。」[そっか。]「あぁ。、、昔のパーティーにも今のパーティーにもそれぞれにいいところがあるし、好きなところがある。だから、比べようがないな。どちらも俺にとっては最高のパーティーだ。」[最高、って一つだけのものに使う言葉じゃない?]ファニアが少し笑った。「まぁ、俺にとってはどちらも同じくらい大切ってことだ。今はもう形として残ってはないけど、それでも俺とニルティア、その他にもたしかにそのパーティーが存在したことを覚えている人はいる。忘れない限り、その人の記憶の中で生き続けることができるんだよ。」[ショウって割とロマンチストだね。]「そうかもしれないな。」[うん。、、でも、。]ファニアはそこで言葉を切った。「どうかしたか?」俺が聞くとファニアは空から視線を下した。[ショウ、昔のパーティーを思い出すときはいつもより楽しそうだから、ちょっと嫉妬しちゃうよね。]「え?」[なんでもない。忘れて。]ファニアはそういうとまた空を眺めだした。[綺麗、、。ほら、早く寝てください?リーダーさん。]まぁ、さすがにもう眠たいし、寝るか。「わかった。それじゃあ、何かあったら呼んでくれ。」[わかった。]「あぁ。」俺はテントの中に戻ってそのまま寝た。


 行っちゃったし言っちゃった、、。はぁ、なんで言ったんだろ。言わないって決めてたのに。でもいったことは事実。ショウは昔のパーティーを思い出すときは私たちといる今よりも楽しそう。なんだかそれを見るたびに心が締め付けられる。、、はぁ。気まずくなって追い払うような形になってしまったのも最悪。なにしてるんだろ。でも、本当に星空は綺麗。昔のパーティーといたときもこうやって野宿のときは星を見てたのかな。、、また心が痛くなる、、。考えないようにしよ。私といてもそんなに楽しくないのかな、。まぁ、普通に話すことは出来ないから、意思の疎通とかは普通とは違うし、まず人種が違う。昔のパーティーに魔族と人類のハーフがいたっていうのはニルティアから聞いたけど、、そのほかのことはあんまり知らない。聞きたいけど聞きたくない。昔のことを聞けばショウはたぶん教えてくれる。でもたぶんその時の顔が私の心をまた締め付ける。自己中になっているのは分かってるし、出会ってから日が浅いっていうのもわかってるけど。それでもやっぱり、、嫉妬しちゃうよね。




はい。どうだったでしょうか?ラストにはファニアの心情を描写してみました。これは初めてしたはず。そしてだんだんとファニアの性格も変えていけたらな、と筆者は密かに企んでいます。さてさて、それはそうと、新しい『族』が出てきましたね。巨人族、まぁ、これからどう関わっていくのかは全く考えておりませんので自分でも楽しみですね。では次の話で!!

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